不穏な噂
短めです
クラムの傷跡はだいぶ薄くなってきました。
お医者様には『少し沁みるかもしれない』と言われていましたから恐る恐る塗っていましたが、クラムは平気なようでした。焼き印のように見える魔法痕が薄れて来るにつれ、クラムに笑顔が見られるようになりました。自発的な言葉も出て来るようになりました。
今日は医師の診察を受けるため、騎士団のテントに来ています。クラムは相変わらず男の人が苦手のようで私にしがみ付いています。
「薬が効いているね」
お医者様は診察しながら話します。
「隷属の魔法を刻まれると自分の頭で考えることが出来なくなってしまう。こんなものを幼子に刻むとはね。知性も感情も育たなくなってしまうじゃないか」
医師の目に怒りがみえます。
「子どもがまっとうに育たなくなるような魔法は許せない。この子は逃げることが出来たから幸いだった。他にも同じような子がいるのならなんとかしたいものだよ」
診察が終わったのでクラムの服を整えます。
「ここでの調査は終了したので明日には撤退です。薬を足しておきますから終わるまでしっかり塗ってください。半年ほどしたら傷の様子を見たいので連絡しますからね」
診察のお礼を言いクラムを抱いたまま修道院に戻ります。騎士団のテントも見慣れた光景になってきましたが帰ってしまうのだと思うと寂しいような気がします。
昼食時にシスターテレサが言いました。
「騎士団のお話では人さらいがあちらこちらで起きているそうです。帝国との国境あたりの被害が目立つそうですがクラムのこともありますから此処も安全だとは言い切れないでしょう。孤児院が狙われたら私たちでは抵抗も出来ません。そこで教会が冒険者の組合に警備の依頼を出してくれることになりました。ウチの孤児院にも近いうちに警備の方が来てくださる予定です」
「ああその話、カンランの教会でも皆が言ってました」
坊主頭の修道士が口を開きます
「王都の教会で依頼を出したって話ですよね。町の中なら自警団の巡回もあるのでしょうが此処みたいに外れているとそれもありませんからね」
「盗られるものなど無いと思っていました。しかし子どもが攫われるかもしれないなんて。嫌な世になりましたね」
シスターテレサが表情を暗くします。
「それに帝国が攻めて来るって噂も聞いたわ」
見習いシスターが零します
「『赤髪の大魔法使い』が現れたから帝国は王国へ攻め込むのを止めたってことになったんじゃ?」
「去年くらいはそういう噂だったよね。でもほら、王族が人質を差し出しているんでしょう?」
「あれはお姫様が帝国へ嫁入りしたって話だろう?」
「だけど実際は人質なんだって。先輩シスターが言ってたよ」
修道士と見習いシスターは噂話に花を咲かせ始めました。不穏な噂があるのですね。話題になっているお姫様というのは公爵令嬢のエリザベス様の事でしょうか?それとも帝の第五妃という方の話でしょうか?手紙から得た知識を話すわけにもいかないので、私は大人しく会話を聞いていました。
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