第百五十五話 酒場での誓い
「まずは君の作った曲を聞かせてくれないか?」
マニーさんの言葉に、エリーゼさんが演奏を始める。
音楽学校に通っているだけあってテクニカルに弾いていたが、銀次郎には感情のないロボットの様に思えた。
マニーさんは腕はあるが形に囚われすぎていて、音楽で何を伝えたいのか分からないとバッサリと切る。
「学校の先生にもよく言われます。音楽家なら表現力を磨けと言われるのですがさっぱり分からなくて……」
悩むエリーゼさんに寄り添うかの様に、エルヴィスは話を聞いてあげていた。
「おやっさんあの曲をピアノで弾いてくれないか?」
あの曲とは、ガラスの靴の持ち主を探す王子様の物語の曲だ。
さっき演奏した曲だが、今回は太鼓ではなくピアノでの演奏。
エルヴィスは部屋にあったギターを持ち、マニーさんがピアノを弾き始める。
太鼓もよかったけど、ピアノもいいなぁ。
またあのガラスの靴の持ち主の女性に逢いたい。
一人の女性を追い求める王子の気持ちが、エルヴィスの歌声を通して痛いほど伝わってくる。
「凄いです……エルヴィスさん王子様みたい……」
そっちかーい!と思わず突っ込む銀次郎。
「王子様の想いが伝わってキュンキュンしちゃいました。私もこの曲弾いてもいいですか?」
「あぁ。見ててやるから弾いてみな。ギンジローもタンバリンで一緒に演ってみろ」
エリーゼさんは先ほどの曲とは違って、うまく感情を音に乗せている。
ギンジローはタンバリンを振りながら、エルヴィスの歌声にハモリを効かせる。
「マニーさん、エルヴィスさん、ギンジローさんありがとうございます。感情の表現について少し分かった気がします」
自分の殻を少しだけ破る事が出来て興奮気味だったエリーゼさんに、銀次郎はひとつ提案をする。
「この物語の曲を、女性目線で作ってみるのはアリだと思うんだよね。エリーゼさん作ってみない?」
アンサーソング的なものを銀次郎が提案すると、それは面白いかもとマニーさんは乗り気だった。
エルヴィスもその考えはなかったが、悪くないと後押しをする。
「私作ってみますね。何もかも絶望の中で出会った王子様との恋の物語。考えただけでキュンキュンしちゃいます」
「俺たちゃキュンキュンって感覚がわからねぇが、君が良い表情をしているのはわかる。それが伝わる様な曲と歌詞を作って来い」
「頑張ります」
マニーさんの仕事が終わったので、それでは呑みに行きましょうかね〜
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「我ら生まれた日は違えども、死す時は同じ日同じ時を願わん。プロージット!」
銀次郎がエールの入った木のジョッキを掲げると、二人が勢いよくジョッキを当ててきた。
「だはぁ〜生き返るぅ〜」
銀次郎はエールを一気に呑み干すと、魂の言葉が出てくる。
マニーさんからは死ぬ時は一緒って言ってたのに、生き返るって変じゃね? と冷静にダメ出しをされてしまった。
「なあギンジロー。あの物語の女性ってその後どうなったんだ?」
「いやーどうなんだろー。よく知らんけど幸せに過ごしたと思うよ」
銀次郎が答えると、なんで俺が幸せに出来なかったんだろうと悔やむエルヴィス。
「女の敵みたいなお前がよく言うよ」
マニーさんが揶揄うと、エルヴィスはこんな気持ちになるのは初めてなんだと真面目な顔で答える。
嘘でしょ? と思ったが、どうやらエルヴィスは本気みたいだ。
「今度の社交ダンスの発表会でね、商業ギルドから特別賞が出るんだ。それがコレ」
銀次郎がアイテムボックスからガラスの靴を取り出すと、エルヴィスが靴を手に取って考え込む。
「おーいエルヴィス大丈夫か?」
「やっと分かった。俺はその女性と出会う為に生まれて来たんだ」
困ってマニーさんを見るとほっとけと目で合図されたので、銀次郎はお代わりのエールを注文する。
一杯目のエールだけこっちに払わせておいて、後の料理とエール代はマニーさんが全て出してくれた。
馬鹿話を続ける男三人の夜は、遅い時間まで続いたのであった。