第百十一話 第三王子と侯爵家のお嬢様
「このペンって、インクをつけなくても書けるのはなんでなの?」
便箋とペンを渡して当日までに手紙を書いてもらうようにお願いしたが、ソフィアがペンに興味を示した。
「故郷ではそれがあたり前だったから理由は分からないな。気に入ったのならもっと良いの用意するよ」
ソフィアが喜ぶ姿に幸せを感じたが、珍しくセバスチャンが反応する。
セバスチャンも欲しいのかな?
というか伯爵家の執事なら、手紙を書く事は多いだろう。
虎も最近は減ったとはいえ、机の上には書類がたくさんあった。
日頃のお礼に、万年筆を贈ろうと考える銀次郎だった。
「明日も来るから、また一緒に料理の練習をしよう」
そう約束してソフィアと別れる銀次郎。
「オリバー達のところに行ってるので、ミリアの用事が終わったら連れてきてもらえますか?」
セバスチャンにお願いして料理人達と雑談をしていると、ミリアが厨房にやってきた。
「とりあえず一服しよう。ココアでいいよね?」
ミリアが頷いたので少し甘めのココアを用意し、セバスチャンにはコーヒーを淹れる。
目を瞑りコーヒーの香りを愉しむセバスチャンを見て、銀次郎も至福の時間を味わうのであった。
「甘くて美味しいです」
ミリアが両手でココアのカップを持ち、フーフーと温度を冷ましながら飲んでいる。
自分の可愛いポイントを知っているなと感心する銀次郎。
「化粧の勉強はどうだった?」
「お化粧は奥が深いです。コーエンさんに教えてもらっていますが、自分でお化粧するのと全然違いますね」
コーエンさんの化粧に対する情熱は本物なので、どんどん質問して教わるんだよと伝える。
「ソファーとベッドなんですが……」
ソファーとベッドは、世に知れ渡れば欲しい人はいくらでも現れるだろうと虎と話したらしい。
マインツ家に売ったソファーセットはイタリア製だし、ベッドはフランス製のハイクラスタイプだ。
異世界にある木の椅子とベッドでは比べ物にならないが。
「高級なソファーや椅子は難しいと思うけど、基本は綿を詰めれば似た様なものは作れる。ミリアが売れると思うんだったら商業ギルドで作ってみたら?」
「ギンジローさんは作らないんですか?」
作るもなにもネットショップでポチれば買えるからね。
野良猫のアオからもらったスキルは本当にチートだなと思いつつ、ソファーやベッドを作る事は考えていないからミリアがやったら良いんじゃないかな。
権利はどうしますかと聞かれたが、自分が作った物じゃないしそんなの要らないと伝える。
見本となるものが欲しいと言われたので、用意しとくと約束した。
「あっ!木材を仕入れる商会だけお世話になっているところでお願いできるかな?」
もちろんですとミリアが言ってくれたので、カールさんご夫婦の木材商会にお願いしよう。
ご夫婦にはお世話になってるし、息子さんには鉄板焼きハンバーグの油とソース跳ね防止の木の紙を作ってもらってるからね。
「ギンジロー様、少し二人で話をしたいのですが宜しいでしょうか?」
セバスチャンの申し出に応える為、ミリアには申し訳ないが少しこの場を離れてもらう。
「ソフィア様ですが、実は学校で嫌がらせを受けておりまして」
内容は、この国の第三王子がソフィアに好意を持っており、それを良いと思わないとある侯爵家のお嬢様が嫌がらせをしているとの事だった。
ソフィアは第三王子にもそのお嬢様にも興味はないのだが、二人とも影響力が強いので困っているみたいだ。
そんなことソフィアから聞いた事がなかったので、ショックを受ける銀次郎。
そういえば王都に会いにきて欲しいってお願いされたっけ。
セバスチャンはいつでも馬車の用意が出来るのでと言ってくれたので、会いに行く時はお願いしますと伝える。
コーヒーを飲み終えた銀次郎は、ミリアと一緒にセバスチャンに送ってもらう事にした。
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商業ギルドに着いたので、ミリアと社交ダンスの発表会の打ち合わせをする。
セバスチャンと別れて建物に入ると、受付のレニャさんからお客さんがいる事を教えてもらった。
ミリアのお客さんだったらまた今度話をすると伝えるが、どうやら自分も関係のある人らしい。
誰だろうと思いつつミリア専用の部屋に通される。
扉を開けると、そこには懐かしい笑顔の魔法使いの姿が。
「ハリー、戻りが遅いから心配してたんだぞ」
ハグをして再会を喜ぶハリーと銀次郎。
ミリアもハリーとハグをして喜んでいる。
少し顔を赤らめたハリーだが、すぐに前と変わらぬ優しい笑顔になった。
「商売の為に氷魔法を覚えてきたよ」