第百十七話 いずれ来る混乱
「これは私なの?」
鏡の前で立ち尽くすディアナさんとリサさん。
「これが私とギンジローさんの秘密なの。このお化粧品の事が世間に知れたら、ギンジローさんにこの国の女性全員が押し寄せるわ」
コクコクと猛烈な勢いで頷く二人に、自分の商会を立ち上げて商売をやらせてもらっているが、化粧品の事は良く分からないのでエルザさんにしか売っていない事を話す。
「ねぇギンジローさん。そろそろまたお化粧品を譲ってもらえるかしら? ディアナとリサにもお化粧品を渡したいから」
「はい用意は出来ているので大丈夫ですけど、今ここで渡しても良いですか?」
「私は嬉しいけどミリアさんを連れて来て頂戴。ギンジローさんの商会ランクを早くゴールドにしたいから、商業ギルドを通してお支払いするわ」
エルザさんは、ミリアに来てもらう様にセバスチャンに指示を出したのであった。
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「お待たせ致しました……ってどうされたのですか?」
ミリアが支払い用の魔道具を持ってくるが、テーブルに乗り切らない程の化粧品を見て驚いている。
「悪いわね、急に呼び出してしまって。お化粧品を買うから支払いの方良いかしら? あっ大丈夫よ。ミリアさんはお化粧の事を知ってるから」
「ミリアさんって可愛らしいのね。唇がモチモチのプルプルじゃない」
ディアナさんとリサさんに質問攻めに合うミリア。
「お化粧はコーエンさんに教えてもらったばかりで、私なんてそんな……」
「そんな事ないわよ。可愛らしい顔してるのに身体は細いし、それなのに胸なんて私より大きいじゃない」
「そうよ。お肌は白くてまるでお人形さんみたいじゃないの。男が放っておかないでしょ」
女性トークが始まり気まずくなる銀次郎。
出来るだけ気配を消し、話が収まるのを待つ。
「そろそろ良いかしら? ミリアさんが困ってるわよ」
エルザさんの一声で何とか助かったミリア。
セバスチャンが淹れてくれた紅茶を飲んで、やっと落ち着く事が出来たのだった。
「ギンジローさんがね新しいお化粧品も持ってきてくれたのよ。私たちが使っている最高級の物と比べると効果は低いらしいのだけれど、お値段は安いし数も多いわよ」
ミリアは安価な方の化粧品セットを手に取り、丁寧に確かめている。
「ギンジローさん、こちらは実際にはいくらくらいする物なのですか?」
基礎化粧品も化粧品のセットも大体銀貨3枚くらいだと伝えると、女性陣みんなが驚く。
「確かに使ってみないと分からない部分もありますが、小さな鏡だけでも大金貨1枚以上はすると思いますが……」
うんうんとディアナさんもリサさんも頷く。
「ちなみにこのお化粧品は毎月この数を用意出来ますか?」
「うーん……別に数は幾つでも用意出来るけど……」
「幾つでも!?」
ディアナさんとリサさんの反応がすごい。
コーエンさんの眼がキランと光った気がして怖くなる銀次郎。
「エルザ様これは私の考えですが、お化粧品の事はいつか世間に広まってしまうと思います。それならばこちらのお化粧品は、数量を絞ってマインツ家かギンジローさんの商会で売り出した方が、いずれ来る混乱を管理できると思うのですが」
いずれ来る混乱ってなんだ? いやなんとなく分かる気はするけど……
「そうよね。ギンジローさんどうする?」
「いやいやいやいや、化粧品で商売は考えていないですし面倒事はちょっと…… エルザさんとミリアで上手くやってくれませんか?」
「欲のない人ね。まぁでも確かに内緒にするにも限界はあるかも知れないわね。それならこっちで管理した方が、混乱は小さくなるかも」
何やっても混乱はあるんですね。
銀次郎は化粧品は用意出来るが、本当に化粧の事は分からないのでエルザさんに任せる事を再度伝えた。
一応前にも言ったが、何かあってはいけないのでパッチテストだけはしっかりしてもらう様にお願いをするのであった。
化粧の事を全く知らなかったですが、随分お値段は高いんですね。
女性の方が大変な苦労をしている事を、小説を書く事によって知る事が出来ました。
今日は母の日ですので、化粧品でもプレゼントするかな。