第百十三話 おかえり
「ハリーおかえりー、プロージット!」
テーブルの上には、マインツハンバーグとトマトソース煮込みハンバーグが美味しそうな湯気をあげている。
「あぁこれだ。ハンバーグがない生活は耐えきれなかったよ」
おいしそうにたべるハリーを見て、帰ってきたんだと改めて実感する銀次郎。
そしてその隣でハリーにハンバーグを取られまいと、必死に口の中に入れる受付の娘。
「ゆっくり食べなさいよ」
ミリアが心配するが言っても無理だと思う。
「お嬢ちゃんの喰いっぷりを見たらマインツハンバーグが食べたくなった。こっちにも作ってくれ!」
冒険者のお客さんから注文が入り、忙しくなってきたハングリーベアー。
しかし毎回思うがここの連携は異常だ。
普段はおっとりとしているクラーラさんだが、無駄な動きがない。
お客さんがエールを飲み干すともう一杯注文するか聞いてくるし、常連さんに至っては飲み干した瞬間に黙ってお代わりのエールが出てくる。
長男のルッツはフライドポテトの注文が立て続いてるが、注文が来る事を見越して先に揚げていた。
冒険者がフライドポテトを注文した瞬間にアツアツホクホクのフライドポテトが出てくるなんて、あの赤い看板のお店かよ。
心の中で突っ込む銀次郎だった。
「エデルなに飲む?」
ハリーが戻ってきて嬉しそうなエデルは、果実水を飲み干していた。
「あのシュワシュワした黒くて甘い飲み物ってありますか?」
ハングリーベアーでは売っていないが、クラーラさんにお願いしたら好きにしていいよと言ってくれた。
飲み干した木のカップをハリーに渡す。
「氷魔法でこのカップに氷を入れてよ」
ハリーが氷を入れると、周りの冒険者達から驚きの声が。
そうだった、氷魔法は上位の魔法だ。
さっそくパーティーに勧誘されるハリーだが、丁寧に断っていた。
銀次郎はエデルにコーラを注ぐと、コーラとフライドポテトはサイコーだと満足していた。
受付の娘はエデルからコーラを少しもらい、フライドポテトを口の中に入れる。
コーラをどうやって作るのか聞かれたが、そんなの分からないよ。
レシピは金庫の中に保管されていて、それを見れるのは二人しかいないって噂もあるし。
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「クラーラさん。演ってもいいかな?」
ギターを見せるエルヴィスに、マニーさんは太鼓を叩いて煽っていく。
慌てて銀次郎は、アイテムボックスから赤いタンバリンを取り出す。
「久しぶりのエルヴィスナイトね。誰かリクエストある?」
クラーラさんも煽ると、冒険者の一人がエールを注文。
エールが届くと、エルヴィスとマニーさんはエールを呑み干してあの曲を始める。
そう、みんな大好き皇帝ベッケンバウアー三世の物語だ。
マニーさんが肩を揺らしながら太鼓を叩く。
草原を一騎で駆け上がるベッケンバウアー三世。
エルヴィスもギターの腹を叩いて、オーディエンスを煽る。
商機と感じたルッツとフランツは、木製の扉を外してオープンスタイルに。
外にテーブル出すとお客さんが集まってきた。
エールの注文をさばくクラーラさん。
商業ギルドのレニャとナディアは席を立ち、ハリーとミリアを二人っきりにさせている。
良い仕事しますね〜
敵地でお姫様を助け出す皇帝ベッケンバウアー三世に歓喜し、自陣に戻り立て直してから敵をやっつけた時には、みんな大合唱だ。
勝利を祝ってエールを飲み干し、お代わりを注文するオーディエンス。
最後にエルヴィスの儚げなギターが、心を何度も締め付けてくる。
「ありがとう。次は新しいのを演りたいんだが」
空になった木のジョッキを指差すと、外にいたお姉様が手を上げる。
すぐにフランツが注文を聞くと、白ワインが届いた。
「ギンジロー、あのおとぎ話を聞かせてくれ」
エルヴィスの無茶振りにマジかよと思ったが、妖精に魔法をかけてもらいお城で開催された舞踏会に参加した女の子と、ガラスの靴の持ち主を探す王子様の物語を話した
するとエルヴィスは、このおとぎ話を歌にしたから聞いてくれとギターを弾き始める。
マニーさんの太鼓は心臓の鼓動のように、不安や悲しみそして喜びを表現していてまるで魔法みたいだった。