閑話 カールハインツとコンペートー
「お久しぶりね。今日はどうしたの?」
青年が我が商会に来てから数日。
カールハインツは、王都で一番の美食家であるアデルハイト様と面会をしている。
「今回はこちらを確かめてもらいたく、アデルハイト様の元へ参りました。感謝の気持ちを伝えるのに、ちょうど良いものが見つかりましたので」
喜んで頂けると思い、あの青年から買い取ったコンペートーをテーブルの上に置く。
「あら? コンペートーじゃない」
コンペートーを知っていたアデルハイト様に驚くが、商人たるもの表情を変えるわけにはいかない。
ん? これは……
メイドの方が紅茶を持ってきたが、この細長い紙で包まれたものを、カールハインツは知っていた。
「こちらはお砂糖ですね」
「最近これを使ってるのだけど、よく知ってたわね? 心配しないでね。お砂糖は貴方の商会から買ってるけど、量は減らしていないはずよ」
砂糖の納品は先月も今月も同じだったが、質では圧倒的に負けている。
三大商会の一つと呼ばれるまでに、我が商会を大きくしたがそこで満足してしまっていたな。
アデルハイト様にお礼を述べ、退室しようとするが引き止められてしまった。
「来月から仕入れを増やすから少し待ってて」
アデルハイト様は執事を呼び、シュミット商会とヘルマン商会から仕入れていた物を、全てウチから仕入れるようにと指示を出している。
信じられない。
なにが起きているのだろうか?
「前に仕入れてもらったマインツのワイン。あれもまた仕入れてくれるかしら? あと塩をマインツ家に届けて欲しいの。あなたの商会で用意できる分全て届けてね」
まるで夢みたいな出来事だが、商人たるもの表情を変えるわけにはいかない。
「畏まりました。すぐに手配致します」
「あなた嬉しそうな顔をしているわね。コンペートーは後で美味しくいただくわ」
悟られないようにしていたが、アデルハイト様に伝わってしまっていた。
商会を立ち上げて大きくしたつもりだが、商人としてはまだまだだな。
もう一度深くお辞儀をして退室するのであった。