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異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第二章 ダンスホール編
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第百五十六話 濃いめの将軍コーヒー

「また来年戻ってくる。辛い思いばかりさせてごめんな」



 領主のレオンハルトさんがエルザさんに声を掛けると、ゆっくりと馬車が動き始めた。

見送るエルザさんの瞳にはうっすらと光るものが見えたが、こんな時に声をかけられるのは嫌だろう。

馬車を見送った後はセバスチャンと厨房に戻って、コーヒーで心を落ち着かせようと思う。




 日本最後の将軍が飲んだとされるコーヒーを淹れると、セバスチャンは目を瞑って香りを確かめる。



「また寂しくなってしまいました」



 セバスチャンは将軍コーヒーを口にすると、遠くを見つめながら小さな声で呟いた。



「そうですね」



 銀次郎も同じ方向を見つめながら答え、濃いめのコーヒーを口に含んだのだった。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「それでは行ってきます。夜はオリバーと新しい料理を作るので、時間を空けてもらっても良いですか?」



「葡萄畑の話も聞きたいから、食事をしながら聞くわね」



 エルザさんはそう答えたが銀次郎には策があった。



「すみません。今日は新しい料理の試食なので、料理人とメイドのみんなと一緒に厨房で試食をしてもらえますか?」



 普通に考えれば失礼な事を言ってるのだろう。

でも今日エルザさんを一人にさせたら、家族のいない寂しさが押し寄せてくると思うんだよな。

銀次郎は強引に大人数での食事の約束を取り付けるのであった。



 最初に向かったのは、増築工事が間も無く完了する養鶏農家だ。

建物はほぼ完成していたが鶏がまだ少なく、増やした鶏も環境が変わったせいか玉子をなかなか産んでくれない。



「鶏を集めるのに少し費用が高くなっても、マインツ家で支払いますので安心して下さい。他に何かありますか?」



「人手が少ないから声をかけてるんだけど、なかなか集まらなくてね。ほら此処はマインツの街からは少し離れているから、通うのは難しいからね」



 なるほど、確かに少し離れているかも。

馬車で来たから苦労はしなかったけど、歩くと時間がかかる。

養鶏場のご夫婦に人材はこっちで集めるから心配しないで下さいと伝える。



 さて次は大工さんだな。



「すみませーん。ユルゲンさんの息子さんはいますか?」



 作業中の大工さんに声を掛けると、探していた人物を呼んできてくれた。

年齢は四十歳ぐらいの男性で、ユルゲンさん同様少し小柄だが、気が強そうな人物だった。



「オヤジから話は聞いてるぜ。何度かここでも見かけたが何かあったか?」



 息子さんの名前はハーゲンさん。

弟子を含めて六人の大工を抱えている棟梁である。



「ユルゲンさんにはとてもお世話になっています。ハーゲンさんに依頼したい仕事がありまして」



「仕事の話なら長くなりそうだな。一度あいつらを休憩させるから少し待っててくれ」



 ハーゲンさんがここにいる大工さんに休憩を取らせると言ったので、微糖の缶コーヒーとアンパンを渡すのだった。

そして戻ってきたハーゲンさんと仕事の話をして、この現場が終わって五日の休暇を取ったら仕事を引き受けてくれることになった。



 ハーゲンさん自身は他の建物の修繕をしたりするので休みはないが、他の大工さんには家族がいる。

五日間ほど休暇を与え羽を伸ばさせるそうだ。



 ハーゲンさんとの交渉が終わったので、今度はヒューイさんにお願いされた葡萄畑へと向かう銀次郎とセバスチャン。

しばらく馬車を走らせると、川沿いにある葡萄畑にたどり着いた。

見渡す限りの葡萄畑は壮大で、ここでワインが作られているんだと思うとそれだけで感動する銀次郎。



「あちらの建物に行きましょう」



 セバスチャンに促されてこの畑の持ち主に会いに行く。



「ようこそお待ちしていました。ヒューイ様から話は聞いておりますので、中に入ってください」



 現れたのは痩せ型で少し気難しそうな男性、名前はミュラーさんだ。



「あなたにワイン作りの相談をしろと言われました。赤ワインが素晴らしかったと」



「そうですか……まずはミュラーさんが作ったワインを試してみましょう」



 ミュラーさんはワインの入った樽をいくつも持ってきたので、ギンジローはテイスティング用のグラスと、パンとチーズを用意する。



「ヒューイ様からの許可は頂きましたので、まずはこちらから」



 マインツ家の家紋入りの木樽から、赤ワインをグラスに注いでテイスティングをする。

次は刻印なしの赤ワイン、その次に刻印ありの白ワインと刻印なしを試す。



「おいしいですね。テイスティングじゃなければ、ここで宴会を始めたいくらいです」



 赤ワインはキリッと辛口で料理との相性も良さそうだ。

白ワインは果実味があり、ほんのりと甘口で呑みやすい。

常温で試したが、冷やしたらグイグイ呑れそうだ。



「どうですか? 私の作ったワインは?」



 ミュラーさんは自信に満ちた目で、銀次郎に問いかけるのだった。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「また近いうちに来ます。倉庫の一部を借りたいので、空けておいて下さい」



 ミュラーさんの事を考えると胸が締め付けられるが、嘘はつけなかった。



「マインツ家の刻印……赤の方は外しましょう。白は今年の出来次第ですね」



 残酷な言葉に聞こえるが、銀次郎が用意したワインと比べると、ミュラーさんのワインは圧倒的に力弱かった。

マインツの赤ワインはおそらくピノノワールで、白ワインはリースリング。



 それに対して銀次郎が用意したのは、赤はバーガンディーのプルミエクリュ。

バーガンディーは奥が深くて、一度ハマると抜け出せなくなるので注意が必要だ。



 白は日時計と名前のついた畑のワインで、作り手はプリュム家だ。

フルーティで活き活きとした酸味が特徴で、ワインを呑んだ事がない、おいしさが全く分からないという人に呑んでもらうと、大体ワインが好きになってしまう不思議なワインでもある。



 ヒューイさんから話を受けた時は興味があって面白そうだなと思ったが、関わるならトコトン向き合わないとヒューイさんにもミュラーさんにも悪い。

銀次郎はほっぺたを両手でパンと叩いて、気合を入れ直すのであった。

いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。

将軍のコーヒーがおいしかったので、小説に出しちゃいました。


将軍なのにコーヒーってのがある意味新鮮で、自分が将軍様になった気分になって楽しかったです。

趣向品って心に余裕がないと楽しめないんですよね。

自分に心の余裕はなかったですが、将軍コーヒーはその味とネーミングで

サイコーな時間を私に与えてくれました。


将軍様になりたい方はぜひ試してみて下さい。

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