第九十七話 食事の準備
「ギンジロー様、大丈夫でしょうか?」
昨日はお婆さんのところに行った後マインツ家の厨房に行って、領主に出すマインツハンバーグとその他の食事の打ち合わせをした。
結局あの後から、ソフィアとの距離が広がってしまった。
なんとなく気まずいが、あれは事故であってしかもお婆さんだ。
絶対にそんな関係にはなり得ない。
世の中の理不尽さと、なんとかしないといけないなと思う銀次郎。
エルヴィスに相談をしたら、喧嘩をした時は相手が喜ぶ事を考えるのと、ひたすら謝れと教えてくれた。
別に悪いことしてないのにな……
セバスチャンに大丈夫ですと伝え、馬車に乗りマインツ家の厨房へと向かう。
「坊主どうした? なんか元気ねぇな」
「ソンナコトナイデスヨ」
今日は領主に初めて会う日だ。
緊張しているだけだと伝える。
今回は全力を出すので、氷も出し惜しみなく使う事にした。
久しぶりの家族団欒なので、まずはオリバーが領主の好きな野菜とトマトのスープを作る。
ミネストローネみたいなものなのだが、マインツで採れる野菜は味が濃くて美味しい。
クレイジーなソルトで味も整えたので、一品目としてはサイコーだと思う。
サラダは、新鮮採れたてレタスを氷水で冷やしシャキッとさせた。
そこに燻製肉とトマトを乗せた、シーザーサラダを出すつもりだ。
サラダの次はワンスプーンで出す前菜だ。
ネットショップで買ったスモークサーモンを、クリームチーズに合わせてレモン汁をかけたスプーンと、ホタテのカルパッチョのスプーンを出す。
見た目も紅白で縁起が良い。
異世界で紅白が縁起良いのかは知らんけど。
「ギンジローはいろんな料理知ってるな」
オリバーが褒めてくれるが、これは自分で考えたものではない。
ワンスプーン料理は色鮮やかな方が良いので、試してみてくださいと伝える。
メインのマインツハンバーグは、アツアツの鉄板に焼き上げたハンバーグを乗せて、目の前でデミグラスソースをかける事にした。
味だけではなく、パフォーマンスもあった方がプレゼンはしやすいからね。
もちろん油とソースが飛び跳ねないように、カールさんの木材商会で作ってもらった、あの木の紙を使う。
食後のデザートはプリンとフルーツの盛り合わせだ。
息子さん夫婦の子供もいるので、プリンなら喜んでくれると思う。
もちろんフルーツの盛り合わせは、エデル商会に依頼した。
プリンは一から作りたかったけど、喫茶店時代に何回も作ったがいつもボサボサになる。
銀次郎はなめらかなのが好きなので、普通にプッチンする事にした。
「ギンジロー様。時間があればソフィア様と一緒に紅茶を飲みませんか?」
セバスチャンが気を利かせて、仲直りする段取りを作ってくれた。
「なんかすみません。ソフィアに何か甘くて美味しいもの作るけど、何が良いか聞いてもらえますか?」
かしこまりましたと言って、厨房を出るセバスチャン。
少し待ってると戻ってきた。
「ソフィア様は、今日の夕食に出るデザートを先に食べてみたいそうです。恐らくですがメイドのアメリーが、ギンジロー様が用意しているデザートが美味しそうだと言ってましたので、気になっているのだと思います」
確かにさっきアメリーがチョロチョロしてたな。
飴が欲しいもんだと思って、いちごみるくの飴をあげたんだけど偵察に来てたのか。
銀次郎はセバスチャンに、夕食に出すのより豪華なのを作って持っていくと伝言をお願いした。
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「私はこの後少し用事がありますので、失礼致します」
セバスチャンがお辞儀をして、部屋から出て行ってしまった。
沈黙する二人。
気まずい空気が流れる中、銀次郎は勇気を振り絞って前に出る。
「昨日はごめん。お婆さんとは本当に何にもないから。嫌な思いをさせちゃって本当にごめん」
「ううん。謝らないといけないのは私なの。お婆さんに嫉妬して勝手に落ち込んで……こんな自分勝手で我儘でごめんなさい」
ソフィアの表情が少しだけ戻ってきた。
お婆さんと何かあるなんて、普通に考えたら絶対にないけど、目の前の女性を悲しませる事はしないと決めた銀次郎。
「悪いのは本当にこっちだから。それにソフィアが自分勝手や我儘なんて思ってないよ」
銀次郎が微笑むと、ソフィアが胸に飛び込んできた。
優しく抱きしめると、甘い香りに満たされる。
「ありがとう」
キラキラ笑顔ってこの事を言うんだな。
今までたくさんソフィアの笑顔を見てきたけど、今日は特別だな。
名残惜しいけど、紅茶を飲んだらまた厨房に戻って準備をしないといけない。
「ソフィアお願いがあるんだけど良い?」
「なぁに?」
笑顔でこっちを見て首を傾げるソフィア。
心の中で可愛いかよと呟きながら、銀次郎はアイテムボックスから取り出す。
「これ、いろんな種類の髪飾り。ソフィアはお洒落だから似合うかなと思って」
「すごく綺麗……ありがとう」
喜んでくれて良かった。
気がつくと持ってきたお湯はすっかり冷めてしまっていたので、一度厨房に戻りお湯を沸かし直す。
今日の紅茶は甘い香りが特徴のアッサムにした。
ソフィアが抱きついてきた時の甘い香りを思い出し、少しにやけてしまう銀次郎。
紅茶を淹れて少し小さめに作ったプリンアラモードをテーブルに置く。
「ギンジローの分は?」
プリンアラモードはソフィアの為に作った物で、紅茶だけで良いよと伝える。
幸せそうにプリンアラモードをたべるソフィアを見て、なんだかこっちも幸せになった。