第百十八話 モーニングハンバーグ
「昨日は大変だったな〜」
ベッドで背筋を伸ばして天井を見つめる銀次郎。
昨日は化粧品を渡した後、ミリアと共にマインツ家のダイニングに呼ばれてそのままお酒を呑む事に。
領主のレオンハルトさんには、社交ダンスの発表会に至るまでの話を聞かれて説明をしたり、王都に料理人を連れていく件では申し訳ない事をしたと謝罪された。
レオンハルトさんには王都での仕事を話せる範囲で聞き、自分なりに農業で出来そうな事は伝えておいた。
相変わらずエールを呑み続けて酔っ払っていたクーノさんだが、仕事の話になると真剣に聞いていたのは意外だったな。
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「ギンジローちゃんおはよー」
いつも通り庭の井戸水を頭からかぶりシャキッとさせた後、ハングリーベアーの食堂に行く。
クラーラさんの笑顔に癒されていつもの席に座るが、今日は酔い覚ましのスープだけを注文した。
「ギンジローおはよう。スープ飲んだら行くからね」
今日はハリーと銀次郎で、マインツハンバーグのたべ歩きをするのだ。
テンションの高いハリーに急かされてスープを飲むと、すぐに連れ出されてしまった。
「まずはここだね」
ハリーが指差したのは、ハングリーベアーと同じように宿屋兼食堂でモーニングハンバーグを提供しているお店だ。
「マインツハンバーグとトマト煮込みハンバーグです。料理を教えてくれた二人に来てもらえるなんて嬉しいわ。マインツハンバーグを出し始めてから、宿泊のお客さんが増えて助かっちゃってるわ」
「それは良かったです。さっそくいただきますね」
出てきたのは鉄板の上でジュージューと音を立てているマインツハンバーグと、グツグツと煮込まれていて美味しそうな匂い漂うトマト煮込みハンバーグだ。
「ハングリーベアーと同じで宿屋の食堂だから、ボリュームがあって朝から元気が出そうだね」
冒険者が泊まる宿屋の食堂では、確かにボリュームは大事だ。
この世界では高額の銀貨1枚の朝食でも、冒険者達にとっては美味くて腹一杯になれば人気になるんだと思う。
朝からハンバーグをたべるのには疑問を持っていた銀次郎だが、冒険者達の胃袋ならなんの問題もないのだろう。
「やっぱりこのソースが堪らないね。野菜の甘みと刺激的なスパイスが混ざり合って深みのあるソースになっている。パンにつけても美味しいし、今度マインツソースを作るところを見させてよ」
よく毎日たべてて飽きないなと思うが、ハリーに今度マインツ家の厨房に案内する事を約束する。
「ご馳走様でした。ギンジロー次行くよ」
二軒目の食堂でも、マインツハンバーグを注文し美味しそうにたべるハリー。
こっちはもうお腹いっぱいだよ。
結局三軒目の食堂まで連れて行かれて、ダウンする銀次郎だった。
お腹を落ち着かせるために散歩をする銀次郎とハリーは、久しぶりに顔を見ようとお婆さんの家に向かう。
「おーギンジローとハリーけ。久しぶりじゃの。今日はどうしたんじゃ?」
「特に用事はないんですけど、せっかくなんでまた野菜を売ってもらえますか? あとサツマイモはそろそろ収穫できそうですか?」
「本当に買うのけ? この間ジャガイモを全部買ってくれたのに」
ジャガイモはハングリーベアーでフライドポテトを作って、売れるという確証を得た。
アイテムボックスに入れていれば悪くならないし、買えるのならもっと欲しい。
マインツ家でマヨネーズも作れる様になったので、ポテサラも作りたいな。
「お婆さん、ジャガイモもっと欲しいんですけど何とかならないですか?」
「この間あんなに買ったのにまだ欲しいんけ? 知り合いに声をかければ大丈夫じゃが、どのくらい必要なんじゃ?」
「前と同じ値段で良ければ全部買わせてもらうのでお願いします」
「ほえ〜男前じゃの。別に構わんが何考えてるんじゃ?」
今日はハンバーグの日と決めていたので、料理を作る事は考えていなかった。
でもお婆さんの顔を見たら、作りたい料理がたくさん出てきたのだ。
お婆さんにお願いして台所を借り、料理を作り始める銀次郎であった。