第百三十一話 ガリガリ
今日はいつもよりだいぶ早く起きて庭に出る銀次郎。
井戸ではルッツが水汲みをしていたので急いで手伝う。
「ギンジローさんありがとうございます」
「水汲みくらい問題ないよ。それより今日はよろしくね」
今日は実家が大きな商会のアイリスさんが、マインツハンバーグをたべてみたいと希望し準備を始める銀次郎。
「ギンジローちゃんおはよー。本当に手伝ってくれるの?」
「下準備もありますし、私でよければお手伝いさせて下さい」
せっかくなので銀次郎は、ハングリーベアーのモーニング営業を手伝う事にしたのだ。
喫茶店をやっていた時は朝五時に起きて準備をし、朝七時からモーニング営業。
そのままランチ営業をして夜はカフェバー営業。
営業が終われば二十四時間営業のスーパーに行って買い出しと、常に働きっぱなしだった。
だから身体を壊して倒れたんだよな……
落ち着いたら温泉でも行ってのんびりしたいなと思うのであった。
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「パンとスープ」
「こっちはマインツハンバーグ」
「ごちそうさん。水筒に水入れてくれー」
早い時間だがモーニングをたべる冒険者が多い。
顔見知りの冒険者からは手伝っている姿を見て揶揄われたりもしたが、美味しかったよの一言で全てが報われる。
一つ目の鐘が鳴った頃には、宿泊客は殆どモーニングをたべて出かけていた。
「洗い物は俺がやるから、部屋の片付けとかやっちゃいなよ」
次男のハンツと三男のフランツにそう伝えると、ありがとーと言って階段を上がっていく。
あの二人は偉いな。
自分があのくらいの歳の時は、家の手伝いなんて全然やらなかったのに。
「ギンジローさんおはようございます」
「おはようギンジロー」
果物の仕入れと朝の納品を終え、ハリーとエデルがやってきた。
「お疲れ様。二人ともモーニングハンバーグで良いよね?」
「もちろんお願い」
ハングリーベアーではトマトソースで煮込むハンバーグと、王道のマインツハンバーグがあるが、この二人がいつもたべるのは王道のマインツハンバーグだ。
「お待たせ〜 モーニングハンバーグの目玉焼き乗せだよ。目玉焼きはサービスだから心配しないでね」
銀次郎は好意で目玉焼きをサービスしたのだが、ハリーは目玉焼きの分も含めてお金を払った。
なんか押し売りしたみたいで申し訳ないなと思ったが、後でハリーに聞いたら目玉焼きマインツハンバーグは大好きだったらしい。
異世界では玉子は貴重で値段も高い。
早く増産して値段を下げ、気軽に玉子をたべれる様にしようと改めて決意する銀次郎だった。
「エデルはこの後、大聖堂に行くんでしょ? 食堂のおばちゃん達にこれ持っていきな」
銀次郎はイチゴミルクの飴が入った袋を渡す。
エデルの人柄なら大丈夫だとは思うが、食堂を借りてフルーツの盛り合わせを作っている。
おばちゃん達とのコミュニケーションは大事なので、この様な気遣いは必要だと思う。
「ギンジローちゃんそれなぁに?」
クラーラさんが気になったみたいなので、みんなでたべる事にした。
飴はやっぱりイチゴミルクなんだよなぁと銀次郎が味わっていると、クラーラさんはガリガリと飴をたべる。
クラーラさんに飴は噛むんじゃなくて舐めるんですよ伝えると、顔が真っ赤になってしまった。
なんかすみませんクラーラさん。
お詫びにクラーラさんにも、イチゴミルクの飴を渡す銀次郎だった。
「ギンジローちゃんありがと。後はお願いねー」
ハングリーベアーのモーニング営業が終わり、賄をたべた後クラーラさんは宿の仕事に戻る。
ハンツとフランツは昼寝休憩だ。
本来であれば長男のルッツも昼寝休憩をするのだが、今日は銀次郎が料理を作るので勉強をする為にそのまま食堂に残っている。
バーニーさんはいつもの様に黙って夜の仕込みを始めている。
銀次郎は準備は終わっているので食堂の掃除をしながら待っていると、外にマインツ家の馬車が停まった。
「ここが昔ソフィアを助けた冒険者の宿なんだね。あっギンジローさんだ」