第百二十八話 ソフィア手作りサンドイッチ
「お久しぶりですライナさん、アイリスさん。お元気でしたか?」
「あーギンジローさんだ。この間はありがとうございました」
そう言って微笑むのは、前回のお茶会で誕生日サプライズをしたアイリスさんだ。
白いワンピース姿のアイリスさんは、この前は泣き虫の可愛らしい娘だったが、今日は少し大人っぽい雰囲気になっていた。
「ギンジローさんはお元気でしたか? 聞きたい事がたくさんあったので、また会えて良かったです」
ライナさんは黒のパンツスーツ姿だが、やはり何となく前にあった時より大人っぽく感じる。
この子本当にあの女優さんみたいなんだよな。
いつか江戸時代にタイムスリップしたら、一緒にペニシリンを作りましょうと心の中で誓う銀次郎。
「二人とも落ち着いて。ギンジローが困ってるじゃない」
「ふーん。ソフィアにも色々話を聞かせてもらうわよ」
やっぱりこの三人は仲が良いなと思いつつ、まずはテーブルに案内する。
椅子を引いてエスコートすると、軽く微笑んでから優雅に座る。
この辺りの所作を見ると、やはり貴族のお嬢様なんだなと感じる銀次郎。
全員が席についた事を確認したメイドのアメリーが、ワゴンにサンドイッチを乗せて運んできてくれた。
「本日のお茶会の為に特別な紅茶をご用意致します」
銀次郎は透明なグラスにオレンジとイチゴ、レモンが入ったフルーツティーを淹れる。
馬車の旅でむくみなどあるかもしれないので、デトックス効果も狙ってみた。
ハチミツも入れてあるので、これからたくさん話をするのに喉も癒やされるだろう。
「こちらはソフィアがお二人の為に作ったサンドイッチです。どうぞお召し上がり下さいませ」
お辞儀をしてテーブルを離れると、ソフィアが作った事に驚いている。
貴族のお嬢様なら普通は料理をしないもんな。
ソフィアは二人に誉められていて嬉しそうだ。
「お元気でしたか? ギンジロー殿」
厳しい顔つきなのに、時折優しい顔を見せる事があるその白髪の老人と握手を交わす。
「お久しぶりです。会いたかったですよ」
小声でスチュアートさんと会話をしていると、最近のアイリスお嬢様は本当に天使のようだと言って、また握手を求められた。
この人アイリスさんへの愛が強いのと、握手が好きなんだよな。
しばらく小声でスチュアートさんと会話を続けると、そろそろ頃合いになったので次の一手を打つ。
「この間はワインやエール、蜂蜜酒にチーズなど送って頂きありがとうございました。本日はお茶会ですが、ソフィアに無理を言ってこちらを用意させて頂きました」
アメリーが運んできてくれた具材を並べ、テーブルに陶器の鍋をセットして火をつける。
あらかじめチーズは温めてから持ってきてもらったので、すぐにチーズはグツグツと音を立てる。
「こちらの料理はチーズフォンデュと言いまして、アイリスさんから頂いたチーズにライナさんから頂いた白ワインを使って火を入れています。お皿にあるお好きな具材を、こちらの串に刺してチーズを絡めて召し上がって下さい。チーズが熱いので火傷にはお気をつけ下さい」
お辞儀をして下がると、みんなでどれにしようと相談しながら具材を決めて、串に刺しチーズをたっぷりと絡ませる。
それぞれの具材でチーズフォンデュを口にすると、顔が綻んだので気に入ってくれたみたいだ。
話を聞けば故郷の名産が使われているのはもちろんだが、テーブルの上で火に通してたべるのが、料理をしている様で楽しいらしい。
さてと、あっちはどうかな?
別室の方に行くとなんだか騒がしい。
「ギンジロー君、一緒に呑もうよ」
白ワインでチーズフォンデュを楽しむクーノさん。
ライナさんとアイリスさんの従者の方々は、お酒は呑んでいないのだが随分と楽しそうだ。
「クーノ様は我々にも気にかけてくださり本当に素晴らしい方です。こんなに楽しい方だとは知りませんでした」
真面目そうな男性が、クーノさんをべた褒めしている。
確かに伯爵家の次男だが気さくだもんな。
少しクーノさんの事を見直した銀次郎は、ライナさんからもらった白ワインをグラスに注いであげるのであった。