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王都へ

 出発の朝、マイクは修道院まで迎えに来てくれました。


 私は旅用の服を着ています。二年前にダース商会で手に入れたあの服です。森へ薪拾いに行くときなどに時々袖を通していましたが未だ現役の丈夫な服です。多少くたびれていますし綻びを繕ったりはしていますけどね。頭にはヴィオさんから購入した空色のボンネットを被りました。マイクは今回も荷馬車を借りてきました。いつもの革鎧を着ています。


 カバンに詰めた身の回りのわずかな品を荷台に乗せます。そして御者台に乗ります。御者はマイクがしているのでその隣になります。荷馬車に二人乗りするときは大体この位置に乗るのですよ。この二年間で田舎の暮らしに馴染みました。荷車の乗り方も操り方も学びましたからね。


 修道院の皆に見送られます。別れは昨夜のうちに充分に済ませました。修道院から出る時に挨拶も済ませました。それでもまだ御者台の上から言葉を交わします。


「行ってきます」

「道中気を付けるのですよ」

「行ってらっしゃい」

「お土産は肉ねー」


 馬車は出発しました。私は振り返って手を振りました。子ども達は柵があるところまで走って追いかけてきました。


「セイラー気を付けてねー」

 手を振りながら叫んでいるのはクラム。こんなに大きな声が出せるようになったのだと思うと感慨深いものがあります。

 泣いたりしませんよ。用事を済ませたらさっさと帰って来るつもりですから。


 停車場で王都行の定期馬車の列に加えてもらいます。あらかじめ話は付けてあるとマイクが言っていました。個人で旅をする場合、安全のために定期馬車の列や商人の隊列に加えてもらうものなのだそうです。


 王都行の馬車は乗用型が一台と荷車型が二台です。停車場で出発の準備をしています。護衛は六人全員が男性です。マイクが手を振って合図をすると護衛の一人が手を振り返しました。


「知り合い?」

「ああ。一緒に仕事をした。今回の護衛のリーダーだ」

「私、挨拶に行った方がいいのかな?」

「やめとけ。直に出発だから邪魔になる」


 乗客が馬車に乗り護衛が配置につきました。馬車が出発していきます。その最後尾にくっついてカンランの街を出ました。



 意識を加護精霊に向けると精霊がフワフワ飛び回っているのが見えました。精霊を見るという事も一種の魔法なのだとこの二年間で理解しました。意識を向ければ精霊が見えますが向けなければ見えません。見る、見ないが自在にできるようになりました。加護精霊が警戒を強めている時にはその気配が伝わってきます。今日は旅という日常とは違うことをしているためか精霊はだいぶ警戒しているようです。馬車の周辺を忙しく飛び回っています。


 少しして精霊が何かをみつけました。


「魔物がいる。隊列を取り囲もうとしているのかしら?」

「ありゃ狼の魔物だ。こっちの様子を見ているだけだろ」


 マイクも気が付いていたようです。魔物は馬車の後ろを追っているようでしたがしばらくするといなくなりました。彼らの縄張りを荒らすモノかどうか見ていただけのようです。むやみに襲ってくるモノでもないのですね。魔物も割と知恵があるのだなと感心しました。


 馬車の斜め前方に森が見えてきました。その向こうに山々が連なっています。

「此処って・・・」

見たことのある景色に言葉が漏れます。

「そうだ、オレが死にかけてお前に助けられた場所」


 盗賊に襲われた場所です。『助けられた場所』とか言わないで欲しいです。心臓が踊り出してしまいますから。今だって平静を保つのに苦労しているのですよ。


「あんな不意打ちは二度と食らわねえ。あんのクソババア。今度はとっ捕まえてやる」

マイクが闘志を燃やしています。そうですよ。そっち方向の発言だと私の心臓も安心です。もっとも盗賊になんて金輪際遭遇したくないですね。


 道中、巡回中の自警団とすれ違ったこと以外は何に会うこともなく無事にノビル村に到着して昼休憩をしました。その後も予定通りの行程で王都に到着しました。

「割とあっけなく王都に着きましたね」

私が感想を言うと

「普通はこんなもんだ」

と返されました。


 王都に入ろうとする人々が長い列を作っています。検問所を通過するのに時間がかかっているようです。

「身分証と通行税を用意しとけよ」

 検問所が見えてきた位置でそう言われ、私は御者台から降りて準備をしました。マイクも御者台から降り馬の手綱を引いています。検問が丁寧に行われているのか列はなかなか進みません。うっかり欠伸をしてしまいマイクに見られてしまいました。


 ようやく順番が回ってきました。マイクは身分証と護衛の依頼書を見せています。ここでも護衛は通行税が免除されるようです。私は通行税を添えて身分証と召喚状を差し出しました。



身分証

名前:セイラ

年齢:18歳

職業:孤児院保育員

加護:風の精霊:水の女神

賞罰:王立学園第76期卒業


 職業欄の見習いの文字が消えました。今は保育員として扱われています。賞罰欄は空欄にしてほしいです。庶民は普通空欄ですから。貴族ではない今の私には王立学園の卒業生という記録は要らないのです。主席の表示が消えたのは良いことだと思っています。煩わしいのはごめんです。


 無事に検問は通過できましたが検問所の兵士が王城まで案内すると言ってきました。


 召喚日は明日なので今夜は教会に泊めてもらう予定です。明日王城に伺いますと言いましたが

「召喚状をお持ちの方がみえましたら直ちに王城まで案内するよう上から命ぜられています」

と返されました。

 それならそうと召喚状に書いておいて欲しかったです。

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