第百五話 涙目のエミリア
「ギンジローちゃんおはよー。昨日はありがとね」
今日もクラーラさんの笑顔に癒される銀次郎。
食堂にいた冒険者達も、またあのダンナを連れて来てこい。
そしたらエールがタダで呑めるからと騒いでいた。
クーノさんは領主の次男で貴族だけど、本人が話をしていないので銀次郎は黙っていた。
まぁお金の出どころはオリバーというか、エルザ様だから説明するのもややこしいし。
「ルッツ昨日のフライドポテト美味しかったよ」
ハングリーベアーの売上を伸ばしたのは、ルッツの力も大きかった。
またエールの進む料理を今度教えると約束する。
「ギンジローちゃん、マインツハンバーグをお店に教える件そろそろどうかな?」
最初にハンバーグを教えた店主達の売上は、肉やソースの仕入れ量からすると伸びている。
マインツ家の料理として売り出した効果も大きい。
実際にデミグラスソースはマインツ家の料理人達が作り、マインツソースとして納品までしてくれている。
ハンバーグの口コミが広がってきているので、良い頃合いだろう。
クラーラさんには近日中に開催出来るよう、調整しますと伝えるのであった。
食事を済ませた銀次郎は、親方の工房に向かった。
「すみませーん。親方いますかー? いますよねー入りますよー」
呼んでも出てこない事は分かっているが、一応呼んだ事実を作ってから工房に入る銀次郎。
「なんじゃ?」
相変わらず無愛想な親方だが、追加のミンサーの注文は快く受けてくれた。
お代はいつものウイスキーである。
「ギンジローさんこんにちは。お願いがあるんですけど」
お弟子さんのアントニオさんから、今作っている馬車の車輪のイメージを高めるために、ピザカッターを見せて欲しいと言われた。
コロコロ転がしては、馬車の車輪の部品を回すアントニオさん。
「参考になるんだったら、そのピザカッターは差し上げますよ」
別に安い物なのだが、アントニオさんは申し訳ないくらいに感謝してくれる。
馬車には全く詳しくないが、銀次郎はせっかくなので質問をしてみた。
「馬車の揺れって大きいですよね。あれを抑える事は出来ないんでしょうか?」
普段から銀次郎は思っていた事だが、考え込むアントニオさん。
社交ダンスの発表会の賞品候補だった、カボチャの馬車をアイテムボックスから取り出してアントニオさんに見せる。
「これ凄いですね。恐ろしく精密に出来ています。車輪は満月みたいに真ん丸だ」
アントニオさんの様子を見ていた親方も、カボチャの馬車をマジマジと眺めている。
「あの〜良かったらそれも差し上げましょうか?」
アントニオさんの為になるならと、カボチャの馬車も渡す銀次郎。
他に何か無いかなと考えると、喫茶店で使っていた台車を思い出す。
これもアントニオさんに渡すと、親方とお弟子さんも台車を押して動きを確かめる。
「この部分の素材は何じゃ?」
親方に聞かれても、台車のタイヤは硬いゴムだと思うけど詳しくは分からない。
そもそもゴムって何で出来てるんだ?
トイレに行くふりをして、ネットショップでゴム製品を注文し親方とアントニオさんに渡す。
「よく分からないですけど、故郷ではゴムと呼ばれている物だと思います。知ってますか?」
「知らん」
渡したゴム製品を触っては、考える親方とアントニオさん。
親方が作ってくれたミンサーをアイテムボックスに入れ、お代のウイスキーとコーラをテーブルに置く。
普段ならウイスキーに喜ぶ親方だが、今はゴム製品に夢中だ。
また今度来ますねと伝え、工房を出る銀次郎であった。
銀次郎が次に向かったのは問屋街。
まずは肉屋さんに行って、牛タンを安く仕入れた。
肉屋の店主には近いうちにハンバーグを教えるので、そこで契約を取って儲けてくださいと伝える。
「ヴェリーヌさん、皆さんお疲れ様です。差し入れを持ってきました」
肉屋さんの近くにあるヴェリーヌさんの果実水のお店に行くと、本日も完売で既に後片付けをしている。
最近お手伝いに来ているベティーさんとカロリーナさん、そして商業ギルドの受付の娘と一緒に、差し入れに持ってきたパウンドケーキを頂く。
「ギンジローさんって本当にお菓子王子なんですね」
ベティーさんとカロリーナさんがどうやら、受付の娘エミリアに話を聞いたそうだ。
人の事を馬鹿にしてるなと受付の娘を見るが、悪戯っぽく笑ってパウンドケーキを頬張る。
その姿を見て癒された銀次郎は、この娘の下僕なのでお菓子がたべたい時はいつでもエミリアに言って下さいねと伝える。
さっそく子供達にたべさせたいから、このパウンドケーキを売って下さい。
二人にお願いされたので、エミリアに請求するので持っていって下さいとパウンドケーキを渡す。
受付の娘は涙目になっていたが、その姿を見てこの娘は本当に面白いなと思う銀次郎だった。