〜プロローグ〜
人生で初めて小説を書きます。
書き始めて思った事は、小説を書くのって難しいけど凄く楽しいです。
小説の才能なんてこれっぽっちもないですが、自分自身が楽しめていますので小説を投稿致します。
多くある小説の中から、このページを開けてくれてありがとうございます。
拭き上げ用のクロスで丁寧にグラスを仕上げ、ふと窓の外を見る。
どんよりとした天気で、帰り道を急ぐ人の姿が見えた。
これは夜も暇かなぁと心の中で呟き目線を店内に戻すと、テーブル席のお客さんが、カバンの中から財布を取り出そうとしていた。
ここは駅前通りにある喫茶店。
親父がこの世から居なくなったのが5年前。
サラリーマンをしていた八重洲銀次郎は、親父の大切にしていた物まで失いたくなかったので、会社を辞めて地元に戻り店を継いだ。
学生の頃は何度か店の手伝いはしていたが、実際一人で営業となると上手く行かない事ばかり。
親父が作っていた田舎町のナポリタンが人気だった喫茶店。
材料は特に変わったものを使っていなかったが、ナポリタンは作り手の人生がモロに出る。
親父の味に近づけるのか、自分自身の味を作り出すのか答えが見出せないでいる。
喫茶店だけでは売上が厳しかったので、夜はお酒を提供するようにした。
趣味だったカクテル作りや、ウイスキー、ワインの知識がここで役に立った。
モーニングから夜のBAR営業まで一人でやって、やっと生活が出来るようになったが、最近はなんだか体調がすぐれない。
カバンの中から財布を取り出し立ち上がったお客さんを見て、銀次郎はキッチンからレジへ向かうのであった。
「ありがとうございました」
誰も居なくなった店内の窓を眺めると、裏口のドアから猫の鳴き声が聞こえた。
少し前から店に来るようになった野良猫だ。
野良猫といっても上品な毛並みで人に警戒もしないので、たぶん飼い猫だったんだと思う。
まるで真冬の青空のような、澄み切った瞳をしているのでアオと名付けた。
雨に濡れていたアオをタオルで拭いてあげてから、猫缶を用意する。
この猫缶は焼津産のカツオを使った贅沢品だ。
アオが店に来るのが嬉しくて、ネットショップで高級猫缶を取り寄せるようになった。
アオはお客様が居ない時にしか来ない賢い猫だ。
そしてこの猫缶が大好きなのだ。
いつもの様に蓋を開けて猫缶を置こうとすると、急に胸が苦しくなりその場で膝をつく。
息が出来なくなり、もがき苦しむと目の前にいた野良猫のアオが喋り出した。
「いつもおいしい猫缶をありがとう。残念だけどキミはがんばりすぎた。朝から夜まで一人で働いて…… もうすぐ死ぬ。この猫缶がたべられなくなるのは困るから私と契約しない?」
(喋った?)
胸が苦しく、何が起きているか分からない。
意識が途絶えゆく中、目の前にいるアオが困ったように見つめながら言った。
「この世界では助けられない。別の世界に連れて行けば助ける事は出来るどうする?」
(た…すけ…て……)
そしてその場に崩れ落ちるのだった。
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真っ暗な空間の中、野良猫のアオがこっちを見ている。
「やっと気がついたね。時間がないから急ぐけど、残念ながらキミの命は失われた。本当は干渉しちゃダメなんだけど…… あの猫缶が食べれなくなると困るから、キミをこっちへ連れてきたよ」
(猫缶? 夢?)
「夢じゃない。キミには地球とは別の世界に行ってもらう。そこで生活してたまに猫缶をくれればいいから」
「別の世界ってどんな世界なの? あの猫缶ネットでしか売ってないよ」
「新しい世界でも猫缶が買えるように、ネットショッピングが出来るようにスキルを授けたから。そこで買った猫缶はアイテムボックスに蓋を開けて入れといてくれるかな? アイテムボックスは僕と共有出来るようにしてあるから、食べたくなったら勝手に持っていくね。時間経過もないから、いっぱい入れておいてくれると助かる」
「わかりました。猫缶いっぱい買って入れときます」
猫の手だと蓋は開けられないのかな?
「何か欲しいものはある?」
アオは照れくさそうにこっちを見ている。
急な事で戸惑いはあるが、これからの事に集中する。
まず銀次郎が考えたのは喫茶店の事だ。
親父から引き継いで大事な思い出がたくさん詰まっている店の物を、手放したく無いと思った。
「お店の中にあった物を持っていけますか?」
「新しい世界で使えない物以外は、アイテムボックスに入れておくよ」
少しほっとした銀次郎は、生きる為に必要な事を考える。
「過労で倒れてしまったので、身体を治す事はできますか?」
「大丈夫だよ。むしろ第二の人生は長く生きてもらいたいから、少し若返らせておくね」
尻尾を振って答えてくれる野良猫のアオ。
「そんな事出来るんですか?ありがとうございます」
野良猫のアオが一瞬目線を外す。
「そろそろ時間だ。新しい世界はしばらく戦争も起きていないし、ある程度安全だと思う。強い魔物がいない場所に落とすから、最初は街を目指して。猫缶は忘れずにね」
アオがそう言うと、真っ暗な空間から陽の光が差し込んできたのであった。