表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

手紙

誤字報告ありがとうございます訂正しました<(_ _)>5/29 6/2

 王太子は騎士たちを引き連れて修道院を出ていきました。私は食堂に座り込んだままで見送りできなかったのですが咎められることもありませんでした。クラムがずっと私の背中に引っ付いています。彼女から伝わる体温に助けられています。彼女の温もりを感じることが出来なかったら私はどうにかなってしまいそうでした。とにかく恐ろしかったのです。


 後で聞いたことですが王太子は騎士団が調査を終えるまで領主の屋敷に滞在していたそうです。


 気が付けば食堂に居るのはクラムを背中に引っ付けている私だけになっています。皆見送りに出たのでしょう。クラムを背負ったままよろよろ立ち上がり窓から外を見ました。


 馬に乗った王太子と騎士たちがカンランの方向に去っていくのが見えます。村の外側のテントはそのままで大勢の騎士は残っているようです。食事の支度をしているのか火を起こし上に鍋を載せています。ブラウンがたき火に向かって走っていきます。それを修道士が追いかけています。


 


 村の外にテントを張った騎士団は、そこを拠点に村の周辺を捜索するそうです。近くの森に車輪の跡があったのを採集に行って見つけたと村人が申告した為その辺りから調査していくようです。何にせよ村の近くに人買いの通り道があるのは困りますから何とかして欲しいものです。

 

 

 シスターテレサに部屋に来るよう呼ばれました。先ほどまで応接室として使っていたシスターテレサの部屋です。

 ノックして部屋に入ると執務机に着席しているシスターのシルエットが見えます。途端に王太子がそこに座っていた姿がフラッシュバックしてしまいました。足元がふらつきます。丸テーブルに掴まりました。


「大丈夫ですか?セイラ」

シスターテレサが立ち上がって私に走り寄り肩を抱いてくれました。

「ごめんなさい迂闊でしたね。部屋から出ましょう」

私は頭を振って部屋から出ることを否定します。

「大丈夫です。ここはシスターテレサのお部屋ですから。大丈夫、大丈夫・・・」


 迂闊なのはシスターテレサではなく金髪野郎です。修道院でトラウマを刻まれたら私は生活の場を失うのですよ。王族なんだから平民なんか呼び出せばいいでしょうに。領主屋敷にでも。王都でも。・・・って私王都から追放されていましたね。ついさっきまで。


 などと考えているうちに落ち着きました。シスターテレサにお礼を言います。シスターテレサは私を労わりながら執務机の上にあった袋を取り上げました。


「これは離宮や子爵屋敷のあなたの部屋にあったものだそうです。手紙と暦のようです」

シスターテレサは袋を私の前にあるテーブルに置きました。かなりの重量があるようで丸テーブルが軋みました。

「裁判の証拠書類として使われたものは戻ってこないそうですから全部ではないようですけれど」


 そういえば私の讒訴の罪は冤罪だったことになったのでした。巻物をいただきましたがどこへ置いたかしら?食堂で座り込んだ時には持っていた覚えがあるけれど。もしかしたら床に転がしたままでしょうか?


「失ってしまった記憶は戻らないようですが、これらを読めば少しは自分のことが判るかもしれませんよ」

シスターテレサにそう言われ、私は袋の中を覗きます。

 封筒が何通かごとにリボンでくくられています。適当に取りだしたのはエリザベスという人物からの手紙の束でした。最近の日付です。次に取り出したのはジョージという人物。王太子ですか?手紙をやり取りする間柄だったなんて信じられませんが、妃候補でしたね。私。


「今日は子ども達の面倒をみなくて構いませんよ。顔色が良くないですからこのまま部屋に戻って休みなさい。手紙を読みたいでしょうがくれぐれも無理はしないように」 


 シスターにお礼を言って袋を持ち上げ自分の部屋に行きました。


 袋の中身を全部出してみました。差出人の人物ごとにリボンでくくってあり束の下の方が日付の古いもののようです。机の上に出していきましたが乗り切らずベッドの上にも広げました。


 差出人はエリザベス、マーガレット、ジョージ、ドルマンこれは養父のパトリック子爵ですね。シスターマリア、シスターテレサ、等の手紙は黄ばんでいて最近の物ではないようです。マイクからの手紙が一通ありました。思わず広げて読みました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 セイラへ

 元気ですか。オレは学校が終わったので教会から出ていくことにしました。

修道士の職業を勧められていたけれど冒険者の方が面白そうだったからね。

 この間の手紙に書いてあったセイラの母さんのことだけど何処に行ったのか誰も知らないって。オレも調べたけどわからなかった。力になれなくてごめんよ。

 貴族の暮らしはどうですか?嫌だったら逃げて来てもいいと思う。セイラは魔力がたくさんあったけど魔法を使えるようになった?魔法が使えるようになったらオレ達と一緒に冒険者をやらないか?新人同士でパーティーを組んだ。スミスとゼナってヤツとの三人でだ。あと一人くらいメンバーが欲しい。セイラなら大歓迎だ。


追伸

おねしょは治りましたか?


       マイク


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 封筒を確認するとあて先は何人もの筆跡で上書きされていたので何か所かを経由して王都の子爵邸に届けられているようです。手紙の日付と内容から7年前の手紙です。私は九歳でしょうか。母親の所在を尋ねる手紙への返事のようです。九歳でおねしょはしないと思います。他にマイクからの手紙はありませんでした。


 気になって探してみたのですが母親らしき人物からの手紙が一通もありません。マイクやシスターテレサから聞いた話ではパトリック家の養女になるまでは母親と暮らしていたようなのですが。九歳頃の私はかなり母親を恋しがっていたようで、あちこちに母親の所在について問い合わせているようです。貴族の家での生活が辛かったのかもしれません。






 日付が最近のものだった、エリザベスという人物の手紙を読んでみました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


王城星の離宮 セイラ・パトリック子爵令嬢


 春の日差し麗らかなころ、ようやく寒さも緩んでまいりましたがいかがお過ごしでしょうか。


 手紙をありがとう。婚姻のことで心配をさせてしまったけれど私は大丈夫。帝国に嫁したはずなのだけれど実は夫君と面会できていません。名前すら教えていただいていないのよ。ひょっとすると夫君が誰になるのかまだ決まっていないのかもしれません。帝国は王国のような世襲制ではないので。


 皇帝の五番目の妃殿下が私の後見になってくださったのでこちらでの生活に困ることはありません。妃殿下は王国の出身で陛下の姉君でいらっしゃるの。博識な方ですから心強い限りです。帝国式の流儀など日々学んでおります。


 セイラの加護精霊のことが心配です。私には精霊の姿が見えないので対策になりそうな考えを述べることが出来ません。魔法が使えなくなったというのは厄介ですね。スランプのようなものでしょうか?


 季節は春ではありますが朝晩の冷え込みに風邪など召されませんようくれぐれもお気をつけください。


 帝国第五妃ノ宮 参の離宮 エリザベス・アレキサンドライト


追伸

王宮図書館に資料があるかもしれません。第15代国王の加護精霊に関する記録を探してください


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 追伸は走り書きのようです。インクの色も違うので封をする直前に書き足したものでしょうか?


 エリザベス様って公爵家の方のようです。何通かの手紙を読んでみてわかりました。どの手紙でも私のことを心配してくれています。私だけではなく王太子のことも心配しています。


『ジョージ殿下は頭も人柄も良いけれど心の機微に疎い、だからフォローできるセイラに傍にいて欲しいの』

という一文がありました。これを読む限りでは、記憶を失う前の私は心の動きに敏感だったという事らしいです。今の私はどうなのでしょう?


 エリザベス様には申し訳ないですが王太子殿下に寄り添うことはできそうもありません。




ブクマ、評価、ありがとうございます。気力が湧いてきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ