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大黒の宿

 今夜の宿を探さなければいけません。マーサに『大黒の宿』という宿の場所を教わっていたのでそこを尋ねることにしますがその前に。


 停車場は商店街と住宅街の境にあります。人通りが多いのでお店がたくさん並んでいます。テントや屋台で商品を広げているお店がいくつもあって見ているだけでも楽しいです。お腹が空いていたので屋台で買い食いをしてみました。サンドイッチとクレープの従兄のような見た目の食べ物を買いました。まわりの人の真似をして立ち食いしてみましたが慣れないせいか食べにくいですね。でも甘辛くて美味しかったです。


 服を売っているお店を眺めていたら店番のお姉さんに声をかけられました。


「あんた、どこの田舎から出てきたんだい?そんな年寄が若いころ流行った服を引っ張り出してきましたみたいな恰好して。今時そんな提灯型のもっさいスカート穿いている人いないよ。どうだいウチで流行(はやり)の服を買っていかない?」


 お姉さんの声を聞いて少しの間固まってしまいました。


 確かに庶民の服が判らなかったのでダース商会に一式揃えてもらったわけですが。そうですかこの服は年寄りの若いころの服ですか。一般的な庶民が着ている服と違うのですね。そういえばさっきから妙に視線を感じるなって思っていたのです。それに私と同じような服を着ている人っていませんし。気のせいだと思うことにしていたのですが。やっぱり変でしたか。


 お姉さんの穿いているスカートは腰のあたりが細くて裾に行くにしたがって緩やかに広がるAラインのスカートです。昨晩私が着ていたドレスのスカートと同じ形です。あのドレスは流行の形をしていたわけですね。


 お姉さんのお店で服の値段を聞いてみると一着平均銀貨5枚くらいでした。着替えだって必要だろうと思ったので青地に細かい格子柄のワンピースを1着買いました。お店で着替えさせてもらってもっさい服はカバンの奥にしまい込みました。短く切った髪を隠すためのストールが邪魔くさいのですが代わりになりそうな帽子を見つけられないのが残念です。しばらくはストールを被っていましょう。お姉さんに素敵なデザインのカバンも勧められましたがこれ以上無駄使いをするわけにいきません。今はお金を稼ぐ手段がないのですから。心を鬼にして断りました。


 ダース商会にはぼったくられましたかね。もっさい仕度一式で金貨2枚って。そもそもドレス類を売り払った額が銀貨15枚でしたもの。旅の仕度一式が金貨2枚は高すぎるって思わなきゃいけなかったのでしょう。もしかしたらドレスもアクセサリーももっと高く買い取ってもらえたのかもしれません。まあ、しかたありません。相場を知りませんでしたし。3日以内に王都から出なければいけないという時間的な制約もあるのですから。



 私の中でダース商会に対する信用度が駄々下がりになっています。大暴落です。今夜はダース商会使用人のマーサさんが教えてくれた宿に泊まるつもりなのですが大丈夫でしょうか?不安になってきました。マーサさんとは友達になったつもりですけれど。


 服屋のお姉さんに今夜泊まる予定の『大黒の宿』の評判を聞いてみることにしました。


「大黒の宿?あんまり聞いたことのない宿ね。どの辺にあるの?ここから北へ向かって3つ目の通り?ってあの辺りはごろつきが屯していることが多い場所だよ。女の子が一人で入っちゃいけない場所だよ。悪いこと言わないからその宿は止めた方がいい。あのあたりって身分を隠した紳士がお遊びに使うらしいし。普通の宿を教えてあげるよ身分証を見せれば銀貨10枚くらいで泊めてくれるから。え?身分証はあまり使いたくない?なんでまた?まあいいや。人に言えない事情ってあるからね。そうだ教会へ行ってみなよ。ここから近いところにもあるよ。お布施を払えば誰でも泊めてくれるって聞いたことがあるから。行ってみたら?」


 もっさい服を着ていた私を田舎者と勘違いしたお姉さんは沢山の情報をくれました。『大黒の宿』がある辺りは治安が悪いのですね。危ない危ない。私の身分証は騎士に渡されたアノ巻物です。罪状が書いてありますから普通の宿では泊めてくれないでしょう。ダース商会の番頭さんも巻物を見た途端に顔色を悪くしていました。取引をしてもらうまでに数時間かかりましたもの。おそらくあの時間で王城に通報とか問い合わせをしていたのではないでしょうか?


 さて、気を取り直して教会を訪ねてみましょうか。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 マーサから商品が届いた。使用済みの若い女の下着。破れた靴下と靴下止め。流行りのデザインで上等の絹。オークションに出品すれば紳士な方々が良い値段をつけるだろう。


 商品にはメモが添付されていた。


『商品の売主を宿に向かわせた。一晩面倒を見てほしい。田舎者に見えるよう地味な服を着せている』


 なるほど。


 この下着をつけていた人物が大黒の宿にやってくるかもしれないという事か。うまくたどり着いてくれるといいのだが。この辺りにはごろつきが屯している。強盗目的で狙われる可能性が大きい。屋台で金を見せびらかしたりしなければいいが。


 そのあたりはマーサに注意されているだろう。マーサは親切な女だ。


 地味な格好をさせたのは正解だ。人買い(しょうばいがたき)に狙われても大黒の宿までたどり着けないだろうからな。


 うまく宿に着けばマーサの取り分も増えるわけだ。上手に言いくるめていることだろう。ウチの得意先は髪の長い子が好きなのだが今回はどんな子なのか?


 おっと皮算用をしてはいけない。商売は堅実に。いま届いている商品を売るのが先だ。オークションの準備を始めなければ。



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