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帰途(最終話)

今回で最終話となります。

誤字報告ありがとうございます訂正しました<(_ _)>6/2・6/3

 野営地からモンステラの集落に戻りました。


 避難者を集落に受け入れたらしく大勢の人でごった返していました。男たちは小屋を建てています。受け入れた人たちの住処が足りないのでしょう。水場では女たちが洗濯をしていました。


 工場に連れて行かれた職人の多くが女性だったらしいです。数日前に寄った時にはむさい男ばかりが屯す盗賊のアジト臭漂う集落だったのですがこうして女性たちの姿が増えると普通の集落に思えて不思議です。


 

 洗濯する女性達から少し離れた場所に露出の激しい衣装を着たお姉さん方がいました。虚ろな表情をして何をするでもなく座っています。帝国軍の福利厚生業務に就いていた方々です。二年前さらわれた時に逃げなかったら私もあの中にいて同じような目をしていたのでしょうか?


 いや、さらわれたままだったら今回の水害は起きなかったので逃げることなく淡々と仕事をしていたのかもしれません。


 帰りは馬に乗っていきます。来るときに乗ってきた馬車は傷んでしまって動かないそうです。


 それにしても山坂をよくもまあ馬車で登ってきたものだと思います。婆さんが風の魔法を使っていたのは知っていました。複雑な魔法でした。簡単に真似できそうもありません。絶え間なくおしゃべりしながら魔法まで使う婆さんは只者ではないとつくづく思います。


 用意された馬は妙に立派です。帝国軍の軍馬のような気がしますがどうなのかな?


 モンステラの住人は盗賊ですからね。どさくさに紛れて泥棒したのかもしれません。ガーネット様は住人の用意してくれた馬を苦笑しながら買い取っていました。


 私は村人から丈の長いキュロットスカートのような形状の服を買いました。女性が山仕事をするときに着る服だそうです。ずいぶんと年代物の服ですが厚手で丈夫な作りです。膝や裾の辺りを革ひもで結わえるようになっていて馬にまたがってもずり上がることがなさそうです。これ一着で銀貨10枚はぼったくりだと思いました。値切りが苦手なので言い値で買ってしまいましたけど。


 私は馬に乗れないのでマイクの後ろに乗せてもらいます。マイクって馬にも乗れたのですね。知りませんでした。


 出発の前にガーネット様から香炉のようなものを渡されました。

「モンステラの伝統製法で作った魔物除けを焚いています。帝国製の物よりも効果が高く持続性があるからと試供品を受け取ったのですよ。風の魔法で隊列を覆ってください」


 香炉を受け取り言われたとおりに風を纏います。集落の人々が見送ってくれました。

「お婆さんが見えませんね」

私の問いかけに

「かし・・・族長は外交に出かけやした」

と野営地への連絡員をしていた村人が応えてくれました。外交って・・・何をしているのでしょうね?


 騎士に前後を挟まれるようにして山を下りました。魔物除けの効果のおかげか魔物に襲われることはほとんどありませんでした。


 山から下りた後は何処の村にも立ち寄らずに王都を目指します。山から下りた場所はカンランに近かったので正直このまま帰りたかったです。報告諸々の用事があるので王都に一旦は行かなければなりません。


 王都に入る時には検問で待たされることもなく通行税を取られることもありませんでした。お役人と同行しているというのはなかなかに大したものだと思いました。




 王城の応接室にいます。ソファーにゆったりくつろいでお茶を頂いています。部屋には私とマイクだけ。マイクは護衛だからと言って後ろに控えています。


「他に誰もいないんだから一緒にお茶いただこうよ」

と言ってみたのですが

「護衛だから」

と言って座りませんでした。


 ガーネット様と騎士の方々は謁見の間へ報告に行ってます。

「セイラも協力者なのだから謁見を許されるぞ。一緒に来たらどうだ?衣装はこちらで用意するから」

などとガーネット様に言われたのですが丁寧にお断りしました。


 帰りの旅の間にも

「今回の活躍を申請すれば爵位を賜る程の功績と認められるかもしれない。申請しておこうか?」

などと言ってくださったのですが爵位はいらないので遠慮しました。


 王族には関わりたくありません。


 扉がノックされました。謁見が終わったのでしょうか?ずいぶん早いなと思いながら

「どうぞ」

と言うと扉が静かに開きました。白髪頭を丁寧に撫でつけた執事服の男性が立っていました。


「えっと?どちらさま?」

男性は私を見て目を潤ませています。

「セイラお嬢様、記憶を失くされていたのでしたね。私はパトリック子爵家に仕えておりましたトマスと申します。現在は王城に接収されました屋敷の管理人をしております。お嬢様には一言お詫びを申し上げたくまいりました」


 上品な仕草でトマスさんはお辞儀をしました。


「えっと?すみません。パトリック家の方ってことは私が子どもの頃からお世話になっていた方ってことですよね。ごめんなさい。私みんな忘れてしまっていて。とりあえず部屋の中までお入りください」


 冷や汗が出ます。シスターマリアやシスターテレサの時もそうでしたがお世話になった方々をことごとく忘れてしまっているという状況にとても困ってしまいます。二年経ってもこんな風に覚えていない知り合いが出て来るので本当にどうしたらいいんだろう。


 椅子を勧めましたが「使用人ですから」と言って立ったままです。


 お詫びというのは私が王城から追い出された日に迎えに来れなかった事だそうです。いえ、迎えに来たそうなのですが半日ほど待たされたあげく『早朝に王城を出た』と告げられたそうです。


 その後心当たりを軒並み探したそうですが肝心の私の記憶がなかったものだから心当たりの場所に行くはずもなく。夜になって水の女神教会から連絡をもらったのだとか。


 申し訳ありませんでした。私の知らないところでいろいろな方にご心配をかけて。


「私も老い先短い身ですから一度で良いのでお嬢様にお目にかかりお詫び申し上げようと思っておりました」

「そんな。どうか頭を上げてください。記憶を失ったとはいえ皆さんにご迷惑をかけて申し訳なく思っています。そんな風に私の事を心配してくれた人が居るってわかったことは嬉しいです。王城から追い出された時には頼るものがないって思っていましたけど、本当は大勢に心配してもらって助けてもらっていたんだって知ったから。こんなに思ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」


 私は立ち上がり深く頭を下げるトマスさんの手を取りました。皺の深く刻まれた手を包み込むとトマスさんは涙を浮かべながらも微笑んでくれました。


「お嬢様、変わらずにお優しい」

そう言ってくれました。なんだかくすぐったいです。


 その後しばらくトマスさんの思い出話などを伺って(ほとんどが私の子ども時代の事でしたが覚えていませんごめんなさい)なぜかマイクが横から口を出してきて話が盛り上がっていました。


 屋敷には私の私物が廃棄されずに片付けてあるそうです。孤児院に寄付するという名目でカンラン修道院に送っていただくことになりました。子ども時代に着ていた服や教科書などがあるそうです。ありがたいです。


 トマスさんが帰るのと入れ替わるようにガーネット様が謁見から戻りました。

「君たちにもたくさんの褒美を賜ったよ」

 金貨の入った袋を頂きました。マイクの分と二つの袋を頂きました。褒章云々と書かれている巻物もいただいてます。又、巻物増えましたね。


 ようやく帰ってよいと言われ、ホッとしながら王城を後にして水の女神教会に行きました。


 見習いから一人前になったシスターリリーと再会を喜び、シスターマリアと司祭様にお礼を言って。洗浄の魔法をかけて夕食を頂いておしゃべりをして。私はシスターリリーのベッドに潜り込みマイクは礼拝堂の長椅子を借りて泊まりました。


 翌朝、礼拝堂でマイクと私は結婚の誓いを立てました。


 司祭様とシスターマリアに立ち会っていただいて。


 シスターテレサには昨夜のうちに停車場から手紙を出しておきました。今日の夕方にはカンランに届くと思います。立ち会っていただきたいですけどそれは難しいですからね。


 水の女神の宝珠の前で誓いの口づけをしました。水の加護精霊が水をかぶせて来たけれど風の加護精霊が直ぐに乾かしたので大丈夫です。


「大変だね君は。キスの度に水を被るなんて」

式が終わってから司祭様が揶揄ってきました。


「大丈夫です。オレ強くなりますから!」

ってマイクが見当違いな返事をしています。もう水球をぶつけたりしませんよ?たぶん。


 孤児院の皆にお土産をたくさん買ってカンランの修道院に帰りました。




新聞記事の抜粋


___________________________


秋月1日帝国山岳地域において災害が発生した模様。帝国から正式な発表は行われていないため詳細は不明。魔物の大発生が予想される。国境地域を治める各領主は魔物討伐に自領の騎士及び兵士を配備する予定があると発表している。


___________________________


穀倉地帯において帝国軍との戦線は膠着状態であったが秋月4日帝国側から一時休戦の申し入れがあった。王国はこれを受け入れた。王国軍を率いるジョージ王太子は休戦後も現地に留まる予定。帝国では今月1日に災害が発生しておりそれに伴う魔物の大発生が懸念されている。又、帝国周辺では少数民族が各地で一斉にクーデターを起こしているという情報も入っている。

___________________________


秋月5日穀倉地帯に於いて休戦中の国境付近に帝国側からの難民が集まりつつあると報告があった。難民の規模については不明。帝国側の救済は行われていない模様。王城は難民の支援について外交面及び人道的立場などを考慮し慎重に対処したいとコメントしている。

拙い文章ですがお付き合いいただきましてありがとうございました。

ブックマークやPVの数に励まされなんとか毎日更新できました。

かなり甘々なプロットで書き始めてしまったため展開に無理が生じていること反省しています。



国王とお姉さんのお話とかジョージ・エリザベス・セイラの学園時代とかのお話も書いてみたいなと思っています。セイラの孤児院時代もいいな。


お読みいただいた感想としての評価などいただけると嬉しいです。下にある☆を評価の数だけ★にするシステムだそうです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見事な構成だった。 [一言] 人間不信ということばを思い出した。登場人物の誰をも信用できない。最後のエピソードまでその気持ちは変わらなかった。
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