第百三十六話 魔法陣
「あの人ハートマン親方だよね?」
今日は朝からカールさんとユルゲンさんと店の基礎を作っていると、親方が様子を見に来てくれたのだ。
「なんじゃ。酒はないのか?」
このおっさんはと思ったが、カールさんとユルゲンさんは親方に会えて光栄ですと喜んでいる。
冷たい麦茶を出すと、一気に飲み干しおかわりを要求。
二杯目を作るとアントニオさんがマジックバッグから大きな物を取り出す。
「オマエが昨日言ってたやつじゃ。確認しろ」
昨日お願いしたが、もう作って持ってきた親方。
仕事が早すぎる。
扉を開けるとソフィアが魔法で作った氷が中に入っており、ひんやりとした空気が漏れ出してきた。
「この模様は何ですか?」
冷蔵庫の中に施されている模様を聞くと、微風を作り出す魔法陣との事だった。
「親方って鍛治職人ですよね?」
魔法を使えるのは知っていたが、魔法陣なんて聞いていなかった銀次郎。
親方は微風を作る魔法陣なんて簡単に作れると言っているが、本当なのだろうか?
冷蔵庫を確認するが、ちゃんと冷やすことが出来ている。
「こっちは凍らせる箱じゃ。三枚の氷を使ったらうまくいったわい」
冷蔵庫も冷凍庫も見た目はただの箱の様に見えるが、薄く伸ばしたミスリルをコーティングしているので、おそらく非常に高価な物になると思う。
「親方って凄かったんですね……」
「またスキヤキ頼むぞ。肉たっぷりな」
親方の凄さと魔法陣というファンタジーな世界に圧倒された銀次郎。
自分はネットショップというチートなスキルを持っているが、本当にチートなのは親方ではないのだろうか?
他にも作って欲しい物は山ほどあるので、また相談しに行こうと決意する銀次郎だった。
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「このスライム美味しい……」
昼過ぎに今日の作業を終えて、商業ギルドにやってきた銀次郎。
魔法陣の事について知りたかったので、ハリーにも来てもらい冷蔵庫と冷凍庫を見てもらう。
冷蔵庫を知ってもらう為に、パイナップルゼリーを作ったのだが、エミリアはプルンプルンした食感はスライムだと騒いでいる。
スライムっているんだなと新たな発見をしたのだが、エミリアが騒いでいる事はあえてスルー。
「えっと……何からお話しすれば良いかわかりませんが、もしこのレーゾーコとレートーコ? こちらが売り出されれば、いくらでも金貨を積む方はいると思います」
ミリアの表情を見ると本気みたいだ。
金貨を積むって言葉を初めて聞いたよ。
ハリーには魔法陣の事を聞くと、魔法陣を手でなぞり何か考え出した。
「この魔法陣、改良する点はまだあるかな」
詳しく話を聞くと、魔法の氷で出来た冷気を微風の魔法陣で流しているが、他の魔法陣と組み合わせると温度の調節が出来るとの事。
更にはもっと少ない魔法の氷でも、魔法陣を書き換えれば同じ効果が出るとハリーは言い切った。
普段はハンバーグ好きの変態だけど、魔法の事に関して天才のハリーに、魔法陣の書き換えを依頼する。
「いいよ。少し待ってて」
精神を集中させて、ハリーは魔法を唱える。
指先が光り出すと、魔法陣に魔力を流して魔法陣を書き換えていく。
指先にあった光がだんだんと大きくなり、部屋中に光が溢れ出す。
眩しすぎて目を閉じていると、ハリーが終わったと声を掛けてくれた。
「これで温度も調整できるし、魔法の氷はもっと少なくても問題ないよ。あぁでも悔しいな。ボクも溶けない氷が作れる様に修行しないと」
改良品の報告と、冷蔵庫をあと何台か作れないかお願いしに、みんなで親方の工房へと向かう。
ハリーが馬車を手配してくれたので、すぐに着く事が出来た。
「親方〜いますか〜? いますよね〜? 入りますよー」
呼んでも出てこないのは知っているので、形式的に声を掛けてから工房へと入る。
親方達の作業が終わるのを待っていると、タイミングが良かったのかすぐにこっちに来てくれた。
「なんじゃ?」
相変わらず無愛想な親方に、魔法陣の書き換えをハリーにしてもらった事を伝える。
「ここがわからん。どうやってる?」
親方が魔法陣の事についてハリーに聞くと、なんかよく分からない言葉で説明をしている。
お弟子さん達はそばでただ話を聞くだけだが、その目は真剣だった。
しばらくすると親方は工房に戻って、冷蔵庫を作り出す。
その冷蔵庫にハリーが魔法陣を作り、改良版の冷蔵庫が完成した。
「ギンジロー確認してみて。冷やすのと凍らすのを一つにまとめてみたから」
なんと親方とハリーは、冷凍庫付きの冷蔵庫を作り上げたのである。
しかも魔法の氷は一枚しか使っていない。
「完璧」
その言葉しか思いつかなかった銀次郎。
親方もハリーもその言葉を聞いて、なんとなく誇らしげだ。
ミリアからはマインツ家に一つ納品すべきだと提案されたので、親方達にお願いして更に冷蔵庫を作ってもらう事にした。
「おい。スキヤキはまだか?」
すき焼きって二日連続たべるもんじゃないんだけどな……
仕方がないが、素晴らしい仕事をした親方とハリーを労う為にも、すき焼きの準備を始めるのであった。
感想や誤字脱字報告ありがとうございます。
小説を読んでくれている方がいるんだと実感できて、本当に嬉しいです。