第百二十三話 連れ出せの合図
「隣の方って領主様の……」
「あなたがヴェリーヌさんですね。ソフィアと申します。ギンジローから美味しい果実水のお店って聞きましたよ」
二つ目の鐘がなった直後に訪れたが、すでに果実水は完売していて店は後片付けの最中だった
「紅茶でも淹れましょうか?」
「ヴェリーヌさんありがとうございます。馬車の中にも二名いますので、みんなの分と合わせて八杯お願いします」
銀次郎はアイテムボックスから銀貨8枚を取り出して渡そうとするが、紅茶はギンジローからもらったものだからと受け取ってくれなかった。
「みんな片付けをやめて集まって」
ヴェリーヌさんは紅茶を淹れると、エミリアとベティーさん、カロリーナさんをテーブルへと呼んだ。
「えーっと……マインツ伯爵家のお嬢様、ソフィア様がギンジローさんと一緒にお店に来てくれました」
「ソフィアと呼んでください。ギンジローの仕事関係の方々ですから私の事はソフィアでお願いします」
綺麗なお辞儀をするソフィアに一瞬戸惑いを見せたが、銀次郎がお茶請けのシュークリームとフルーツタルトをアイテムボックスから取り出すと、打ち解けてきたというかめっちゃ仲良くなってる。
「ソフィアちゃんの髪の毛ってサラサラね〜少し触ってもいい」
「ねえねえ。二人って付き合ってるの?」
小声で話しているみたいだが丸聞こえなんですが……
年上のお姉さん達に囲まれて楽しそうなソフィア。
今まで見た事のない姿に、今日は連れてきて良かったなと思った。
「エミリアから聞いたけど、大工さん見つかったって本当?」
ヴェリーヌさんの質問に、周りのみんなもこっちを見てくる。
「元大工さんだけどね。木材専門のカール商会のカールさんがお店を建ててくれる。しかも木材の費用だけでいいよって」
ヴェリーヌさんには段取りを組むので、どんなお店にするかカールさんと打ち合わせをしましょうと伝えるのであった。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
ヴェリーヌさんのお店を出て、近くの肉屋さんに向かった二人。
「いつものもらえますか?」
銀次郎は肉屋の店主に牛タンを注文する。
ソフィアにこの間のお肉は牛の舌だよと伝えると、とってもビックリしていたが、厚切り牛タンのネギ塩も、牛タンのシチューも美味しかったと言ってくれた。
「あのミンサーをまた一つ用意してもらえないかな? 最近また挽肉の注文が増えてさ」
肉屋の店主も儲かってて何よりだ。
今度また持ってくると伝えて店を出る。
「エルヴィスのお店に行って、ソフィアのドレスをお願いしに行こう」
セバスチャンが待つ馬車へと戻り、エルヴィスのお店に寄ってもらう。
エルヴィスから連れ出せの合図が飛んできたが、ソフィアといるので無理だと合図を返す。
ソフィアのドレスを作りに来たと伝えると、いま作っているエルザさん達のドレスを見せてくれた。
「黄色と黒はお母さんの好きな色だから、このドレスは良いと思うわ。ただこっちの薄ピンク色のドレスは、肌の部分がもう少し隠れた方が良いと思います」
エルヴィスも確かにと納得していた。
どうやらフランツェスカさんのドレスは、あまり肌を露出させてはいけないらしい。
アデルハイトさんのドレスはこれから作るので、生地を持ってきてイメージを語るエルヴィス。
「アデルハイト様は公式の場では赤いドレスしか着ませんので、デザインには拘りたいですね」
エルヴィスとソフィアがドレスのデザインについて話し合っている。
「どう思うギンジロー?」
急に振られてもドレスの事なんてまったくわからない。
ただ、前にネットショップで買った赤色の派手でキラキラした生地があったので、それを取り出してエルヴィスに渡す。
「故郷の生地なんだけど、キラキラしていて面白いなと思って。これなんてどうかな?」
「派手でサイコーだな。この生地なら今までとは違うドレスが作れる」
創作イメージが湧いてきているようなので、他の色の生地も取り出してエルヴィスに渡した。
「全部エルヴィスの為に仕入れた生地だからあげるよ。その代わりこの青い生地でソフィアのドレスを作って欲しいんだけど」
「悪くない取引だ。いいぜギンジロー」
取引成立なのでお互いに右手を出して握手をする。
そしてエルヴィスが引き寄せてきたので、胸と胸を合わせ左手で背中を叩き合うのであった。