第百四十二話 デパートの外商にでもなった気分
「楽しみにしてたのよ。早く見せて頂戴」
「なんかデパートの外商にでもなった気分ですよ」
「なにデパートって? ガイショー?」
場所はマインツ家の応接室。
虎と領主のレオンハルトさんが真正面のソファーに座り、ヒューイさん夫婦とクーノさん夫婦が両サイドに陣取り、執事のセバスチャンとメイド長のコーエンさんは部屋の隅で待機している。
くっ鶴翼の陣か! 我が戦力は隣にいるエミリアのみだ。
そのエミリアに目をやると、軍師のセバスチャンが置いたクッキーの皿を自分の陣地に手繰り寄せ、嬉しそうにたべている。
「待て!慌てるな!これは孔明の罠だ!」
「ギンジロー様。ギンジロー様? ご気分が優れないのでしょうか?」
「あぁ……大丈夫です。心配かけてすみません」
銀次郎は紅茶を口に含み、気持ちを落ち着かせる。
テーブルの上にシルクの布を置き、白い手袋をはめる。
「まずはエルザさん用の靴です。落ち着いた黒色のハイヒールで、お値段は大金貨3枚。ココの印に見覚えはないですか?」
銀次郎が印を見せると、女性陣はすぐに気付き歓声をあげる。
「美しい女性だけが知っている、あのブランドの靴ですね」
銀次郎がにっこり微笑むと、虎もにっこり微笑む。
「ブランドって意味を今まであまり理解出来ていなかったけど、やっと分かったわ。何が何でも手に入れたくなる物って事よね?」
虎らしい考えと獲物を狙う目にビビった銀次郎は、虎に靴を無意識で渡してしまった。
すると背後で待機していたメイド長のコーエンさんが虎の靴を脱がして、ハイブランドの靴を履かせる。
「どうかしら? 似合う?」
「素敵ですわ」
ディアナさんが褒めると、リサさんも同意する。
「そうかしら? パパはどう思う?」
「その印が何だか分からないけど、とっても似合ってるよ。ギンジロー君これは私が購入してエルザに贈りたいな」
さすがは領主様である。
マインツ家の支払いなのでお財布は一緒なのだが、同じ金額で虎のご機嫌まで買う事に成功した。
「ギ、ギンジロー君!ディアナに贈りたいから同じの貰えるかな?」
長男のヒューイさんが動く。
父親の偉大さを肌で感じ、すぐさま自分に出来る事を考え行動する。
マインツ家の跡取りは優秀みたいだ。
ディアナさんは嬉しそうにヒューイさんを見つめている。
「足のサイズを取らせてもらいますね。エミリアこれ使って」
エミリアにメジャーを渡すと、クーノさんはリサさんに促されて、ボクも良いかなと申し出てきた。
「モチロンですよ。靴を仕入れて後日届けますね」
大金貨3枚のハイブランドの靴が、いきなり三足も売れた。
ここから税金が引かれるが、仕入れ値は一足大金貨2枚なので大金貨3枚の儲けだ。
「では素敵な出会いを祝福したいので、こちらをどうぞ」
ギンジローはテーブルにドンと泡ボトルを置き、背の低いグラスに黄金の液体を注いでいく。
「ウチでワイン飲む時もこんな背の低いグラスが出てくるけど、大きい方が量が飲めて良いのに」
クーノさんが発言すると、隣にいるリサさんが肘で突っつく。
前にソフィアとエルザさんに教えた、女性の首筋を隠す方法。
美意識の高いマインツ家の女性陣に、この発言はマイナスポイントだ。
女性の歳は首筋に出る。
この事をクーノさんに教えておけばよかった……
レオンハルトさんもヒューイさんも、女性陣が背の低いグラスを好む理由は知らなかったが、触れてはいけないと察し話題を変える。
「ギンジロー君、私のは持ってきてくれたかな?」
「はい。それではレオンハルトさんのご希望の商品を出しますね」
銀次郎は悪い流れを断ち切り、次の商品をアイテムボックスから取り出す。
「バーベキューの道具一式です。サービスでクレイジーなソルトと焼肉のタレもつけておきましたので」
この前マインツ家の庭でやったバーベキューが楽しかったみたいで、コンロなどの道具を希望していたのだ。
「ねぇギンジロー君。ボクも何か買いたいのだけれど良いかな?」
良いかなって言われても、希望は聞いていなかったし何かあるかな……
銀次郎はアイテムボックスの中を確認すると、ヒューイさんが好きそうなのを発見。
「ヒューイさんはワインをよく呑んでいますよね? 十年以上熟成された赤ワインがお手頃価格でありますよ。これなら一本銀貨2枚で大丈夫です」
銀次郎は喫茶店で置いていた、スペイン・リオハのグランレゼルバをケースで取り出す。
銀次郎はワインが好きだが、ハマりだすと底なしにお金がかかる。
特にバーガンディにハマってしまったら大変だとサラリーマン時代には思っていたが、最近はカルフォルニアのワインもカルトじみた作り手は値段が高騰している。
そんな中で銀次郎がコスパ最強と思っているのがこのワインだ。
情熱の国の熟成された最高級クラスのワインが、仕入れ値では銀貨1枚。
もちろん同じグランレゼルバでも高いのはいくらでもあるが、それでもボルドーの格付けシャトーと比べたら安い物である。
「これガラス瓶だけでも銀貨2枚はしそうだね。全部買うから一本開けても良い? みんなでこの赤ワインを試してみたいな」
ヒューイさんの申し出に、断る理由はない。
銀次郎はデキャンタを取り出し、デキャンタージュをしていく。
「何やってるの?」
「これは長い間寝かせていたワインを空気に触れさせています。空気に触れる事によって香りが開き、本来持っている才能が開花します。それにこのボトルの底にある、オリを混ぜないようにもしていますね。熟成していく中で削ぎ落とされた贅肉みたいなものですから」
それぞれにワインを試飲してもらうと、銀貨2枚でこの味なら、高いのはどれだけ美味しいの? と話になる。
コスパを意識する庶民の銀次郎と、お金の事は気にしないで、一流を愛する貴族の違いを肌で感じる。
「作られている国も葡萄の種類も違いますが、高いワインでしたらこんなのもありますよ」
銀次郎はプライベートストックのボトルを取り出すのであった。
作者の欲望のままに高級ワインを売る。
値段が高くて手が出ないけど、小説家になろうの貴族たちなら余裕で買える。
小説を書いてて楽しいし、ウインドウショッピングではなく、なろうショッピングだと勝手に命名させてもらいました。
なろうショッピングが楽しすぎて話が長くなったので、続きはこの後書いて完成したらすぐに投稿致します。