第百五十四話 オーガごっこでボコボコ
「イチゴミルクと塩飴、こっちの袋にはパウンドケーキとカステラの切れ端を入れておいたから、気をつけて王都まで行ってくるんだよ」
「うん。ありがと」
エミリアがギルド長と一緒に王都へ出張に行くので、それを見送った銀次郎はエデルの手伝いをして、その後は孤児院でボランティア活動をする。
「子供達と遊んでくれてありがとうございます。それで相談とはどの様な事ですか?」
子供達と昼食を作って一緒にたべた後、鬼ごっこをした銀次郎。
まぁ異世界なのでオーガごっこなんだけど、オーガになった銀次郎は子供達を恐怖のどん底へと導こうとしたのだが、返り討ちにあってボコボコにされてしまった。
何度もオーガごっこをせがまれては、ボコボコにされたけど、子供達が喜ぶ顔が見れてよかった。
疲れ果てた子供達はお昼寝タイムなので、その間にシスターに相談をする。
「孤児院では読み書きや計算を教えているんですよね?」
「そうですね。孤児院での子は働き口があまりありませんので、少しでも有利になる為に、最低限の読み書きと計算は教えています」
銀次郎の周りは商売をやっている人間と貴族が多いので、文字は読めて計算も出来るが、それは一部の人だけであり、一般的には文字の読めない人の方が多い。
孤児院の目的は将来的な自立なので、大人になって仕事が出来る様に、シスターは子供達を育てているのだ。
「私は商売をやっていますので、その商売を通して支援が出来たらと考えています。子供達で屋台をやってみませんか? 準備はこちらで致しますので」
「それはありがたい話ですが、子供達に屋台が出来ますでしょうか?」
心配するシスターに、銀次郎はエデルの話をする。
孤児院の年長組と同じくらいの歳の子が、果物商会の見習いから、今や立派な商会長として活躍している事を。
彼の様に成功するといった約束は出来ないが、商売を始める上で必要な資金と物は準備すると。
あとは子供達の努力次第であり、その協力は惜しまない事は約束する銀次郎だった。
シスターは今すぐには返事は出来ないが、子供達と相談してから返事をするとの事だった。
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「ギンジローあの件だな。今ちょうど落ち着いたから話を聞くぞ」
ぶらっと歩いてエルヴィスの店に行くと、俺を連れ出せと合図を出すエルヴィス。
店で接客中のお母さんに伝わる様に大きな声を出して、銀次郎は腕を掴まれてそのまま外に出る。
「ギンジロー良いところに来てくれた。冬用のコートの注文を取ってきたのに、すぐ仕上げろと急かされてな。助かったよ」
足踏みミシンで作る冬用コートは、分厚い生地にも針が通るので、今までのコートよりも防寒性に優れている。
エルヴィスは上客達にオーダーメイドの冬用コートを案内したところ、多くの注文を受けたのだ。
「足踏みミシンのおかげなら、今日はエルヴィスにご馳走してもらおうかな〜」
「あぁ分かった。おやっさんも誘おう」
二人が向かった先はマニーさんの楽器店。
「おやっさん今日予定空いてる?」
楽器店に入ると、エルヴィスが夜に呑みに行かないかとマニーさんを誘う。
「予定はあるが、それが終わったらいいぞ」
返事を聞いたエルヴィスは、商品のギターを手に取りチューニングを始めた。
一音一音確かめながら音を合わせていく仕草は、男の銀次郎から見ても格好良く見える。
「この間演ったあの曲、妙に頭から離れないんだよな」
ガラスの靴の持ち主を探す王子様の物語の曲を、エルヴィスが弾き始めると、マニーさんは太鼓でリズムを刻む。
甘い歌声、儚いメロディー、太鼓の音が王子様の鼓動の様に聞こえる。
曲が終わると、いい女なんだろうなぁとため息をつくエルヴィス。
また女かよと心の中で突っ込んだが、なんか今日のエルヴィスは王子様っぽい。
違和感を感じたので観察してみると、いつもは大胆に開いた胸元が今日は開いていない。
陽にあたって透けた金髪は神々しく、白いシャツに黒のスラックスは王道中の王道。
エルヴィスは視線に気づいたのか、爽やかな笑顔を見せた後、髪をかき上げた。
……新しい女だな。
金髪ワイルドイケメンだったエルヴィスが、王子様キャラになっていた。
今日はトコトン呑んでやるぞと心に誓う銀次郎だった。
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「ピアノの調律に来ました。お邪魔しますねー」
マニーさんの仕事についていくと、きた事のある家に到着した。
「あら〜昨日はどうも」
この家はレイチェルさんのダンス教室の生徒で、エルヴィスのドレスを注文してくれたご夫婦の家だ。
レイチェルさんのダンスホールに、演奏の手伝いに来ていたマニーさんに声をかけ、お孫さんのピアノの調律を依頼していたのだ。
「昨日?」
マニーさんから突っ込まれたので、マインツ家で食事会があった事を話す。
マニーさんもエルヴィスも誘っていなかったので白い目で見られる銀次郎。
だってマニーさんのお気に入りのリンダちゃんは、クーノさんのお気に入り? だからなんとなく気まずくて誘えなかった。
「今日はエルヴィスの奢りって聞いてたけど、ギンジローも半分出せよ」
マニーさんに肩を抱き寄せられ、耳元で囁かれた銀次郎。
面倒な男女問題はだから苦手なんだよなと落ち込むのであった。
「これで大丈夫だ。細かい調整は任せるが、また思った音が出なくなったら呼んでくれ」
娘のエリーゼさんは音楽学校の生徒で、調律されたピアノの音に満足気だった。
「あの〜、マニーさんは作曲も出来ますか?」
「あぁ出来るぜ」
エリーゼさんは学校でピアノを学びながら自分で作曲もやっているのだが、良い曲が出来なくてマニーさんを頼る事にした。
「まずは君の作った曲を聞かせてくれないか?」
いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。




