閑話 honey so sweet
最近マインツ家の使用人に新しい仕事が出来た。
その仕事とは街の食堂にハンバーグソースを納品して、マインツハンバーグを食べる。
通常の給金とは別にこの日は銀貨3枚の手当が付くので、使用人にとっては正においしい仕事と噂されているのである。
服には一切興味がなかったオリバーだが、マインツ家の料理長として街で仕事をするのであればとスーツを着る事にしたみたいだ。
「少し動かないでね」
コーエンは持っていたハンカチを折ってチーフにする。
オリバーの胸ポケットにチーフを挿すと、ピッタリと収まったのだった。
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「料理長付け合わせなんだけど」
「料理長さん、これちょっと食べてみて」
「オリバー料理長、この前教えてくれたやり方が上手く出来てるか見てもらって良い?」
お店に行く度に店主達から質問やアドバイスを求められ、それに答えるオリバー。
その姿を見て、もしもの話だけど私が注文を受けてオリバーが料理を作る。
そんな食堂を二人でやっていたらと妄想し、頬を赤らめるコーエンだった。
「コーエンどう思う?」
妄想モード全開で話をあまり聞いていなかったが、いつもは大盛りで注文する女性が、今日は量少なめで注文をしたそうだ。
「あの男性のお客様は、このお店初めてですか?」
冒険者らしき男性客の事を聞くと、見た事がないと。
若い女性の方は近所の鍛冶屋の娘で、マインツハンバーグが美味しいから今度お客さんを連れてくると言っていたそうだ。
「女性の少なくした分のお肉を男性のお肉に足してあげて下さい。そうすればまたあの二人で、お店に来てくれると思いますわ」
コーエンが見たところ恐らく女性は男性に好意がある。
だって好きな男性の前で、大盛りは食べる姿は見せれないでしょ。
マインツハンバーグは銀貨1枚と高価だが、冒険者の男性なら問題なく二人分を支払うだろう。
二人でまたこの食堂に来て、マインツハンバーグを注文する。
その理由を作ってあげれば全てがうまく行くと思うの。
オリバーは良く分かっていなかったが、店主には伝わったようだ。
また料理長と一緒に来て、アドバイスをしてくれと言われてしまった。
まぁでもみんなには話しておくわ。
食堂の店主からどうしてもオリバーと一緒に来て、お店のアドバイスが欲しいと頼み込まれてしまった事を。
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「ご苦労さん。この後メシ食って適当に帰るから、この金持って馬車で帰りな」
「何言ってるのよオリバー。マインツハンバーグを二人で食べて味を確かめるのも仕事でしょ。この後食事してから歩いて帰りますので、そのままお城に戻って下さい」
馬車を見送った後、コーエンはオリバーと一緒に歩き出すのであった。
「ここはソフィア様の……」
場所は宿屋ハングリーベアーの食堂。
ここは宿屋の食堂なので昼営業は基本やっていない。
お客様のいない食堂に入るオリバーとコーエン。
「バーニー来たぞ」
店主のバーニーさんと二人で料理を作ってくれるらしい。
コーエンはオリバーから上着を受け取ると、シワを伸ばしてからエルザ様から頂いたマジックバッグの中に保管する。
なんだか夫婦みたいだわと思いながら、カウンター席に座り厨房の様子を見るのであった。
「これ坊主が作ったハニートーストという料理らしい。オーブンで焼いたパンに、たっぷりのバターとハチミツをかけるだけど、オマエの好きなフルーツも足しておいたから食べてみな」
私の好きな物を知っているオリバーは、私の想いは知ってるのかな?
ハングリーベアーで食事をした後、オリバーがスーツを仕立てたお店に連れてきてもらった。
「この生地で彼のシャツを仕立ててもらえるかしら?」
オリバーには遠慮されたけど、こんな機会は滅多にないもの。
えっ? お礼に何か買ってくれるって?
どうしよう…… そうだ。
「オリバーありがと。仕立てたシャツの受け取りもあるから次一緒に来る時までに考えるわね、あとまたあの甘いハニートーストが食べたいの。私の好きな……」