第九十三話 メイドのアメリー
今日最後の仕事はマインツ家で行われる。
ミリアとお城まで歩いていくと、いつもの門番さんが気を遣ってセバスチャンを呼んできてくれた。
「ありがとうございます、これ塩飴です。みんなでたべて下さい」
「いつも悪いねぇ。行ってらっしゃい」
門番さんに見送られながら、セバスチャンが用意した馬車に乗り込む。
「ギンジロー様、ミリア様、今日はどの様に致しますか?」
いきなりの虎は心臓に悪いので、まずはマインツ家の厨房に向かう。
「オリバー、皆さん賄いをたべてる時にすみませんね〜」
今日の賄いを見るとサラダにパン、そして人参とキャベツが入ったスープだった。
意外と質素だなと思うと、厨房でもマインツハンバーグの研究をしており、お肉はそこでたべるので賄いはコレで問題ないらしい。
勝手にマインツ家の秘伝の味にしちゃったから、厨房も大変なのかもしれない。
心の中で謝る銀次郎。
「坊主少しいいか?」
「何か問題が発生しましたか?」
オリバーが頭を掻いて何だか困っている。
珍しいなと思いながら話を聞く銀次郎。
「二つあってな。一つはデミグラスソースで作る他の料理を教えてもらいてぇ。あのソースは毎日作るから、マインツハンバーグ以外のレシピも知っておきたいからな」
「全然大丈夫ですよ。夜の賄いでたべれるように作りながら話をしますか?」
銀次郎は簡単に出来るデミグラスソースで作る料理をしながら、オリバーの話を聞く。
セバスチャンはコーヒーとココアを淹れて、飲みながら話に混じってもらう。
「圧力鍋に水を張り、これを入れてまずは火を通します。その後に野菜とデミグラスソースを入れて煮込みましょう。一度冷まさせてから夜また煮込めば完成ですね」
「一度冷まさせる理由ってなんだ?」
「熱い状態から冷まさせると食材に味が染み込むのと、全体が纏まって複雑味が増すといった感じですかね」
デミグラスソースと食材があれば、簡単に出来る料理をオリバーに教えた。
もちろん他の料理人達も、近くに来て作り方を学んでいる。
もう一つの話を聞こうとしたが、部下が集まっていてオリバーは話を切り出せないでいる感じだ。
「じゃあ簡単に作れる料理をもう一品作りますね」
アイテムボックスから玉子を取り出す。
異世界では一個銅貨5枚もする、にわとりの玉子。
それを三個も割ってかき混ぜる。
厨房にある鉄のフライパンを手に取り火にかけた。
バターを入れて焦がさないようにしながら、玉子をフライパンに投入。
最後はトントントンとフライパンを叩いて、形を整えたら完成だ。
「はいオムレツです。個人的にはそのままが好きですが、デミグラスソースをかけたり、トマトソースをかけたりしてたべても美味しいですよ」
料理人達の目の前にオムレツの皿を置くと、目が輝いている。
せっかくなんで熱いうちにどうぞと促すと、試食が始まった。
「坊主とんでもねぇのを作ったな。これは……作りてぇが玉子は高いから賄いでは無理だ」
落ち込むオリバーと料理人達だが、銀次郎も玉子の予備はもう持っていない。
マインツ家の在庫は二十個あるので、後で虎に使って良いか聞く事にする。
「後でエルザさんに会うので、使って良いか聞いときますよ」
「悪いな坊主。あとメイドからもマインツハンバーグを街で食べたいと言われたんだが、奥様に聞いてもらえないか?」
なんで俺がと思ったがデミグラスソースを作ってもらっている借りもあるので、聞くけど期待はしないでくださいと伝える。
「やっぱりここに居た。ソフィア様が会いたいって」
メイドのアメリーが銀次郎に声を掛ける。
「アメリーちょうど良い所に来た。メイドの人達も街でマインツハンバーグをたべたいって聞いたんだけど何か知ってる?」
「あっそれ私が言ったの。だってハングリーベアーでバーニーさんが作ったの食べたいもん」
犯人はここにいた。
アメリーの無邪気な笑顔を見ると文句は言えなかった。
たまの息抜きになるかもしれないので、聞いてみるけど期待はしないでよとアメリーにも伝える。
「ギンジロー様どうしますか? エルザ様に先に会うか、ソフィア様に会うかどちらにしますか?」
銀次郎は虎と先に会うことを選択する。
心の準備もできたし、面倒ごとをやっつけてからソフィアと会いたいからね。
セバスチャンが確認してくれて今から会うのが問題なかったので、虎のいる書斎に向かうのであった。