第百五十二話 祝福
「こちらは領主のレオンハルト様からの指示ですので、速やかにお願い致します」
冒険者ギルドに緊急招集がかかる。
その場にいた冒険者達とギルド員は、数名を残してマインツのお城へと急いで向かったのだった。
「すみません急遽配達に来てもらって」
「いいって事よ。それよりコレも渡しておくからな」
大量の肉の塊と牛タンを受け取った銀次郎は、マインツ家の料理人に渡して準備を進めてもらう。
「ギンジローさん。氷をもらえますか?」
「おーエデルごめんね〜。果物が冷えたらカットもお願いね」
「ギンジローさんエールの樽を持ってきましたけど、本当にいいんですか?」
「大丈夫。支払いはマインツ家だから。それに今日はハングリーベアーは暇になると思うから、その分の埋め合わせだね」
エールの樽を仕入れ値ではなく、販売価格で支払う銀次郎。
ルッツにはそのまま手伝いもしてもらうので、お小遣いも少し渡しておく。
「良いのかしら? 私たちがお邪魔しても」
レイチェルさんと社交ダンスの発表会に参加するみんなは、急遽お城に呼ばれたので戸惑いを見せる。
「大丈夫ですよ。領主のレオンハルトさんが明後日王都に戻るので、バーベキューをやりたいって言ったんで」
事の始めは外商の後、銀次郎が予定を聞かれた事だ。
冒険者ギルドの受付嬢ローザちゃんが、もう一度たべたいと言った海の幸。
冒険者からの相談があり銀次郎が探して見つかったので、オリバーとこの後試食をしてみると伝えたのだ。
海の幸はマインツでは貴重であり、レオンハルトさんの好きなバーベキューは肉だけではなく海鮮バーベキューもある事を話すと、急遽お城の庭でバーベキューが開催される事になったのだ。
前回のバーベキューも急遽開催だったので、使用人の方々の段取りは良くなったのだが、今回はマインツ家以外の招待客がいる。
主役であるローザちゃんとキーランドさんの仲間の冒険者達。
領主の呼びかけなので、冒険者ギルドのギルド長もいるらしい。
エミリアの所属する商業ギルドにも招集がかかっており、見慣れた顔が集まっている。
他にはレイチェルさんのダンスホールの生徒達。
せっかくなので声をかけたら、マインツ家の食事会に呼ばれるなんて光栄ですと、家族も含めて一緒に急遽来てくれたのだ。
「親方は火を熾すのが得意ですよね。全部のバーベキューコンロに火を用意して下さい」
銀次郎は招待した親方を見つけると、大量の備長炭を渡す。
相変わらず無愛想な親方だったが、備長炭を手に取って悪くない木炭だなとか言っていた。
オリバー達料理人は、なかなか扱えない海の幸に興味津々だ。
ネットショップで大人買いした牡蠣は、広島の牡蠣の他に伊勢湾の牡蠣、更には宮城県の松島と北海道は厚岸のブランド牡蠣も用意した。
「急遽集まってくれてありがとう。今日は海の食材も用意されていると聞くので、心ゆくまで楽しみましょう!プロージット!」
レオンハルトさんがグラスを掲げると、参加者全員もグラスを掲げる。
「プロージット!」
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「キーランド君はシルバーランクで有望な冒険者なんだって? しかもローザ嬢の思い出の食材を探すなんて大したものだ。ところでローザ嬢が探していた物は、これで間違いないのかい?」
「はい……恐らくこちらだと思います。領主様の前で緊張致しますが、失礼して頂きます」
ローザちゃんはみんなが見つめる中、氷の上に置いた生牡蠣を一つ取りそのまま口に入れる。
「あぁ……これです……この石が思い出の石です」
ローザちゃんが満面の笑みを浮かべながら涙を流すと、キーランドさんがローザちゃんの前で膝をついて右手を差し出す。
「これが俺の気持ちだ。ローザちゃんの欲しい物はこれからも全て用意する。絶対に幸せにするから、俺と結婚してくれないか」
マジか! このタイミングでプロポーズをするとは思わなかった。
答えはどうなのか、参加者全員がローザちゃんに注目する。
時間にすると二秒か三秒くらいだったが、この沈黙が永遠とも感じられるくらいに長く感じる。
どうなんだ?
みんなが見守る。
どっちなんだ?
ローザちゃんの答えは……
「私の生まれ故郷に旅行に行って、またこの石を食べさせてくれるのでしたら」
よっしゃーと声を上げる冒険者達。
自然と拍手が湧き、幸せな空気に包まれる。
「祝福をお願いしても良いかしら?」
エルザさんが促すと、招待されていたマインツ大聖堂のヴェルナー司祭が二人の前に立つ。
「二人の魂は今この時をもって一つに結ばれた事を証明する。二人に祝福を」
ヴェルナー司祭の言葉の後に、キラキラと輝いた光が二人に降り注いだのだった。
キーランドさん、ローザちゃんお幸せに。