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暦と魔法の練習

誤字報告ありがとうございます訂正しました<(_ _)>5/29 6/2

 手紙は数日掛けてだいぶ読み進めることができました。幼いころの手紙は修道院関係者から励ましている内容の文章が多くありました。


 暦という束を広げてみました。


 それは暦の余白に日々の出来事を簡単に綴った日記でした。一番古いのは八歳の時の物です。日付と行事が印刷されている横の欄に予定が書き込まれています。読み書き。計算。ダンス。魔法。など勉強の予定を大人が書き込んだもののようです。その更に右横の空欄に日々の記録を子どもらしい拙い字が埋めています。『スープが美味しかった』『お菓子をもらえた』などという他愛ない感想が書き込まれていることもあれば、『かあさまに会いたい』と心情を吐露している箇所もあります。『お義父さま』と書かれている部分はお義父さまが何かをしたのかお義父さまに何かをするのか不明です。


 最後の月の三日の予定は誕生日とありました。『ケーキが美味しかった。プレゼントは髪留』とあります。自分の誕生日を知ることが出来ました。屋敷で祝ってもらいプレゼントもあったのでしょう。それなりに大切に育てられていたと思えてなんだかホッとしました。





 手を付けるのを意識して止めていたジョージという手紙の束を思い切って読んでみました。


 その結果ジョージ殿下は真面目な人なのだと思いました。丁寧で整った文字で書かれ手紙のお手本のような形式通りの文体です。


 『行儀が悪い』とか『言葉遣いが成っていない』とか小言が多い手紙です。姑ですか?


 でも文末に必ず一文『礼が上手になった』だとか『朝礼での挨拶は淑女そのものであった』だとかの誉め言葉が入っています。小言がたくさん書かれていてイラっとはするけれど読み終わった時には恨めない状態になってしまいます。


 ジョージ殿下は私の教師のつもりでいたのでしょうか?そんな感じのする手紙です。文面に下心や恋心は感じられません。むしろ『王族が下々の者に教育を施している』的な文面です。上から目線ではありますが親切心から書いているのだと伝わってきます。


 手紙を読む限り『ありがた迷惑』な相手ではありますが『鳥肌が立つほど嫌いな相手』ではないように思えます。それがどうして『顔を見るだけで恐ろしい相手』だと思うようになってしまったのでしょうね。




 恐ろしいと思うようになったのは何故なのだろうと自分なりに仮説を立ててみました。今の私の意識が浮上した時に最初に見たのが殿下の怒った顔でした。それからずっとアレを恐ろしいものと思い込んでいたわけです。


 私は火の加護精霊が抜けて一旦死にかけ死の恐怖に陥りました。火の加護精霊が抜け出たショックで記憶がなくなったけれど恐怖心だけが残っていました。そのまま意識が浮上して最初に見たのが王太子の顔でした。そこで『死の恐怖=王太子』という情報が頭の中に刻み込まれた。という仮説です。


 仮説を立てても立証できないわけですが、自分の心の中にはすんなり納まりました。


 今の意識になってからつい最近まで『死んでしまうかもしれない』『死にたくない』とずっと思っていました。これは加護精霊が抜けてしまった時に感じた死の恐怖をずっと引きずっていたからかもしれません。


 いまだに得体のしれない恐怖心は持っています。パニックを起こすと辺り一面水浸しになります。すぐに乾かせますけれど、時と場合によっては罰せられたり怪我人を出したりしてしまうかもしれません。感情をコントロールできるようにならなければなりません。





 五・六歳児が魔法の訓練をします。坊主頭の修道士が加護を得て間もない子ども達に加護精霊との付き合い方や魔法を教えるので参加させてもらいました。私の感情コントロールの参考になればいいなと期待して。


 修道院の建物の外に十人ほどの子どもが集まっています。普段保育所には来ていない村の子どもも来ているようです。子ども達には体操をしても手足がぶつからない程度の間隔を取らせています。


「いいかい。まずは自分の加護精霊が何の精霊なのか思い出してね。風を持っている子は外で風が髪を揺らす様子を思い浮かべて。水を持っている子は雨が体に当たる様子を。土を持っている子は裸足で泥の中に立っている感触を。火を持っている子はたき火に当たっている暖かさを。雷の子もいたね。君は冬場にドアに触ってビリっとしたことがあるかい?あれを思い浮かべてね。しばらくはゆっくり呼吸しながら思い浮かべるよ」


 目を開けている子、閉じている子とそれぞれのやり方で集中しているようです。

「そして自分の精霊にお願いするんだ。今思い浮かべていることが現実に起こるように」


バチンと音がして光がはじけます。トムが指先に静電気を発生させたようです。

「痛て!」

手を押さえて顔を顰めています。


「やあトム。上手だね。今度は指先から少し離れた場所でバチンとなるようにイメージしてみて。そうすれば痛くないよ」


 トムは再び集中を始めましたが一度痛い思いをした為か、もう一度静電気を起こすことができなかったようです。他の子達はトムの静電気に気を取られて集中できなくなりました。


「ほらほらみんな!自分のことに集中するよ。まずはゆっくり呼吸。吸って・・・吐いて。そしてイメージして。精霊にお願いして」


 風の精霊の加護を持つ子が髪を揺らすことに成功していましたので褒めてあげました。30分ほどで子ども達の集中力が切れてしまったので終わりになりました。


 私は子ども達の様子を見ていただけで一緒に練習はしませんでした。だって練習したら実際に雨が降ったり風が吹いたりしてしまいますから。でも訓練のやり方そのものが今後の役に立ちそうです。



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