第百八話 平常心
昨日の事を思い出すとあまり寝れなかったが、ベッドのおかげもあり目覚めは良かった。
庭に出て頭から勢いよく井戸水をかぶる銀次郎。
いつもは一回で頭がシャキッとするけど、頭の中が春色だったのでもう一度頭からかぶり顔を両手でバチンと叩く。
よし今日も頑張ろう。
「ギンジローちゃんおはよー。あれ? なんか今日のギンジローちゃん男前だね」
クラーラさんに褒められたので、バーニーさんほどいい男ではありませんが頑張りますと伝える。
女性の勘は恐ろしいなと感じつつ、浮かれている自分がいたので平常心と呟く銀次郎。
いつもの席に座ってエデルと一緒にモーニングをたべる。
エデルはハリーが王都に行ってから、モーニングはハンバーグをたべている。
ハリーさんがたべたいと思うから、僕が代わりにたべてるんですっていい奴だなエデルは。
「エデルは偉いな」
エデルの頭を撫でると何かあったんですか? と真面目な顔で言われてしまった。
平常心、平常心。
セバスチャンが馬車で迎えにきてくれたので、まずはエルヴィスの店に行く。
セバスチャンには待っててもらい、冬用のロングコートを着て店に入った。
「あんたどうしたの?」
エルヴィスのお母さんに夏なのに冬用コートを着ている事に呆れられるが、そのままエルヴィスの元に行って左胸の裏地を見せる。
エルヴィスの左胸に右の拳を軽く当てた後ハグをすると、お互い我慢していた笑いが身体から溢れ出る。
今日の夜は、マニーさんも誘って呑みに行こうと約束して店を出る。
「次は申し訳ないですが、レイチェルさんのダンスホールに寄ってもらえますか?」
セバスチャンに伝えると、馬車が動き出す。
ちなみに冬用のロングコートは馬車の中で脱ぎました。
レイチェルさんにマインツのお城での練習について、いつでも大丈夫なので日程を決めて下さいと伝える。
レイチェルさん嬉しそうな顔してたな。
絶対成功させようと、改めて決意する銀次郎だった。
用事が済んだので、セバスチャンに次は商業ギルドまで連れていってもらう。
商業ギルドの扉を開けて中に入ると、ミリアが受付で待っててくれた。
昨日マインツ家から連絡があったので、何事かと心配してくれていたみたいだ。
悪い事ではなく、ミリアにも立ち会って欲しい商談だと伝える。
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「お初にお目にかかりますレオンハルト様。私は商業ギルドのミリアと申します」
応接室に通されると、マインツ家の家族総出で出迎えられた。
ミリアもこの状況は予想していなかったと思うが冷静だな。
「なんでこんなに集まってるの?」
ソフィアに小声で聞くと
「昨日お兄ちゃんが食事の時にベッドとソファーを自慢してたから、食後の後みんなで見にいったの。そうしたらお父さんがこれが欲しいって騒いじゃって大変だったんだから」
そうですか……
ネットショップでたくさん仕入れてきたので、好きなのを選んでもらいましょう。
銀次郎はアイテムボックスから、ソファーとベッドを取り出していく。
「こんなにあると迷うね」
領主のレオンハルトさんは、ソファーとベッドを触っては座り感触を確かめている。
長男のヒューイさんは奥さんと子供達と一緒に、ベッドを選んでいた。
クーノさん夫婦は、いかにこのベッドが素晴らしいものか説明してくれている。
ありがとうございます。
「ギンジローさんこれで全部?」
「はいエルザさん。今日持ってきたのはこれで全部です」
「これでいくらなの?」
銀次郎は仕入れ値に少し色をつけて提示したが、安すぎると怒られてしまった。
結局その倍の値段で買ってくれる事になり、商業ギルドを通して支払いを済ませてくれた。
メイド長のコーエンさんが指示を出して、ベッドとソファーを別の部屋へと運び始めた。
「お手伝いしましょうか?」
コーエンさんは遠慮したが、大容量のマジックバッグに見せかけたアイテムボックスが銀次郎にはある。
絶対にこっちの方が楽で早いので、ベッドとソファーを各部屋へ持っていく事にしたのだ。
「ギンジロー後で部屋に来て。お願いしたい事があるから」
「うん分かった。これが終わったら行くよ」
急いでベッドとソファーを各部屋に運び、仕事を終わらせる銀次郎。
ミリアはこの後コーエンさんに、お化粧を教えてもらうそうだ。
セバスチャンと一緒に、ソフィアの部屋へと向かう。
「お願い事ってなに?」
ソフィアの部屋に入って話を聞くと、今度のお茶会の事だった。
「ライナとアイリスにサプライズをしたいの。何をするか一緒に考えて欲しいんだ」
ソフィアってサプライズ好きだよな。
もちろん良いよと答えて、一緒に考える銀次郎。
二人が何が好きなのか聞くが、お洒落をして美味しいものをたべて買い物に行く。
普通の事が好きで、特にここからピンと来るものはなかった。
「んーそれならやっぱり手紙かなぁ」
前回は誕生日というお祝い事があったが、今回は何もないので日頃の感謝を伝える手紙を提案する。
分かったとソフィアは返事したが、前回のサプライズと比べると見劣りしてしまう。
何かあるかなと考えていると、二人から送られてきた白ワインとエールの樽、あとは蜂蜜酒の壺と大量のチーズを思い出した。
アイテムボックスから取り出して、銀次郎はこれでサプライズする事を提案する。
「ソフィアがこれを使って料理を作ろう。二人も喜ぶと思うよ」
ソフィアの顔がパァッと明るくなったので、厨房に行って試しに作ってみる事になった。