第百三十九話 エデルとの市場調査
「ギンジローさん起きて下さい。ギンジローさん」
エデルが銀次郎の身体を揺すって起こそうとするが、なかなか起きてくれない。
「ギンジローさん。これから市場に行くんでしょ。起きて下さい」
「ぬぅあぁあ。エデル? あぁそうかごめん、今起きるよ」
昨日はマインツのお城で社交ダンス予行練習を行って、お疲れ気味の銀次郎。
眠い目を擦りながら庭に出て、井戸水を頭からかぶる。
「待たせてごめんね。それじゃ市場にいこっか?」
銀次郎はエデルと一緒に、果物市場に向かうのであった。
「ここが果物市場です。マインツで採れた果物がこの辺りです。あっちは他から持ち込まれたもので、奥は外国から入ってきた果物が扱われています。マンゴーやパイナップルは数が少ないので、まずはあっちに行きましょう」
エデルに案内されて向かうと、甘い香りが他よりも強く漂う場所にたどり着いた。
「今日のマンゴーは熟したのが入ってるぞ」
恰幅の良い男性がエデルを見つけると、熟したマンゴーを手に取り商談を始める。
「小ぶりですけど、確かに熟していて美味しそうですね。コレもらいますよ」
エデルはギルド証を取り出し、相手のギルド証に合わせて代金の支払いを済ませる。
「マジックバッグに入れようか?」
銀次郎が持ち運びを申し出るが、市場で仕入れた果物は一ヶ所にまとめられて、そこから持ち運びをするらしい。
エデルの場合はトーマス商会の名義で仕入れをしているので、トーマス商会の仕入れた果物と一緒に店まで運ぶそうだ。
「ギンジローさんこれ知ってますか? 南の国で育つ果物で熟すと美味しいんですけど、なかなか食べ頃のものが入ってこなくて、仕入れるかどうか迷ってます」
「あぁバナナだね知ってるよ。栄養が豊富で故郷でも人気だったけど、実はバナナたべれないんだよね。好き嫌いは基本ないんだけど、バナナだけは苦手でね」
「そうなんですか。それなら仕入れるのは止めますね」
エデルに悪い事をしたな。
バナナが苦手だと言ったら、仕入れるのを止めたエデル。
申し訳ないなと思いつつ果物市場を見てまわり、市場調査を行う銀次郎だった。
「トーマス商会長おはようございます」
仕入れを終えると、市場の倉庫ではトーマス商会長が待っててくれた。
「しばらくでしたな。どうでしたか市場は?」
「そうですね。思った以上に果物があって驚きました。お店に戻ったら果物を買いますので、よろしくお願いします」
「律儀ですねギンジローさんは。市場で買った方が安いのに」
確かにそうなのだが、エデルがお世話になっているのだから、筋を通した方が良いだろう。
エデルを独立させたのは銀次郎なのだから、トーマス商会にも利益がないとね。
トーマス商会の若い従業員がリヤカーみたいなもので仕入れた果物を運んでいく。
銀次郎も手伝ったが仕入れた果物は大量で重たく、腕がパンパンになるのであった。
トーマス商会に着くとはちみつレモンとサングリアを仕込み、ヴェリーヌさんのお店に行って果物とはちみつレモンを納品。
その後はトーマス商会の手伝いをしてから、モーニングの為ハングリーベアーに戻った。
「ギンジローちゃんおはよー。エデルちゃんいつもありがとー」
エデルは仕込んだはちみつレモンを渡すと、バーニーさんがさっそく味見をして幸せそうな顔してる。
「クラーラさんおはようございます。朝から働いてお腹ペコペコですよ。モーニングハンバーグ二つ下さい」
朝からハンバーグなんてと思っていたが、市場を歩き回り果物をトーマス商会まで運ぶ。
その後商品を仕込んでたら大変だよ。
ハリーがいつもモーニングハンバーグをたべていて、変態だと思っていたが、重労働の後の食事だったんだなと納得した銀次郎。
モーニングをしながらエデルと話をしていると、昨日はレイノルド助祭にお母さんを助けてもらったという話を聞く。
「あら〜エデルちゃん良かったじゃない。冒険者でも回復魔法を使える人はいるけど、教会の回復魔法だったら後遺症の心配もないからね」
しかもレイノルドさんは助祭なので、助祭クラスの回復魔法を受けるには、それなりの地位やお布施が必要になってくるらしい。
それを無償でやってくれたレイノルドさんに、何かお礼が出来ないかエデルから相談される銀次郎。
実はレイノルド助祭に対して、一つ罪悪感というか引け目を感じていた銀次郎。
モーニングハンバーグをたべ終えると、一度部屋に戻りネットショップであるものを購入した。
「エデルお待たせ。それじゃ行こうか」
エデル商会の一番のお客さんであるマインツ大聖堂。
準備を済ませると、エデルと銀次郎はマインツ大聖堂に向かうのであった。