第百四十七話 王様の馬車ウイスキー
「粒あんとこしあんのパン渡しておきますね。クリームパンも欲しい? 大丈夫ですよ。たくさんありますから家に持ち帰って下さい」
昨日は楽しいお酒を呑んだが、今日も楽しいお酒が呑める様に頑張ろう。
銀次郎はヴェリーヌさんのお店作りをする予定だったが、交渉が必要になったのでこの場を任せる事に。
「すみませーん。親方いますかー。出てこないのは知ってますので入りますよー」
いつも通りに工房に入ると、親方はアントニオさんが作る馬車の車輪を見ていた。
「何じゃ朝から」
「今日はお願い事があって来ました」
「お願い事? あぁいいぞ」
えっ? 内容は聞かないの?
肩透かしを食らった銀次郎だが、大事な話なので少し時間をもらう。
「実は親方にアクセサリーを作って欲しいのですが」
「かまわんぞ?」
気に入らない仕事は受けないと噂の親方だが、あっさりと依頼を受けてくれた。
一応こちらからのお願い事なので、老舗の高級羊羹と亀甲ボトルのウイスキーを渡す。
「ちょうど良かったわい。喉が渇いていてな」
親方は朝から亀甲ボトルのウイスキーを、ストレートで呑み始めた。
「三つ目の鐘が鳴った後に、商業ギルドのエミリアと一緒に工房に来ます。理由は女性に贈るアクセサリーの作成依頼です」
親方がおつまみが欲しいと言って来たので、鮭とば界のスーパースター、とば二郎ブランドをアイテムボックスから取り出す。
「うまいな。もっとあるか?」
二袋目のとば次郎を開けて一緒にたべる。
「一杯呑むか?」
「朝からですか? まぁ呑みますけど」
銀次郎もグラスに亀甲ボトルのウイスキーを注ぎ、ストレートでキメる。
「くぅ〜、とば次郎との相性抜群でうまい」
「そうじゃな」
空になった親方のグラスにウイスキーを注ぐ。
「実は商業ギルドのエミリアが、マインツ家の次男クーノさんにある提案をしました」
銀次郎のグラスも空になったので、ウイスキーを注いでグイッと呑む。
朝からウイスキーをストレートで呑む背徳感がたまらない。
「奥様に贈るアクセサリーを親方に作ってもらおうと」
とば次郎がなくなったので、三袋目を開けると親方は自分のグラスにウイスキーを注ぐ。
「で?」
銀次郎のグラスも空になったので、ウイスキーを注ぐが少ししか残っていなかった。
グラスを呑み干して今日の朝にネットショップで購入していた、高級ウイスキーを取り出し新しいグラスに注ぐ。
「初めて呑むけどうまいなぁ」
銀次郎は空になった自分のグラスに、高級ウイスキーを注ぐ。
とば次郎もうまいけど、このクラスのウイスキーだとそのまま味わった方がいいかな。
「おい!」
「何ですか?」
「何ですかじゃないわい。それは何じゃ?」
「何じゃって高級ウイスキーですよ。シングルモルトのロールス……王様が乗るようなすごく乗り心地の良い馬車みたいに、滑らかに走るというか飲み口が良くてしかもこれ18年ものですよ。シェリー酒を仕込んだ樽で熟成させているので、深みがあってこんなウイスキー初めてですよ」
あっという間にグラスが空になってしまったので、もう一杯注ごうとすると親方が顔を真っ赤にしている。
「親方顔が真っ赤ですよ。もう酔っ払ったんですか?」
「馬鹿もんが、その王様の馬車をよこせ」
新しいグラスを用意してシェリーオークの18年ものを注ぐ。
「王様の馬車とはこれほど滑らかに、口の中に入ってくるもんか……」
親方は何か考え事をしているみたいだが、そういえばお願いをしなくてはいけなかった。
「どこまで話しましたっけ? とにかくエミリアがウイスキーを持ってこの後来ます。親方にウイスキーと大金貨1枚の依頼料、後は製作費で大金貨1枚だったかな? とにかくお願いしに来ますので、エミリアの依頼を受けてもらえませんか? あいつって不器用だけど、今回自分で考えて動いたんですよ。それを実現させてあげたくて、エミリアと一緒にお願いしに来る前に、何とか親方に頼もうと思って」
銀次郎は空になった自分のグラスに、黄金の液体を注いでいく。
噂には聞いていたけど、18年のシェリーオークはこんなに素晴らしいとは。
「ウイスキーはこれと同じもんか?」
「そうですよ。ものすごく高いんですからね。しかも数もないから貴重ですし」
「二本じゃ」
「在庫はあと一本しかないですって。それにさっきも言いましたけど、これって高くて貴重なんですよ。今度また仕入れておきますけど、その時はまたエミリアから何か依頼を受けて下さいね」
「ふん、依頼を受ければ良いんじゃな?」
「はいはい。また後で来ますからお願いしますね親方」
「あとこれもじゃ」
親方が亀甲ボトルのウイスキーを手に取る。
「親方も欲張りですねー。良いですよ」
銀次郎は素晴らしいウイスキーを呑む事が出来て気分が良かったので、亀甲ボトルのウイスキーをサービスで五本置いて工房を出た。
ハイピッチでウイスキーをストレートで呑んだので、少しぐるぐると頭が回った。
しかしスキップをすると何だか楽しくなったので、そのままスキップでハングリーベアーに戻るのであった。