第百十二話 王都三大商会と金平糖
「氷魔法!?」
ミリアが声を出して驚く程、ハリーの言葉は衝撃的だった。
氷魔法を使ってとお願いすると、手のひらに氷を一つ作り出してくれた。
「おぉ氷だ。魔法で氷ができた」
触ってみると冷たくて確かに氷だった。
エデルの商売を手伝っていたハリーは、氷に触れるたびに、氷魔法を覚えようと考えていたそうだ。
「エルザ様からお願いされた手紙と品物は無事届けたよ。返事を受け取ってきたから渡すね」
ハリーから手紙を受け取ると、二人の事は知っているのか聞かれた。
「エルザさんの友達でしょ?」
「そうだね……確かに友達ではあるね」
その言葉に少し違和感を感じたがハリーとミリアが顔を見合わせて笑っているので、いちゃついてんな〜と思った銀次郎は金平糖はどうだったか聞き話題を変える事にした。
「まずはお礼を言う。親孝行が出来たよ」
ハリーのお母さんは、息子がこんな高そうなお菓子を持ってくるくらいの生活が出来ている事に喜んだ。
そして美味しいと言って涙を流す母親に、ハリーも思わず泣いてしまったそうだ。
「そうだ、コンペートーを商会に買い取ってもらったお金を渡すよ」
ハリーがお金を渡してきたのでそれを一度受け取った後、今回の報酬として全部返す銀次郎。
ハリーは受け取りを拒否したが、本格的に商売をするのだったらお金は必要だ。
ミリアからも説得してもらい、なんとかお金を受け取ってもらうのであった。
「王都にコンペートーを持ち込んだ話からするね」
ハリーはまず最初に、王都で一番有名なシュミット商会に向かった。
受付でコンペートーを出すと、袋の中のガラス瓶を見て中身はなんだと担当者に聞かれる。
ハリーが砂糖菓子だと伝えると、お前みたいな若造が砂糖を使ったお菓子なんて持っているわけがない。
これは盗品ではないのかと疑われてしまった。
違うと説明したハリーだが、その後も相手の失礼な態度に何度も商会を出ようか考えた。
しかし相手の反応を確かめる目的だったので我慢すると、最終的に金平糖は三個で小金貨1枚で買い取ると提案される。
明らかに足元をみられたハリーは、その提案を断ると担当者は舌打ちをしてきたそうだ。
王都で一番有名な商会だから期待していたのに残念な結果だった。
次に訪れたのはカールハインツ商会。
受付でコンペートーを出すと、立派な応接室に案内される。
そこでは商会長自らテーブルにつき、紅茶まで用意してくれたのだ。
「砂糖を使いますか?」
ハリーにとって紅茶は商業ギルドで飲む物で、ミリアが幸せそうに砂糖を入れて飲む姿を見るのが大好きだった。
いつの間にか紅茶に砂糖を入れて飲むのが当たり前になっていたハリーは、アイテムボックスからシュガースティックを取り出して紅茶に入れていた。
「砂糖の入った細長い包みを、私はマインツに行った時に見たことがあります。ハリーさんはマインツの街から来られたのでしょうか?」
さすが王都で有名な商会長だな、なんでも知っていると感心するハリー。
この時カールハインツ商会長は、マインツの街で砂糖を流通させているのが目の前の青年だと勘違いする。
そして商会長はコンペートーという砂糖菓子を買い取ると決断したのだ。
「この様な素晴らしい物を、我がカールハインツ商会に持ち込んでくれてありがとうございます。三つ譲ってくれるとの事ですが私には値段がつけられません。いくらでも構いませんので希望の額を言って下さい。その金額で買わせてもらいます」
驚きの反応だったが、これは商会長が値付けを出来ないという意味ではない。
いくらで買い取っても売れる自信があり、それだけの商品だと認めてくれたのだ。
「分かりました。それでは一つ大金貨1枚で宜しいでしょうか?」
もちろん商談成立で握手をする二人。
ハリーが代金を受け取った後、商会長から継続的に仕入れる事は可能か聞かれたので、それは気分次第ですね(ギンジローの)と答えて商会を後にする。
次にハリーはヘルマン商会へ向かうが、ここでは新規の買取はやっていないと門前払いにされてしまった。
担当者がどうせ大した物を持っていないんだから時間の無駄だと、呟いた事をハリーは聞き逃さなかったのだった。