第百五十三話 初手マグロの兜焼き
いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。
もうすぐ総合ポイントが6,000ポイントに到達しそうなので
SSを今から書いて、到達したら投稿をしようと思います。
「生も美味しいけど、カキのアヒージョ? も美味しいわね」
キーランドさんのプロポーズで始まったマインツ家のバーベキュー。
エルザさんが牡蠣のアヒージョに舌鼓を打っている中、銀次郎はふとソフィアの事を思い浮かべる。
いつかこんな時が自分にも来たら良いなと考えていると、マグロの兜焼きにチャレンジしているオリバーを発見。
ネットショップで大間のマグロの兜焼きセットを見つけたから、なんとなくポチったのだけど、故郷で最高級の魚だと言ったら、オリバーの心に火がついたみたい。
バーベキューが開始されて結構な時間が経つけど、オリバーは大物に取り掛かってしまったため、他の食材にあまり手をつけられないでいた。
「料理長、あっちでホタテと言う貝がありましたけど食べましたか?」
「食べとらん。今はこれを仕上げるのに集中しているから後で食べる」
「オリバー料理長の好きな厚切りステーキが、あっちで出来上がりましたよ」
「うむ。厚切りステーキはバーベキューの主役になれるが、今日の主役はこっちだ」
オリバーは腕を組みながら、マグロの兜焼きを最高の状態に仕上げようと焼き加減を見ている。
バーベキューなんだから焼きっぱなしにして他の食材をたべれば良いのに、なんでオリバーは初手から大物に夢中になってしまうんだろう。
お酒も入って悪ノリで邪魔し続ける料理人達に、とうとう怒ったオリバーがゲンコツを食らわせている。
「ハートマンさん初めまして。今回はこの様な素晴らしい物を作って頂き、ありがとうございました」
リサさんが親方に髪飾りを見せて感謝の気持ちを伝えるが、作ってくれと言われたから作っただけだと無愛想に答える。
商業ギルドのギルド長が、また贈答用の剣を作って下さいとお願いしたが、そっちは見事に断られていた。
「ギンジロー君、海の食材をよく手に入れられたね」
ヒューイさんが声をかけてきたので、馬車に冷凍庫の魔道具を積めば、マインツや王都でもたべれるかも知れませんよと伝える。
「それってソフィアの氷魔法のやつだっけ? シルバーランクの冒険者が旅行に行くって言ってたから、王都に持ってきてもらえる様に依頼しようかな」
ヒューイさんはキーランドさんとローザちゃん、そして冒険者ギルドのギルド長を捕まえて話をしている。
冷凍庫の守秘契約と、二人の結婚の御祝儀込みの指名依頼に、キーランドさんも了承したようだ。
後日談だが、せっかくの旅行がパーティーメンバーと一緒だったので、今度は二人きりで旅行に行くのであった。
「ギンジローさん。エールって冷やした方が美味しいんですか? 常連さん達がみんなキンキンに冷えてやがるーって言ってたので気になっちゃって」
ルッツは純粋な目で質問をしてきたが、答えなんて一つしかない。
近くにいたクーノさんに声をかけ、キンキンに冷えたエールのグラスを差し出す。
「ギンジロー君のせいでへそくりがなくなっちゃったよ〜」
伯爵家の次男とは思えない愚痴をこぼしたクーノさんは、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながらエールを飲み干していく。
「くぅ〜、やっぱりエールの泡には夢と希望が詰まってるなー」
「クーノ様、エールには夢と希望が詰まっているのですか?」
「人は夢や希望がないと生きてはいけない。だからボクはこのエールもないとダメなんだ」
冷静に聞いたらダメ人間の発言だが、ルッツの心には刺さったらしい。
ボクも早く大人になって、エールを飲むんだと意気込むのであった。
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「皆さん急遽お呼びしてすみませんでした」
「いやいや。領主様が声をかけてくれるなんて光栄な事だよ。ただね、急いで正装で来たけど、失敗しちゃったかな」
カールさんとレーアさんを始め、レイチェルさんのダンス教室の皆さんは、正装でバーベキューを楽しんでいた。
一応服装は気軽な格好でとは伝えてもらったが、領主の食事会がこんなに砕けているとは思わないもんね。
「ねぇギンジローさん。今度の社交ダンスの発表会が終わったら、ダンスホールのみんなでパーティーをしない?」
今まで社交ダンスを教わって踊るだけで、生徒達の交流はあまりなかった。
それが発表会という共通の目標が出来て、話す機会が増えて仲良くなったのだと。
「良いですね。パーティーしましょうよ」
レイチェルさんはパーティーではもちろんダンスを踊るから、練習をしないとねと銀次郎の手を取ってダンスを始める。
「ギンジロー君いいねー。いま音楽隊を呼んでくるから。みんなで踊ろうよ」
クーノさんがバーベキューを楽しんでいる音楽隊の皆さんに声を掛けると、楽器を用意してレイチェルさんの前に現れた。
「どの曲に致しますか?」
すると冒険者達から、この国で一番有名で一番愛されている曲のリクエストが入る。
それは銀次郎も大好きなあの曲、ベッケンバウアー3世の物語だ。
草原を一騎で駆け上がる蹄の音の様に、繰り返し同じリズムで太鼓が叩かれる。
それに合わせて跳ねるように足を動かすレイチェルさん。
周りの生徒達も同じ様に動かすと、冒険者達からいいぞーと声が上がる。
ベッケンバウアー3世が敵陣に囚われていたお姫様を救出すると、ここからはみんなで大合唱だ。
見事敵を打ち倒すと、喜び涙を流す人も。
「皆の者よ!ベッケンバウアー3世にプロージット!」
レオンハルトさんが声を上げると、みんなもグラスを掲げて声を上げる。
するとシルバーランクの冒険者であるエマさんが、領主様にと声を上げる。
「領主様に!プロージット!」
「領主様に!」
「ベッケンバウアー3世に!」
「領主様に!」
何度も繰り返される乾杯に、一体感を感じる銀次郎だった。
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「親方呑んでますか?」
「ふん。エールやワインでは酔えんわい。何かないのか?」
銀次郎は数量限定で発売された、いつもの亀甲ボトルのシロをアイテムボックスから取り出す。
「数量限定らしいんですけど、こっちは少しスッキリしていてキレがあるらしいですよ」
亀甲ボトルのシロをロックで呑むと、確かにいつものとは少し違う気がした。
ハイボールに合いそうだなと思ったが、親方はいつもロックかストレートなので水の様にガブガブと呑んでいる。
「これもうまいな。まだあるか?」
期間限定という言葉に弱い銀次郎は、箱買いをしていたのでアイテムボックスからもう一本シロを取り出す。
「アントニオさん達大丈夫ですか?」
隣で冒険者達に囲まれているアントニオさん達を見て、親方に聞くと大丈夫じゃろと興味なさそうに返事をする。
冒険者達は親方に武器や防具を作ってもらう程の実力はないので、まずはお弟子さん達に作ってもらえないかお願いをしているのだそうだ。
「エミリアの件ありがとうございました」
親方と二人っきりなので、今のうちに伝えておこうと親方に感謝の気持ちを伝える。
「ふん。今度からあのお嬢ちゃんに言えば、王様の馬車ウイスキーは手に入るんじゃろ?」
「王様の馬車ウイスキーも、ザ・スコッチも手に入りますよ。ただウイスキーの世界は奥が深いですから、今度別のウイスキーを持って行きますね」
「生ハムもじゃ」
「だから生ハムの三十六ヶ月熟成は手に入らないって言ったでしょうが」
「ふん。ならばスキヤキじゃ」
「すき焼きはご褒美でたべるもんであって、そんな普通に何回もたべるもんじゃないんですよ。まぁすき焼きは好きなんで別に良いですけど」
「スキヤキで決まりじゃな。カキも持ってきても良いぞ」
「すき焼きですね」
「カキもな」
絶対に牡蠣は持って行かないと心に誓った銀次郎は、アイテムボックスから三本目のシロを取り出し、今度はストレートで親方に注ぐのであった。