第九十九話 甘い話
「パパどうだった?」
ここはマインツ家の寝室。
久しぶりに王都から戻ってきた夫であるレオンハルトに、妻のエルザは感想を尋ねる。
「そうだな。悪い人間ではなさそうだ。彼には家名があったが、ヤエス……聞いた事のない家名だったね」
「そうなのよ。家名があるからどこかの国の貴族か、もしかしたら王族かもって調べたけど分からなかったわ。彼は平民だって言ってるけど、さすがにそれはないと思うんだけどね」
久しぶりの再会だと言うのに、話題は銀次郎の事でいっぱいである。
「ソフィアが夢中なのよ。今まで異性に目もくれなかったあの子が珍しくね。だから第三王子がちょっかい出してきてるけど、そっちは全て断ったからね」
「そうか分かった。第三王子はあまり良い噂も聞かない。こっちでもその様に対応するけど、あのソフィアがねぇ。一番下の子だから、それはそれでなんだか寂しいなぁ」
「娘の幸せが一番でしょ。ねぇパパ。これを見て」
エルザは以前ギンジローから買ったキラキラ輝くネックレスを見せる。
「綺麗なネックレスでしょ。彼はこんな国宝級の宝石をいくつも持っていたの。ソフィアがもらったネックレスはもっと凄いのよ」
「確かに国宝級だね。エルザもそのネックレス、彼からもらったの?」
「フフフ」
エルザが意味深に微笑むと、レオンハルトは魔道具の照明を消すのであった。
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エデルを馬車で送ったセバスチャンが戻ってきた。
銀次郎は従業員用のお風呂を満喫してから、本日の打ち上げを兼ねた賄いの準備をしている。
「味見してもいい?」
メイドのアメリーが、プリンアラモードを指差す。
「ダメだよ。果物の数が少ないんだから」
銀次郎はダメだと伝えるが、アメリーは夕食前から目をつけていたプリンをどうしても今すぐ食べたい。
「じゃぁこれだけでもいい? プルンプルンしてて可愛いんだもん」
「仕方ないな。プリンだけだぞ」
銀次郎がプリンが乗った皿を差し出すと、厨房に集まっていた他のメイドの視線が集まる。
「もう分かりましたよ。先にプリンアラモードだけ出しますんで、みんなでたべて下さい」
女性は甘いものに目がない。
今日は虎からお酒を呑む許可も貰っているので、賄いはまだ完成していないが打ち上げが始まったのだ。
「ギンジローさん、スプーンの料理って他に何があるんですか?」
「前菜だから何でもスプーンに乗せれば大丈夫ですよ。ただ見た目が大事なので、色鮮やかな食材を使った方が良いとは思いますけど」
「こっちにもパンを持ってきてー」
「あいよー」
「街のマインツハンバーグってどんな味なのかしら? 早く私も食べてみたいわ」
何回かマインツ家の厨房で賄いをたべているが、最初に比べて人が集まる様になったな。
領主のレオンハルトさんも優しそうだったし、虎もお酒の許可を出してくれる。
夜勤の方々はお酒が呑めないが、休憩時間は厨房に顔を出してみんなと楽しんでる。
「ギンジローさん、ここで行われるダンスパーティーの件、詳しく教えてもらえませんか? 我々もお手伝いをさせてもらいますので、どうしたら良いのか聞きたくて」
三名のメイドが申し出てくれたので、銀次郎はココアを作り社交ダンスの発表会について話をする。
甘い香りに釣られてか、他のメイドも集まってきた。
みんなの分のココアを作る銀次郎。
女性が集まると、今度は若い料理人達も集まる。
「前から気になっていたのですがその黒い飲み物、私たちも飲んでみてもいいですか?」
「これはココアという飲み物です。せっかくならココアに合うお菓子も一緒に作りませんか? 簡単に作れますので」
ホットケーキミックスに牛乳を入れて、バターで焼くだけの簡単なパンケーキ。
たまごが手持ちに無かったので手抜きではあるのだが、ハチミツをたっぷりかければそりゃ美味しいよね。
女性陣が集まり、何度もお代わりを要求。
若い料理人達は、パンケーキ作り自動人形になってしまった。
ごめんなさい。こんな事になるとは予想出来なかった。
オリバーを見ると目線を合わせてくれない。
いつもは助けてくれるのに、本能的に危ないと感じ取ったのだろうか。
銀次郎はパンケーキとココアの材料をそっと置き、用事があると伝えてオリバーの元へ行く。
こうして楽しい? 夜を過ごす銀次郎だった。