第十四話 虎とバウムクーヘン
エルザ様が銀次郎の紅茶が飲みたいという事で、一時休戦になった。
化粧品という不慣れなフィールドでは輝けない銀次郎だがこの場は違う。
銀次郎の本職であり、落ち着きを取り戻せる場だ。
銀次郎が持っている一番のティーカップで紅茶を淹れる。
お茶請けは先日ネットショップで購入しておいた、関西マダムのバウムクーヘンだ。
イメージもエルザ様にぴったりだし。
「この紅茶は美味しいわね。あとこのバウムクーヘン? 見た目は丸太みたいだけどしっとりとして好きかも」
(あなたをイメージして出しましたから)
さっきは攻められ続けたので、心の中でそう思う銀次郎。
するとエルザ様はこっちを見て微笑む。
「ところで、ギンジローさんはご結婚されているのかしら?」
急にジャブが打たれる。
この会話をするゴールはどこだと考えるが、思いつかない銀次郎。
「私は独身です」
とにかく情報収集だ。置きの一手で様子を見る。
「あらそうなの? ギンジローさんみたいな息子が欲しかったのよねぇ」
軽いジャブの後は、渾身のストレートである。
何を言ってるか分からないが、とにかく危険を感じる銀次郎。
こっちを見つめる虎。
少しだけ微笑んで紅茶に口をつける。
沈黙が怖い。
汗が一気に噴き出す銀次郎。
この流れこのフィールド内には居たく無いので、思いきって話を変える。
「そういえば先ほど、女性を綺麗にさせる方法と仰っていましたが、一つ思いつくことがあります」
紅茶を置き、今度は優しく微笑むエルザ様。
あれ? 美容関係の話なのに何だか優しい。
なんかこの場所居心地がいいなと錯覚する銀次郎。
「エルザ様の髪型はハーフアップにしていてとても素敵ですが、お肌の基礎化粧品と一緒で髪にも栄養を与えると更にお綺麗になると思います」
何だか自分が化粧品の営業マンになったかの様に、言葉がすらすらと出てきた。
そんな自分に少し驚いていると
「お綺麗だなんて嬉しいわ。ギンジローさんって凄いのね」
さっきまで虎だった奥様が、本当に優しくなった。
冷静になってよく見ると本当にお綺麗な方で、虎だと思っていた自分が、ひどい奴なんじゃないかと感じる。
銀次郎はアイテムボックスに収納されていた、シャンプーとリンス後はコンデショナーを取り出した。
これは以前ドラッグストアでもらった試供品だ。
一回分の量しか入っていない小さい袋を渡す。
「こちらがシャンプーと言いまして髪の汚れを落とすものです。こちらのコンデショナーは髪に栄養を与えてくれます」
説明する銀次郎。
メイド長のコーエンさんは後ろで話を聞く。
「この袋はお試し品ですが、効果は十分にあると思います。実際にお渡しする品は、こちらより効果の高い特別な物をご用意しますので」
化粧品とシャンプーは、明日コーエンさんが宿屋ハングリーベアーに取りに行くと言う事で話がついた。
銀次郎が受け取った商品代は、基礎化粧品が大金貨10枚。
日本円で計算すると100万円だ。
高級な基礎化粧品のセットだが、ネットショップでの購入金額は一セット小金貨4枚。
こんなに多くの金額はいらないと断ったが、エルザ様はこれでも安いくらいだと言う。
結局この金額じゃ悪い気がしたので、シャンプーはサービスすると伝えた。