第百四十九話 伝説級のアクセサリー
「ローザちゃんコレだと思うって。つーことで頼むなギンジロー」
冒険者ギルドの受付嬢ローザちゃんと、食事の約束を取り付けた冒険者のキーランドさん。
ローザちゃんは石の正体が分かり、喜んでくれたそうだ。
職場の同僚も連れていくので、食事の日が決まったら教えてって。
同僚を連れていくのは警戒されている?
考えてもその辺に疎い銀次郎には本心がわからない。
キーランドさんには食材を仕入れるから少し待って下さいと伝え、モーニングを済ませてヴェリーヌさんのお店作りに向かうのであった。
「ギンジローさんこっちに木材を」
「それ終わったらこっちにも頼む」
ここでのお仕事はアイテムボックスを使って、木材を動かすだけだ。
銀次郎にとっては簡単な仕事なのだが、これが意外と助かるみたいだ。
役に立てて良かった。
「ギンジローさんのマジックバッグは容量が大きいですね。しかもこの位置に出してと言ったら、その通りに出てきますからね」
実際はアイテムボックスなのだが、マジックバッグが優秀でまだまだ入りそうだし、指定された位置に出せるのでもっと細かい指示があれば言って下さいと伝える。
「商人としては、そのマジックバッグは羨ましいですな。もし良かったら今度の伐採の手伝いをしてくれませんか? 報酬はお支払いしますので」
カールさんは許可された森から木の切り出しを行うので、木の運送を手伝って欲しいとの事だった。
「そんな事でしたらいつでも言って下さい。大工仕事をタダでやってもらっているのに報酬なんて要りませんから」
するとユルゲンさんが、アンパンと缶コーヒーを報酬でもらってるぞと真顔だ。
今回はヴェリーヌさんのお店だが自分のお店を作る時はユルゲンさんの所に依頼して、お金もしっかりお支払いする事を伝える銀次郎。
「金より俺はこっちの方が良いんだがな」
嘘でしょ? と思ったが、どうやら本気っぽかったので、その時が来たら改めて話をしましょう。
「基礎と土台は出来たが問題はガラスだな。こればっかりは失敗が許されねぇ」
銀次郎のイメージはお洒落カフェだ。
店内が見えるように表面をガラス張りにするのだが、異世界ではガラスは高価で貴重だ。
しかもこんな透明度の高いガラスなんて無いので尚更らしい。
ガラスと扉の取り付けはユルゲンさんの息子さんにも手伝ってもらう事になった。
ちなみにユルゲンさんの息子さんは、銀次郎がマインツ家から依頼をした養鶏場の増築をしている。
そう言えばもうそろそろ、作業が終わるって言ってたもんな。
カールさんとユルゲンさんに、明日から三日間はお休みする事を伝える。
二人はその間も作業をしてくれるので、こしあんと粒あんのアンパンと微糖の缶コーヒーをケースで渡した。
もちろん最近レーアさんが気に入っているクリームパンも一緒に。
「ギンジローさん大変申し訳ないが、あのケーキも良いですか?」
「パウンドケーキですね。もちろんですよ。ユルゲンさんも持っていって下さい」
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カールさんとユルゲンさんと別れてから、銀次郎は商業ギルドに寄ってエミリアと一緒に親方の工房へ。
「エミリアちょっと親方を呼んで。返事がなかったらそのまま入るから」
エミリアに工房に入る儀式をお願いするが、エミリアの呼びかけにあっさりとアントニオさんが出てきた。
あれっ? もしかしていつも無視されていた?
一抹の不安を抱えながら工房に入り、親方の作業を待つ。
しばらく待っていると親方が無愛想に作業場から出てきて、テーブルの上に銀色の箱を置く。
昨日依頼したクーノさんの奥様、リサさんに贈るアクセサリーとペアの指輪の箱だろう。
「開けても良いですか?」
「ダメじゃ」
このミスリル製の箱は親方にしか作れない物の一つで、最初に魔力を流すと所有者として認識されるらしい。
それが盗難防止の機能となり、所有者にしか開けられない箱となっている。
「中身はバラの形をしたミスリルの髪飾りじゃ。魔力を流せばその者の持つ魔力の色に変化するわい。身代わりも付与しておいたから、貴族にはもってこいじゃろ」
魔力? 身代わり?
理解が追いつかない銀次郎に、アントニオさんが説明をしてくれた。
髪飾りは所有者の魔力の特性によって色が変化するので、本当に世界で一つだけの贈り物となる。
そして身代わりが付与されていると親方は言ったが、もし所有者に危害が加わった時に、この髪飾りが一度だけ衝撃を吸収してくれるのだと。
今は平和な世の中になったが、貴族ならいつ命を狙われてもおかしくはない。
その命を一度だけ守ってくれるアクセサリーがこの髪飾りとなりますって、親方とんでもないもんを作ったな。
ちなみに指輪の方には、エミリアの指定通り毒無効が付与されている。
身代わりの方が良かったのでは? と思ったが、衝撃は吸収出来ても毒は吸収できない。
貴族が命を狙われる場合は毒殺が多いので、毒無効の方が実用的だろうと。
ちなみに毒耐性付与は探せば見つかるらしいが、毒無効は都市伝説であって世には出回っていない。
エミリアになんでそんなのお願いしたのって聞いたら、親方なら作れそうだなって……
親方の報酬分であるウイスキーと大金貨をエミリアが渡すが、親方はお金を受け取らなかった。
「こいつ以外に興味はない」
親方としてはウイスキーが手に入れば、あとはどうでも良いらしい。
親方はウイスキーに夢中なので、アントニオさんに報酬分の大金貨を渡す。
「親方が受け取らないんで、大金貨はアントニオさん達で受け取って下さい」
エミリアが商業ギルドに戻って仕事をするって言うので、おつまみだけ置いて工房を後にする。
「エミリア明日もよろしくね。セバスチャンが迎えにきてくれるから、今度は寝過ごさないようにするよ」