第百四十四話 異世界で伊勢海老
「なぁ坊主。旦那様が俺らに特別給金をくれたのは坊主のおかげって聞いたが何したんだ?」
場所はマインツ家の厨房。
商談も終わりセバスチャンと至福のひと時を過ごしていると、オリバーがやってきた。
「時に何もしていないですよ。オリバー達が頑張っている事を伝えただけですから」
「そうか。そう言えばなんかすげー靴があるんだって? コーエンが羨ましがってたぞ」
確かにあのブランドの靴っていったら、コーエンさんは欲しくなるよな。
そんな事を考えながらコーヒーを飲んでいると、オリバーが真剣な顔になって相談してきた。
「実はよ。コーエンと街の食堂にマインツソースを届けに行った時、これから街での仕事が増えるからってシャツを仕立ててもらったんだ。そのお礼をしないといけねぇんだが、何が欲しいのか聞けてなくてな。給金ももらったし、その靴を売ってくれねえか」
「エルザさんと同じ靴だと仕事用って感じはしないので、仕事でも履ける同じ作り手の靴でもいいですか? コーエンさんきっと喜んでくれますよ。小金貨3枚で高いですけど」
「おーちょうどいいや。旦那様から小金貨3枚もらったところだからこれで頼むわ」
オリバーから手渡しで小金貨3枚を受け取る銀次郎。
レオンハルトさん、こんな大金をみんなに渡していたんだ。
確かにマインツハンバーグのブランド力を高める鍵はマインツ家の料理人達にかかっているけど、すぐに動く事が出来るのが、領主様の器の大きさなんだろうな。
オリバーに靴は三日後に引き渡す事を約束する。
「そうだ。石みたいなたべものって何だか知ってますか?」
「なんだそりゃ。石みたいな食べ物ってだけじゃわからんぞ」
銀次郎は昨日の事を思い出し、焼かないでたべるのが一番だが焼いたのもうまい石で、港町の市場で売っていたそうだと話す。
「港町ってどこだ? まぁ港町ってくらいだから貝じゃねーのか? 新鮮な貝なら焼かずに生で食べると美味いって聞くしな」
やるねぇオリバー。
石みたいな貝っていったら何だろうな?
オリバーにありがとうと伝え、それが正解だったらこんど酒を奢る事を約束する。
「ところでエミリア。クーノさんの大金貨5枚の件どうするの?」
「ん……それ……親方の火酒大金貨一枚で仕入れて」
エミリアの考えは銀次郎が親方のウイスキーを大金貨1枚で仕入れて、親方に一点物のアクセサリーを作ってもらう。
材料費と、親方の製作費、それと銀次郎の儲けと商業ギルドの儲けにそれぞれ大金貨1枚で合計大金貨5枚の計算だそうだ。
結構などんぶり勘定なのだが、なぜか魅力的に感じる。
「面白そうだね。親方が作ってくれるならいいよ」
エミリアには明日の三つ目の鐘が鳴る頃、商業ギルドに迎えに行くと伝える。
「ギンジロー様、それでしたら馬車を出しますか?」
「セバスチャンありがとう。でも大丈夫です。その代わり三日後は馬車を出してもらっていいですか?
一つ目の鐘の鳴る頃にハングリーベアーまで来てもらって、商業ギルドに寄ってエミリアを乗せていく感じで」
そろそろ帰ろうかなと考えていると、今度はクーノさんが厨房に現れた。
「ギンジロー君、今日は呑みたい気分なんだ。一緒にどっか行かない?」
リサさんには靴を贈る約束をしたので、今日は銀次郎と呑みに行っても良いと許しが出たそうだ。
確かに今日の商談でうまくいかなくて、気持ちが落ちてるもんな。
前に気持ちが落ちた時、クーノさん呑みに誘ってくれたし。
「いいですよ。ちょっと用事もあるので最初にハングリーベアーで食事をしませんか? 二軒目はあのお店で」
「ギンジロー君わかってんね。ありがとう」
セバスチャンに送ってもらおうとすると、エミリアも呑みに行きたいと言ってきた。
ハングリーベアーは良いんだけど、二軒目はちょっとなー。
何となくクーノさんも気まずい空気を出していると、セバスチャンがハングリーベアーで食事が終わったらエミリアを送ると申し出てくれた。
さすが仕事の出来る男である。
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「エールを樽で」
「樽だと小金貨1枚と銀貨2枚ですけど……」
ハンツがクーノさんにお金が払えるのか心配している。
「ハンツ大丈夫だよ。この人偉い人だから」
「ボクは偉くなんてないよ。ただお金に少しだけゆとりがあるんだ。今日は楽しく呑みたいから、ここのお客さんに一杯エールをご馳走させて」
するとハンツが声を張って、クーノさんがエールを全員に振る舞う事を伝える。
クーノさんの向かいの席に座るエミリアが商業ギルドの制服を着ているので、冒険者達からは商業ギルドのお偉いさんからだぞと喜んだ。
もっと偉い人なんだが、クーノさんは何も言わずエールの入った木樽のジョッキを冒険者達と合わせて呑んでいる。
「バーニーさん、今日はちょっと厨房を貸してください。お礼はこれです」
ハチミツをバーニーさんに渡すと、親指を立ててくれた。。
クーノさんとエミリアとジョッキをぶつけ合った後は、すぐ戻る事を伝え一度自分の部屋へ。
「さてと石みたいな貝を仕入れますかねー」
ネットショップで貝を探すと、九十九里浜の大アサリが出てきた。
日本酒を垂らして焼くと旨いんだよな。
すかさず日本酒と一緒にポチる。
ポチった後に気づいたが、アサリって生でたべれたっけ?
ちなみに日本酒は、銀次郎の好きな福島の二本松にある蔵元の本醸造辛口だ。
サザエも石に見えるな。
伊勢志摩産の活サザエをポチると、あなたにおすすめの商品として伊勢海老が表示される。
これは仕方ない。
今日は儲かったし、この海鮮モードはもう止められないよ……
自分に言い訳をしてポチると高級食材も買いそうだと判断したのか、今度は伊勢志摩産の肉厚な鮑を紹介してくるネットショップ。
これも石に見えるもんな……
異世界に来て伊勢志摩の海鮮がたべれるなんて奇跡だもんな。
お値段高いけど。
少し伊勢志摩から離れようと、次は牡蠣を探す銀次郎。
広島産の牡蠣が一斗缶に入っていて、専用のナイフまでついている。
広島の牡蠣はサイコーじゃけぇ。
普段使った事のない広島弁でポチる銀次郎。
ホタテも石っちゃ石だな。
冷静に考えれば違う気もするが、もう止まらないのである。
陸奥湾で採れた活ホタテの箱をポチる。
勢いがつきすぎてダブルクリックしてしまうが、二箱でも問題ないっしょ。
こうしてネットショップで貝を大量買いした銀次郎は、急いで食堂へと戻るのであった。