第九話 ソフィアのお茶会
三日連続でマインツ家の馬車が迎えに来る。
こうなるとちょっとした貴族気分だ。
馬車で揺られながら、今日も楽しい一日になります様にと願う銀次郎だった。
「オリバーさんと料理人の皆様、忙しい時にお邪魔してすみません。今日も厨房をお借りしますので、場所代だと思ってみんなでたべて下さい。メイドの皆様の分もありますので」
そう言って、クッキーとパウンドケーキを大量に渡す銀次郎。
メイドのアメリーは早速クッキーを口の中に入れていた。
「美味しい〜」
幸せそうな顔をするアメリーだが、すぐさまメイド長のコーエンさんに怒られて涙目になっていた。
「ギンジロー様こんにちは。今日も宜しくお願い致します」
肌に潤いが増し、更に美人になったコーエンさんに挨拶をして、厨房の片隅で準備を進める銀次郎であった。
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「ギンジロー紹介するね。親友のライナとアイリス。二人とも可愛いでしょ」
紺色のワンピースを着て、少し大人に見えるソフィア。
美しい銀色の髪の毛は、頭の後ろで一つに纏められている。
ポニーテールの似合う美少女って反則だよなぁと思いながら、今回の主役であるソフィアとお嬢様方に挨拶をする。
「ソフィア様からお茶会を任された銀次郎と申します。本日は宜くお願い致します」
お辞儀をする銀次郎。
「また呼び方戻ってるよギンジロー」
口を尖らせるソフィアに、少しドキっとしながらお茶会がスタートした。
まずはアフタヌーンティセットを用意。
スコーンやシフォンケーキ、パウンドケーキやクッキー、サンドイッチをテーブルにセットする。
「何これ可愛い。ソフィア凄くない?」
ザクセン子爵家長女のライナ様が、目を輝かせている。
この反応は、日本の女子高生とあまり変わらない。
ライナ様に会釈をして、テーブルから一歩下がる。
「ギンジローだったら、これくらい当然よ」
何がこれくらい当然なのだろうか?
悪い気はしないが、ソフィアの自分に対する謎の評価が不思議で仕方がない。
「ギンジローさんってソフィアの何?」
本日の主役でもある、ハイデルベルク男爵家の次女アイリス様から質問が飛んできた。
「内緒よ〜」
ソフィアが惚けながらそう言うと、三人でガールズトークが始める。
どこの世界でも女性が三人集まれば、同じなんだなと思いながら飲み物を用意。
「本日の紅茶はダージリンです。こちらは女性が更に綺麗になると言われている紅茶です」
盛った営業トークだが、女子会ならばこの位は許容範囲だろう。
メイド長のコーエンさんだけは、何か言いたそうにこっちを見ているが……
予め温めていたティーカップに紅茶を注ぐ。
「お好みで砂糖か蜂蜜をどうぞ」
それぞれ好みで入れ、紅茶に口をつける。
美味しいと声が上がったので、良かったと思う銀次郎であった。
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しばらくしてセバスチャンを見ると、セバスチャンはこっちを見てからゆっくりと頷く。
ソフィアは、銀次郎とセバスチャンのやりとりに気づきソワソワし始める。
次に銀次郎は、メイド長のコーエンさんとアメリーに視線を向ける。
コーエンさんが先に気づきアメリーに合図を出す。
コーエンさんとアメリーから了解の合図が来たので、銀次郎は扉までゆっくりと歩く。
さぁサプライズを始めましょうか。
ドアに手をかけるそのタイミングで、セバスチャンは魔道具の照明を切って部屋を暗くする。
練習通りでタイミングはバッチリだ。
コーエンさんは部屋が暗くなったのを確認し、別部屋で待機していたお嬢様方の使用人を部屋に招き入れる。
バースデーケーキのローソクに火をつけたオリバーが、銀次郎の開けた扉をすり抜け、アイリス様の目の前までバースデーケーキを運ぶ。
「アイリス、少し早いけど誕生日おめでとう!」
ソフィアが立ち上がり宣言する。
そしてみんなで練習した、バースデーソングを歌う。
だが練習ではうまく歌えていたが、みんな緊張していて声が出てない。
音痴の銀次郎だが、ここは自分が前に出ていった方が良いと判断し、大声でバースデーソングを歌う。
「さぁアイリス。ローソクの火をフゥーっと息を吹きかけて消して」
「えっ? なに? 息を吹きかける?」
この部屋の全員が、自分の事をお祝いしてくれていると分かり、意を決してローソクの火に息を吹きかける。
フゥー、フゥーと何度も息を吹きかけ、歳の数だけ用意されたローソクの火を消したアイリス。
部屋の照明をセバスチャンが戻すと、みんなで拍手をしてお祝いする。
サプライズが成功して、達成感が溢れ出てくる。
同時に緊張感は解け、自然と頬が緩んでいる。
本日の主役であるアイリス様は、笑顔で涙を流していた。
その姿を見て、周りも涙する。
今まで色んなサプライズをしてきたが、こんなに純粋で盛り上がったサプライズは初めてだ。
まぁこれだけで終わらせないけどね。
銀次郎は更なるサプライズを仕掛けていく。
「アイリス様、こちらはバースデーケーキと言って、お歳の数だけローソクをご用意致しました。
そしてこのプレートには、アイリス様のお名前も書かれております。つまりアイリス様だけの特別なケーキとなります。こちらを皆で頂きたいのですが、切り分けても宜しいでしょうか?」
「少しだけ待って……」
バースデーケーキを見つめる小柄で可愛い女性。
こっちを見て少しだけ頷いたのを確認した銀次郎は、ソフィアとライナ様に声を掛ける。
「ここを見て少し動きを止めて下さい。出来れば今のまま笑顔でいてくれると嬉しいです」
今から何するのか三人は分からないが、そのまま銀次郎の指示に従う。
「では行きますよ〜 はいチーズ」
カシャヴィイイイーンとレトロな音と共に、インスタントカメラのフィルムが出てくる。
まだ真っ白だが、10分もすればいい写真が出来上がるだろう。
銀次郎は出てきたフィルムを袋に入れて、セバスチャンとオリバーに合図をする。
料理長のオリバーは、バースデーケーキを綺麗にカットする。
セバスチャンとメイド達は、簡易のテーブルと椅子を持ってきて、みんなでケーキを食べれるようにセット。
銀次郎は全員分の紅茶を淹れて、みんなでバースデーケーキを楽しんでもらう。
使用人の方々は、我々まで頂いて良いのかと言っていたが、このサプライズは全員で楽しまなきゃもったいないでしょと説得してケーキをたべてもらった。
銀次郎はまたインスタントカメラを取り出し、みんなの写真を撮っていく。
なんか変な事やっているなと言う感じで見られた銀次郎だが、良い笑顔が撮れて満足感でいっぱいだった。
サプライズも成功してなんだか幸せだなぁと幸福感に浸っていると、隣にいた白髪で小柄な老人が涙を流しながら握手を求めてきた。
この白髪の老人はアイリス様の執事だ。
インスタントカメラを持った右手を、白髪の老人は両手で握りありがとうございますを繰り返す。
その勢いに戸惑う銀次郎だったが、せっかくなんで、白髪の老人と本日の主役であるアイリス様の二人だけの姿もインスタントカメラで撮るのであった。




