第百四十一話 シルバーランクの冒険者キーランド
「ん……ヴェリーヌさんから」
今日は朝からヴェリーヌさんの新しいお店作りの手伝いをしている銀次郎。
お昼になったのでそろそろ休憩かなと思っていたら、エミリアが差し入れを持ってきてくれた。
「カールさん、ユルゲンさん休憩を取りましょう」
アイテムボックスから屋台のテーブルセットを取り出し、エミリアが持ってきた水筒から果実水をカップに注ぐ。
「身体に染みるわい」
ユルゲンさんは果実水を一気に飲み干すと、噴き出す汗を布で拭っていく。
「オマエのマジックバッグは物がたくさん入るな。おかげで作業が捗るぜ」
銀次郎は大工仕事はからっきしだが、物の持ち運びでは貢献出来ていると思う。
実際はアイテムボックスでいくらでも収納出来るのだが、チートすぎるのでそこは黙っている。
「確かにギンジローさんのマジックバッグは羨ましいですな。馬車を使わなくても木材が運べるのですから」
カールさんの木材商会で他の商会から買った木材も置いてあるが、マインツ家の保有する森から伐採して、乾燥させてから販売しているらしい。
森から木材を運ぶのが大変だというので、もし暇な時があればお手伝いしますよと伝える。
「さてと、またやりますか。お嬢さんご馳走様でした」
カールさんがエミリアにお礼を言って、作業に戻る。
銀次郎も空になったカップを返して、午後の作業を開始するのであった。
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「あらーギンジローちゃん良い顔してるわね」
今日の仕事を終えてハングリーベアーに戻ると、クラーラさんが出迎えてくれた。
汗をかいて肌はベトついていたが、クラーラさんは男らしいと褒めてくれる。
「今日はいっぱい働きましたよ。お腹ペコペコなんで井戸で身体を洗ったら食堂に行きますね」
汚れた身体を井戸水で洗い流す銀次郎。
日本にいた頃は井戸水なんて使った事もなかったが、頭からかぶるだけで一気に疲れが吹き飛ぶ。
「ん〜サイコー。それじゃ今度の喉をシュワシュワした液体で洗い流しますかね〜」
カウンター席に座りエールを注文する銀次郎。
するとハンツがエールの入った木のジョッキをすぐに持ってきてくれたので銅貨5枚を渡す。
「ハンツありがと今日は呑むよ〜。プロージット!」
銀次郎はジョッキを前に突き出した後、エールを喉に流し込む。
シュワシュワで喉を締め付けられる快感。
この一杯の為に生きているとさえ思えてくるが、喉は潤ってもまだまだ身体がエールを欲している。
空になったジョッキをテーブルに置いて、ハンツにお代わりを頼む。
「ギンジローちゃん食べ物はどうする?」
クラーラさんに今日のおすすめを聞くと、ホロホロ鳥と野菜の串焼きが美味しいよと教えてくれた。
「それじゃホロホロ鳥のやつとチーズの盛り合わせを貰えますか?」
先にお代わりのエールとチーズの盛り合わせが届いたので、バーニーさんが串焼きを焼く姿を見ながら呑ってると、宿泊の冒険者達も食堂に顔を出し始める。
「ギンジロー今日は早いな。一人じゃ寂しいだろ? こっちきて一緒に呑もうぜ」
顔見知りの冒険者達に声をかけられたので、テーブルに移る銀次郎。
今日は大物が狩れて稼ぎが良かったので、一杯ご馳走してやるとエールを注文してくれた。
「今日の冒険の無事と、大物を狩れた事を祝ってプロージット!」
木のジョッキを力強くあててエールをグイッと呑る。
冒険者達はマインツハンバーグを注文。
届くまでの間テーブルが寂しいので、たべかけのチーズの盛り合わせと、ホロホロ鳥と野菜の串焼きを提供した。
「石みたいな食べ物って知ってるか? ギンジロー」
銀次郎を誘ってくれた冒険者のキーランドには、お気に入りの子がいるらしい。
冒険者ギルドの受付嬢ローザ。
胸が大きくて気立が良いので冒険者の間では大人気なのだが、幾多の漢たちが口説いても良い返事は貰えていない。
キーランド自身も何回も振られているのだが、今日は大物が狩れたので思い切って食事に誘ってみた。
するといつもは笑顔を返されるだけだったのに、石が食べれるお店があるならと返事があったのだ。
「石だけじゃ分からないですよ。他に何か言ってませんでした?」
「ローザちゃんが子供の頃に父親と市場に行って食べたらしいんだ。父親は内緒だよって焼かずにそのま食べたらしい。それが一番美味いんだとよ」
全く分からない。
石ってどんな大きさなの? 味は?
まとめるとこんな感じになった。
1、美味しい石
2、焼かないで食べるのが一番美味いと父親が言ってたが、焼いたのも美味しかった
3、ローザちゃんは一回しか食べた事がない
4、両親は天国に旅立ってしまったので、石がなんだったか聞く事が出来ない
5、大人になったローザちゃんが市場で探しても石は見つからなかった
「ん〜そもそも石ってたべれないですよね?」
「そりゃそうだろ」
「もしかして玉ねぎですかね?」
「玉ねぎなら市場で売ってるだろ」
石が何なのか全く分からないキーランドと銀次郎。
すると他の冒険者達もハングリーベアーに戻ってきたので、一緒に呑みながら考える事に。
「確かローザ嬢は港町出身だな。両親が事故で亡くなって、親戚のいるマインツに連れてこられたらしい」
「ローザちゃんは俺がカウンターに行くとニコッと笑ってくれるんだ。たぶん俺の事好きなはずなんだけど、デートに誘っても断られるんだよね」
「ブロンズランクのお前じゃ、ローザちゃんの方が稼ぎはあるだろ。お前じゃ無理」
「キーランドに言われるならまだ分かるが、オマエには言われたくねーよ」
答えから遠ざかってる気もするが、キーランドさんの為にローザさんの情報や、自分がフラれたときの事を話し合う冒険者達。
「オマエらは本当に馬鹿だな。ローザが胸ばかり見られて困ってるって言ってたぞ」
隣の席で食事を取っていた女性冒険者パーティーのリーダーが、エールのジョッキ片手に絡んできた。
「お前と違ってローザちゃんの胸は武器なんだよ。お前は冒険者なのに武器持ってねーじゃねーか」
「シルバーランクのアタイに喧嘩売ってんだな。よーし分かった表出ろ」
するとキーランドさんが二人の間に入る。
「エマ悪かったな。エール奢るから俺の顔に免じて抑えてくれ」
「アタイはそいつに腹立ててんだよ。キーランドが謝る事じゃねぇ……仕方ねぇからウチのパーティー全員にエールで手を打ってやる」
「すまねぇな。オイ謝れ」
キーランドさんが喧嘩を仲裁すると、ルッツが素早くエールを持ってきた。
「さぁこれで全部洗い流すぞ!プロージット!」