閑話 赤と白の化粧品 SKーⅦ
皆様のご支援があり、総合ポイントが6,000ポイントを突破しました。
今日はおいしいお酒が呑めそうです。
また記念の日には、銀次郎以外の視点でのSSを書いていきたいなと思っています。
小説を書く上では他者視点はあまり良くないらしいのですが、書きたい事がいっぱいあるんですよね。
自分のモチベーションも上がりますし、記念日に託けておいしいお酒を呑みたいですし。
誤字・脱字報告をいつもしてくれる方、そして感想を書いてくれる方、本当にありがとうございます。
「アデルハイト様、今回はお招きありがとうございます」
カーテシーをすると、胸元のネックレスが揺れるのが分かった。
私の瞳と同じ色、ロイヤルブルーサファイアのネックレスの重みを感じる度にギンジローを思い出す。
「エルザは王都には来れないからその代理で来てもらったけど、あなたと一緒にいると主役の座を奪われそうだわね」
目の前の公爵家夫人は艶のある赤色のドレスを身に纏い、開催した今回のパーティーにはこの国の重鎮と言える顔が多く見えた。
そしてその重鎮達がアデルハイト様の前では、ご機嫌を伺っているただの人みたいになっている。
ただ一人を除いては……
「急に呼ばれたけど何かあっ…… あら? ソフィアちゃんまで一体どうしたの?」
声を掛けてきたのはこの国の王妃、フランツェスカ様。
お母さんと同じ歳とは思えない可愛らしいお姿に、女性である私から見てもため息が漏れる程だ。
そして胸元には大粒で光沢のある真珠のネックレスを身に付けており、誰もがそのお姿に目を奪われてしまう。
「パーティーはフランツェスカを呼ぶ口実よ。ある男性に恩を売っとこうかと思って」
「何それ? 別に良いけど。ソフィアちゃん綺麗ねー。お化粧のおかげなのか、素敵な男性に恋に落ちたからなのかは気になるけど」
顔が真っ赤になるのが分かった。
ロイヤルブルーサファイアのネックレスを握りしめ、心を落ちつかせる事に集中する。
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「あなたシュミット商会とヘルマン商会との取引を、大幅に減らしたのですって? 宰相が泣きついてきたっていってたわよ」
パーティーが終わり、アデルハイト様とフランツェスカ様と三人で紅茶を飲んでいる。
「だって無能なんだもん。それにウチが取引を減らした分、結局フランツェスカが多くお金を出してるのでしょう?」
「あなた知ってていってるでしょ。私ではなく第二夫人ね」
頬を膨らませて口を尖らせるフランツェスカ様に、アデルハイト様は星の形をした砂糖菓子をフランツェスカ様の口に入れる。
私も好きなコンペートーだ。
「少し前にこの砂糖菓子が王都に持ち込まれたの。どこかの商会は買い叩こうとして破談になり、とある商会だけが適正な金額で買い取って私に持ってきたのよ」
「それだけで?」
「そうね。本当はその商会の奥に見えた、砂糖菓子を持ち込んだ商会との繋がりを持ちたかったからね。だってこの商会はソフィアちゃんの婚約者だし、エルザが独り占めしてるんだもん」
ブワッとまた顔が赤くなるのが分かった。
正式な婚約はまだしていない事を伝えると、アデルハイト様から私の知らなかったギンジローの話を聞く事に。
「エルザがね、ゴールドランクの商会にならないとソフィアちゃんとの婚約は認めないって言ったらしいの」
お母さんがそんな事を言ったの?
衝撃を覚えたが、それは欲の少ないギンジローに高い目標を与え成長を促している為だと聞き少し安心した。
「ゴールドランクの商会になるには政治力も必要よ、彼が商品の価格に裏金分を上乗せして、それを賄賂に使う様な老獪さを持っているとは思えないわ。私が切ったシュミット商会やヘルマン商会みたいにね」
「でも彼は私たちの知らないものを多く持っているわ。例えばお化粧品を売り出せば、それだけでゴールドランクの商会になれると思うけど」
「あのお化粧品を一度使ってしまったらもう手放せないわね。下手をすれば彼の命を奪ってでも、お化粧品を手に入れたい商会や貴族が現れるかもしれない程に」
恐ろしい事を口にしたアデルハイト様。
否定して欲しかったけど、フランツェスカ様まで頷いている。
「心配になっちゃった?」
アデルハイト様の言葉に思わず頷くと、その為にお母さんが表に立ってギンジローを隠しているのだと教えてくれた。
それにゴールドランクの商会長になれば、財力の他に政治力も権力も身につけているだろうから、命を狙われても自分で守れるはずだと。
「あとね。つい先日お手紙とコレを貰ったのよ」
テーブルの上に出されたのは、手紙とお化粧品一式だった。
「えっ? 私には届いていないわよ」
「使いで来た魔法使いの男性と商業ギルドの女性曰く、前回はエルザの依頼だったから王家も受け取ったが、今回は違ったから門前払いだったそうよ」
アデルハイト様がフランツェスカ様宛に受け取った、手紙とお菓子の入った袋を渡す。
手紙には展示会で購入してくれたドレスがもうすぐ出来上がるので、王都に行くついでにご自宅までお届けに行きます。
フランツェスカさんがおいしそうにお菓子とケーキをたべている姿が印象的だったので、日持ちするお菓子を一緒に入れておきますといった内容だった。
「面白いわよね。ついでに届けますって。それにお菓子とケーキを美味しそうに食べていたからって、王妃に対してこの文章を書けるのは大物だわ。まぁエルザの友達だとしか伝えてはいなかったけれど」
「申し訳ございません」
「良いのよ。ソフィアちゃんって昔は冷たい印象だったのよ。それがこんな表情もする様になったのは、大物の彼に出会ったからでしょ?」
揶揄われている気がする。
「ちなみに私には、赤色のネックレスが普通のしかなくてすみませんでした。お詫びに私の好きな赤色が特徴的な最高級のお化粧品を贈りますって。その人の肌によって合う合わないがあるから、合うかどうかは分かりませんけどって書かれていたの。それで試してみたら相性抜群で凄いのよ」
「えー私も試してもいい?」
「どうしようかな? アデルハイトさんの様な綺麗系の女性が使う化粧品ですって書かれていたから、可愛い系のフランツェスカには合わない気がする」
「意地悪しないでアデルハイト貸して、試してみるから」
腕で化粧水とクリームを塗って確かめると、凄すぎる、全然違う、こっちの方が良いと、フランツェスカ様は化粧品を持って離さない。
「そのお化粧品を扱う彼が早くゴールドランクの商会になって、ソフィアちゃんと幸せになってもらいたいのに、ライバルとなる商会を助ける王家には使って欲しくないわね〜」
「だからそれは第二夫人の仕業なの。ねぇソフィアちゃん私にこのお化粧品を贈ってって言ってくれない? 赤色が特徴的ってアデルハイトには言ってたけど、白色の部分の方が多いじゃない。私には白色が似合うって言ってくれたのよ。このネックレスも白色でしょ? 私の為のお化粧品だとは思わない?」
そういえばギンジローが言っていた事がある。
女性は美容の事になると人が変わると。
目の前の王妃と公爵家夫人を見て、その気持ちが少し分かった気がしたのだった。