第百四十話 メガネメガネ
「昨日は本当にありがとうございました」
エデルが感謝の気持ちを伝えると、エデル君が困ったら助けるのは当然の事だよと答えるレイノルド助祭。
「これはお礼です。ギンジローさんに相談したら、教会ではコレが人気だと聞きましたので」
レイノルド助祭は袋を受け取り中身を確認すると、メガネが入っていた。
「エデル君。ギンジローさん感謝致します。二人に神のご加護がありますように」
祝福をかけてくれるレイノルド助祭。
おふざけで渡したコスプレ用の眼鏡の罪滅ぼし的な意味も込めていたが、その事は切り出せない銀次郎。
まぁ喜んでくれたから良いのかな?
銀次郎はそう思う事にして、食堂でエデルとフルーツの盛り合わせを作り始める。
「このマンゴー熟していておいしいね」
「ギンジローさん食べ過ぎたら駄目ですよ。納品分が少なくなってしまうので」
「エデルは真面目だなぁ。少しくらいたべてもバレやしないよ」
そんな事を話していると、食堂にヴェルナー司祭とエカード司祭が部下を引き連れて現れた。
「うちのレイノルドがメガネを頂いたと聞いてな。エデル君ありがとう。ギンジローさんもありがとう」
「ヴェルナー司祭、わざわざお越し頂いてその様な言葉までありがとうございます。エデルが市場で良く熟したマンゴーを仕入れて来ましたので、良かったらたべていきませんか?」
「そうだな。ギンジローさんにはエカード司祭からも話があるから、一緒にマンゴーを頂きましょうか」
ヴェルナー司祭とエカード司祭、そして銀次郎がテーブルの席に着く。
レイノルド司祭をはじめ多くの方は、後ろで立ったままこちらを見ていて変な緊張感が漂う。
「まずは改めてお礼を伝えたくて、王都からマインツまでやって来ました。このメガネがなければ私は引退していました。助けて頂きありがとうございました」
エカード司祭が礼を述べると、背後に立つエカード司祭の部下達は一斉に膝をつく。
「いやいやいや止めてください。そんな恐れ多いです」
必死になって膝をつくのを止めてもらったが、エカード司祭の人望なのか部下の方々から何度も感謝の言葉をもらう銀次郎。
中には涙を流す人もいて、温度感の違いに戸惑ってしまった。
「眼鏡はマインツ伯爵家に言えば売ってくれると思いますし、もしエカード司祭の様に眼鏡がないと引退を考えている方がいれば、レイノルド助祭に言ってください。その分くらいは私の方で用意致しますので」
「そうですか。ギンジローさんその時は宜しくお願いします。レイノルド助祭も頼むぞ」
エカード司祭と握手を済ませると、その後は社交ダンスの発表会の話になった。
すでにヴェルナー司祭から馬車の貸し出しや、食材にワインの提供もされていたが、王都の教会からも提供を受ける事になったのだ。
「ギンジローさん、我々教会で何か出来る事があれば何でも言って下さい」
ヴェルナー司祭の申し出に、何かありましたらと返答しこの場は終了するのであった。
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「レイチェルさんこんにちは」
エデルと別れてダンスホールに顔を出すと、熱烈なハグで迎えてくれたレイチェルさん。
三つ目の鐘の前の時間だったが、何組かのカップルが社交ダンスの練習に力を入れていた。
「お城のダンスホールで踊るのは気持ち良かったわね。見てこの靴。お尻の位置が高くなって姿勢も綺麗に見えるのよ」
社交ダンスの発表会の参加者に案内した、ダンス用のキラキラした靴。
ネットショップで買ったお手頃品だったのだが、見栄えが良かったので全員が手に入れていた。
そのうちエルヴィスがもっと良い靴を作ると思うので、それまでの間だけ使ってもらおうと思ったのだが、昨日は虎に捕まって大変だったな。
結局、虎には後日靴を用意して持っていくことになったのだが……
「ギンジローさん一曲踊ってくださるかしら? ワルツを踊りたい気分なの」
銀次郎はエルヴィスの真似をして綺麗なお辞儀をする。
「私で良ければ喜んで」