第百五十九話 中間管理職の星 レイノルド助祭
「おーっし、ここに出してくれー」
今日は朝から、ヴェリーヌさんのお店作りの手伝いをしている銀次郎。
カールさんとユルゲンさんは基礎の部分をすすめてくれていたので、今日は枠組みを作っていく。
アイテムボックスを使って指示された場所に木材を出していくだけなのだが、決まった場所に木材や石材をを置く事ができるので作業が捗るらしい。
「用意していた木材がなくなってしまいましたね。今日はこれで終わりにしましょう」
まだ二つ目の鐘が鳴る前だったが、作業を終わらせてカールさんの商会へ。
明日以降に使う木材を銀次郎のアイテムボックスに入れると、よくそんなに入るなと二代目の息子さんに呆れられてしまった。
鉄板焼きハンバーグで使う削った木をもらい、お礼にパウンドケーキを息子さんに渡す。
するとすぐに母親のレーアさんと、身重の奥様にパウンドケーキを取り上げられていたが、見なかったふりをする銀次郎だった。
「そうだ。ユルゲンさんの息子さんに会いましたよ。もうすぐ養鶏場の増築が終わりそうなので、新しい仕事の依頼をしてきました。まぁ次も養鶏場なんですけど」
養鶏場の事を思い出したので、銀次郎は明日の約束をしてマインツの大聖堂に向かう。
受付でレイノルド助祭に会いたいと伝えると、何故かヴェルナー司祭の部屋に通されるのであった。
「今日はどうされましたか?」
手を前で組み、少し引き攣った顔のレイノルド助祭。
いつもは明るい方ではあるが、隣に座るヴェルナー司祭が気になるみたいだ。
「孤児院を卒業した方で仕事を探している人っていませんか? 私は商人なので商人の立場から孤児を支援していきたいなと考えておりまして」
「素晴らしい考えだと思いますが、具体的な事を教えてもらえますか?」
女教師のコスプレ眼鏡をしているレイノルド助祭が、真剣な顔をすればするほど笑ってしまいそうになる。
だがこのコスプレ眼鏡を用意したのは銀次郎だ。
笑うのは失礼なので、必死に我慢をしながら言葉を続ける。
「具体的にはマインツ郊外で養鶏場の仕事をお願いしたいです。引っ越しが必要ですので家は用意しますので」
レイノルド助祭はヴェルナー司祭に判断を仰ごうと目線を合わせに行く。
しかしヴェルナー司祭は銀次郎に穏やかな笑顔を見せるも、レイノルド助祭には目線を合わせない。
困った助祭は銀次郎に質問をする。
「養鶏場の仕事は経験がなくても出来るものなのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。まずは今ある養鶏場で働きながら仕事を覚えてもらいますので」
レイノルド助祭は再びヴェルナー司祭の方を見るが、司祭は目線を合わせない。
レイノルド助祭はどう判断すべきか悩み、息をゆっくりと吐き出す。
しばらくするとふぅと何度も声に出し始めたので、倒れてしまうのではないかと心配してしまうくらいだ。
「怪我をしてしまった冒険者の孤児でも働けますか?」
「大丈夫ですよ。孤児に声をかけているのは、その様な方の援助も含まれていますので」
「家族で希望した場合、その家族だけの家は用意していただけますか?」
「それも大丈夫ですよ。家族で安心して住める環境は用意しますので」
「仕事を辞めたら罰則などは発生しますか?」
「そんなのは考えてないですよ。働くも辞めるも自由です。まぁ辞めたいと思わせない様に、職場環境と労働条件は良くするつもりです」
レイノルド助祭はまた考え込んでしまったが、今度は息は乱れていない。
少しは落ち着いてきたみたいだ。
「ふぅ。まずはこの様な仕事がある事を伝えて、興味ある者を集めます。ギンジローさんはその者達に説明をしてもらえますか?」
「ありがとうございます。説明会の日にちが決まりましたら教えて下さい」
銀次郎はヴェルナー司祭をチラッと見ると、その視線に気付いたのか握手を求められる。
「なぜ養鶏場を?」
握手をした瞬間にヴェルナー司祭から尋ねられたので、説明をする銀次郎。
「理由はたくさんありますけど、一番は玉子を大量に生産して値段を下げたいと思っています。値段が下がれば、気軽にたべれる様になりますから」
「玉子を気軽にとはあまり想像は出来ませんが」
ヴェルナー司祭はあまり玉子はたべないのかな?
日本では玉子を使った料理やお菓子が溢れていたので、ギャップを感じる銀次郎。
「玉子って健康食なんですよ。栄養価が高いから玉子はたべた方が良いですよ」
「無知で申し訳ないが、具体的に玉子は何が良いのですか?」
銀次郎はタンパク質が豊富な事をヴェルナー司祭に説明する。
タンパク質は人間の体を作る上で欠かせなく、骨や筋肉になると。
玉子は良質なタンパク質があるので、お肌も良くなる。
一日一個たべるだけで健康になると伝えると、ぜひ取り入れてみるかなと柔軟な考えを見せてくれた。
「最近エルザさんが玉子を使った料理をたべる様になりました。肌艶も良くて綺麗になったと思いませんか?」
「ほっほっほ。あやつは確かに変わったな。昔は眉間に皺を寄せていつも怒っていたが、最近は随分おとなしくなったものだ」
えっ? あれでおとなしくなったの?
逆にビックリしてしまう銀次郎に、ヴェルナー司祭は大笑いをしている。
「そうだヴェルナー司祭。レイノルド助祭から聞きましたが、まだまだ教会内には目が悪くて困っている方が多いんですよね? 少しなら融通できますので眼鏡を渡しますね」
レイノルド助祭に眼鏡を渡すと、ヴェルナー司祭から感謝致しますとお礼を言われた。
銀次郎は販売はマインツ家に任せているが、どうしてもメガネが必要な時は言って下さいと伝えて大聖堂を出るのであった。