第百二十五話 ドリンクサーバー
今日は朝からヴェリーヌさんの新しいお店の為に動いている銀次郎。
カールさんとも話をして、打ち合わせの日程も決まったのだが……
「迷惑をかけたお詫びに費用は私がお支払いするから許してね」
エルザさんに呼び出されたヴェリーヌさんと銀次郎。
ソフィアからヴェリーヌさんのお店の事を聞いたみたいだが、別にエルザさんが悪いわけではない。
むしろ自分が養鶏場の増築をお願いをして、大工さんを集めてもらったので悪いのはこっちなのだが。
庶民の我々に気を遣ってくれるのが、エルザさんの懐の深さだなと感じる。
「迷惑だなんてとんでもございません。費用まで出していただけるなんて本当に宜しいのでしょうか?」
「構わないわよ。それよりヴェリーヌさん、どんなお店にするのか教えて頂戴」
「商業ギルドのエミリアさんが、お店を広げるべきだと提案してくれまして。前は一人で店をやっていましたが、最近は友人も手伝ってくれるのでお店を広げるのは問題ないと判断しました」
ヴェリーヌさんのお店は、問屋街の従業員が休憩時間にやってくるお客さんが多い。
ヴェリーヌさんに癒されながら、安くて美味しい果実水を飲んでパッと戻る。
そんなお店だったのだがエデル商会のはちみつレモンを売り始めた事をきっかけに、一般のお客さんや水筒持参で持ち帰りのお客さんも増えたのだ。
その結果行列が出来る程になったが、問屋街の常連さんは行列に並ぶほど休憩時間がないので足を運ぶ回数が少なくなってきている。
問屋街で生まれ育ったヴェリーヌさんは本来あるべき姿に戻す為、お店を広げて常連さんにいつも通り楽しんでもらおうと考えたのである。
「ヴェリーヌさん応援するわね。ところでギンジローさん、あなたが絡むんだから何かあるのでしょ?」
別に何にもないけどヴェリーヌさんのお店の費用を出してくれるのなら、昨日買った備品代も出してもらいたい。
どうするか悩んでいる事もあったので、銀次郎はプレゼンを始める。
「ヴェリーヌさんが言っていたように、問屋街の常連さんが今まで通り気軽に来れる店に戻します」
腕を組んで目を瞑り話を聞くエルザさん。
ヴェリーヌさんには優しい顔を見せていたのに、自分には完全に虎モードになっている。
「まずは純粋に立ち飲みスペースを大きく取って、今まで以上にお客さんが入れるようにします。持ち帰りのお客さんは旅商人が多いので、販売の窓口を分ける事を考えています。商人は物の価値が分かるので、行列に並んでも損はないと判断すれば並んでも待ちますので」
ヴェリーヌさんには初めて伝える事だったが、常連さんを大切にするのなら、持ち帰りのお客さんと販売する窓口を分ける事は悪くないかもと言ってくれた。
「これで全てが解決するわけではありませんが立ち飲みのお店は回転率が高いので、一般のお客さんが増えても対応出来ると思います」
黙って頷く虎。
「店内の方は、注文から提供までの時間を短縮し効率化を図ります。具体的にはこの透明なガラス製のドリンクサーバーを使用します」
銀次郎はアイテムボックスに仕込んでおいた、果実水のドリンクサーバーを取り出す、
「やっぱり確認しておいて良かったわ……」
何かエルザさんが言った気がするが、聞こえなかった銀次郎はドリンクサーバーの説明を始める。
「梨とリンゴとレモンが入った果実水ですが、このドリンクサーバーに入れれば中身が見えるので、今日はどの果物を使っているか見て分かります。そして提供ですが、ここを回すと果実水が出てくるようになっているのですぐに提供出来ます」
銀次郎はカップに果実水を注ぎ、テーブルに置く。
「本当はお客さん自身で果実水を注いでもらえればもっと効率化が出来るのですが、ヴェリーヌさんに会って少しだけ会話する。それ目的の常連さんが多いので、ここの工数はそのままにします」
虎は目を開き、黙ってこっちを見ている。
私はそんな事をしないですけど、男性は単純ですからね〜と言い訳をしておく銀次郎。
「あとはお客さん自身でカップを片付けてもらう為に、飲み終わったカップの返却場所を作ります。もちろん今まで通りヴェリーヌさんにカップを返すお客さんもいると思いますが、少しでもその工数を減らせますので」
その他にはマイカップ持参のお客さんには、少しくらいカップが大きくても同じ値段で提供する事。
これはヴェリーヌさんのお店で一番工数の掛かっている、カップ洗いを減らす目的である事を伝える。
「なるほどね。言いたい事は分かったわ。ギンジローさんが気づいていないから言うけど、その透明なガラス製の容器はそれだけで相当な価値があるの。それは分かってるのかしら?」
異世界でガラス製品の価値が高いのは分かっている。
映えるかなと思ってドリンクサーバーを用意したのは事実だが、実はガラス窓もネットショップで買っていた銀次郎。
何となく出しにくい空気だが、結構な金額がしたので虎にこの費用も出してもらいたい。
ヴェリーヌさんのお店はオープンスタイルだが、冬場はガラス窓を取り付ける予定がある事を伝える。
「ギンジローさん。この件は後でゆっくり話をしましょうね」
不気味に微笑む虎に、恐怖で動けなくなる銀次郎だった。
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