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ダム湖

誤字報告ありがとうございました。

確認してからアップしているつもりなのですが、恥ずかしいほど誤字があって・・・

申し訳ないです <(_ _)>

 雨を降らせて三日目の早朝です。ダムを眺めると八分目くらいまで水が溜まっています。山頂付近の湿った空気を呼び込む作戦は成果を上げています。


 ダムの水をせき止めているのは崩落した土砂です。水が半分くらい溜まれば崩れるだろうと思っていました。


 実は困っています。ダムを決壊させるのが怖くなり溜まった水を一つの塊にしたまま流れないように維持させてしまいました。流れないようにするための魔力消費が大きくて苦しいのです。



 怖気づいてダムを決壊させることが出来ません。早く終わらせて帰りたい気持ちでいるのに。でも決壊させるのは怖い。水を溜めたら後は自然に任せればいいはずだったのです。流れを止めるために魔力を使ったって苦しいだけで何の意味もないのに。


 きっかけは昨日モンステラの住民がやって来た時のことです。

「コトが起きれば見張りが合図の鐘を鳴らしやす。同胞に伝える手はずも整ってやす」

と連絡が来ました。これで工場の作業員は逃げられるのだと理解できました。


「あとはダムが決壊すれば帝国軍が壊滅する」

とガーネット様が言いました。とたんに怖くなったのです。作業員は逃げられる。


 でも、でも、たくさんの人が死ぬ。


 そう思ってしまいました。思ってしまったら水が流れ出ないようにと願ってしまいました。加護精霊は私の気持ちに素直に反応してくれました。ダムの水は重力に逆らって流れ出ることを止めています。


 昨晩は気が緩んだらダムが決壊するだろうと思って眠れませんでした。朝までずっと水が流れないように魔法を使い続けていました。もちろん内緒でやっています。


「セイラ顔が青いぞ。限界まで雨降らせたのか?少し休めよ」

マイクが声をかけてきます。


『休みたいけど、休んだら魔法が途切れて流れてしまう。だけど決壊させなければいけないんだった。どうすればいい?』

睡眠不足と魔力不足の状態で思考がまとまりません。


「帝国軍が進軍を始めました。谷に沿って登ってきます」

展望台に様子を見にいっていた騎士が戻ってきてそう言いました。


「そうか雨はやんでいるからダムはしばらく決壊しないな。帝国軍が谷に滞在する時間は?」

「山に入る道まで一時間ほどです。それまでは谷を進むものと思われます」

騎士が話し合っています。


「あの土砂のところに石ぶつけてみたら崩れませんかね?」

話し合いにマイクが口を出しました。


「石をぶつけるとは?」


「オレ達冒険者も魔物と戦うときは身体強化しますけど、騎士の皆さんも使うでしょう?身体強化。強化して石を投げつければ衝撃で鉄砲水を誘発できるかなって」


「おおなるほど。では私が投げてみましょう」


 騎士の一人がこぶし大の石を拾い上げました。ウォーミングアップをした後、何やら呟いてから勢いよく石を投げつけました。


 石はうなりを上げて飛びダムの壁に突き刺さります。『ゆらり』ダムの水が僅か揺らぎました。私の残り少ない魔力では耐えることが出来ません。


 ダムの壁に穴が開きました。そこから細く水が噴き出します。虹がかかりました。


 噴き出す水の量が徐々に増えていきます。


 限界が来ました。


 カンカンと鳴り響く鐘の音が聞こえます。次にゴーッという崩れる音が聞こえました。私の意識は途切れました。




 

 目が覚めると夜でした。たき火がパチパチと爆ぜる音が聞こえます。辺りは真っ暗です。手探りするとテントの内部だとわかりました。誰かが運んでくれたようです。


 テントから這い出すと、たき火の周りにガーネット様も騎士二人もマイクもいます。皆カップを手にしています。アルコールの香りがしますから飲んでいるのでしょう。


「やっと起きたなセイラ。まったく無茶しやがって。魔力切れ起こすまで雨降らせてよ。辛いって言ってくれりゃあもっと早く石投げてもらったのに」


「投石をきっかけにするのは良い案であった。絶好のタイミングで帝国軍を押し流すことができた」


『やっぱり帝国の兵隊さんは流されたのだ』

そう思うと気持ちが沈みました。


「ご苦労様でした。こちらに来て火に当たり食事をしなさい」

 ガーネット様に言われるまま、たき火の近くに座りました。スープの器とパンが前に置かれました。食べなければと思います。でも手先が震えて器を持つことが出来ません。マイクが隣に来て座りました。


「気持ちは分かる。オレだって初めて盗賊狩りした時には手に感触が残っちまってどうしようもなかったからな。だがお前は水を溜めただけだろう?その水を戦に利用したのは王国の騎士だ。お前じゃない。気にするな」


 気にするなと言われても、どうにも気になってしまうのです。


「ほら食え。腹が減ってると余計に気持ちが沈む」

マイクがスープの器を手に取り子どもを養っているように私の口元に当てがいます。

「そおっと飲んでみな」


私が戸惑っていると

「飲まねえと口移しで飲ませるぞ」


 脅しなのか優しいのかよくわからないことを言い出しました。口移しされたら困るので器に手を添え自分で飲みます。塩味の効いたスープです。口に入るとお腹が空いて喉も乾いていたことに気が付きました。そのままゴクゴク飲み干しました。

「もっとゆっくり飲めよ。しょうがないヤツだな。スープはそれで終わりだぞ。水汲んでやるからパンも食えよ」

 マイクは孤児院の子どもの世話を焼くような調子で私の世話を焼いています。それがおかしくてフフッと笑い声をこぼしてしまいました。

「少し調子が出てきたか?パンも残さないで食えよ?」


 ふと気が付くとたき火の向こう側から男三人が生暖かい目でこちらを見ていました。


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