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調査団

誤字報告ありがとうございます訂正しました<(_ _)>6/3

 修道院に正式な通達が来ました。


 女児を保護した状況を調査するため調査団を派遣する。関係者から直接聞き取りを行うので該当者を修道院に集めておくこと。という内容が記された巻物が届いたのです。カバンの中に入れたままになっている巻物とよく似た外見をしています。


 クラムを保護した時に教会やカンランの自警団でも調査をしています。それなのに今更何の調査をするのでしょう?保護した修道院や治療した教会が疑われているような感じではありませんか?


 そういえば私が断罪された時にも調査は行われていたのでしょうか?覚えていませんけれど。覚醒したとたんに『愚かな!』とか『牢に入れよ!』だとか金髪野郎が怒りの形相で叫んでいました。できればあの部分まで忘れたかったです。


 調査のためとはいえ、金髪王太子が来ると思うと憂鬱で仕方ありません。


 調査団を迎えるため村をあげて清掃に励んでいます。王都から貴い方が騎士団を引き連れておいでになるのですから失礼があっちゃ大変だと大騒ぎです。まるでお祭りの準備のようですね。


 犯罪の調査に来るのだからお掃除してきれいにするのは良くないんじゃないかな?証拠隠滅とか疑われない?と心配になります。でも状態を保存しておけとか指示もなかったそうですし。大丈夫かな?


 さて、当日になりました。


 私たちはきっちり正装して王太子殿下ご一行の到着を待っています。

 正装とはいっても庶民ですから晴れ着を着ているだけです。私はヴィオさんから買ったワンピースに白のエプロンをつけています。シスターテレサはいつも通りの灰色の修道服ですがいつも着ている服よりも生地がちょっと良いようです。孤児院の子ども達にもそれなりに支度をさせています。


 修道院の食堂にはクラムが保護された日に集まっていた子ども達が全員揃っています。皆それなりに良い身なりをして保護者も付いてきています。入学式か発表会のような状態です。


 礼拝堂には村のおじさんやおかみさん方が集まっています。初めて見る顔もちらほらあります。礼拝堂に居るのは呼ばれていない人々なので王太子殿下ご一行が珍しいから見に来ているのでしょう。




 王太子殿下一行は昨日カンランに到着し領主であるクラム男爵の屋敷に滞在。今朝の早い時間から教会と療養施設で聞き取り調査を行っているそうです。


 昼前に騎士団が隊列を組んでやってきました。馬に乗っている大勢の騎士様。乗用型馬車が一台、荷車型馬車が一台来ました。あんなに大勢で来たら村に入りきらないんじゃないかしらと心配になりました。


 集団は村に入る前に馬を止め、村の外の草原で馬を休ませ小型のテントを張ります。


 礼拝堂に集まっていた野次馬なおじさんおばさんが外に出て来て騎士団が作業する様子を眺めています。


 シスターテレサと私はクラムを連れて修道院の外まで騎士団の皆さんを迎えに出ています。

 海老茶色騎士服の金髪男が白銀の鎧姿の騎士を数名引き連れて修道院に来るのが見えました。私たちは平伏します。地面に両膝をつき首を垂れる最上級の礼の姿勢です。クラムにも練習させておいたので上手にできました。褒めてあげなくちゃ。


「よい。面を上げよ」

声が聞こえたので顔を心持ちあげます。間違っても王族の顔を見たりしません。今まで地面を見ていたのを相手の膝がみえるくらいにあげただけです。シスターテレサと練習しましたからね。


「その方が修道院の代表か?」

「はい私が院長をしておりますテレサと申します。こちらの子が保護しましたクラムです。そちらは当院職員のセイラと申します」

シスターテレサの紹介に合わせて頭を下げました。

「うむ。ではテレサ、院内で話を聞こう。そちらの二人は騎士の指示に従うように」


 シスターテレサは王太子殿下を案内して修道院に入っていきます。お付きの騎士を一人を残して建物に入っていきました。残った騎士は私に声をかけます。

「ではこちらに」


 私はクラムの手を引いて騎士の後に続こうとしましたがクラムが動こうとしないので抱き上げて騎士について行きました。


 途中坊主頭の若い修道士と見習いシスターの二人が騎士に先導されて来るのとすれ違いました。修道院を手伝ってくれているカンラン教会の職員です。ふたりとも疲れ切った顔をしています。朝から事情聴取を受け、そのまま騎士団と一緒にここまで来たのでしょうか?お疲れ様です。軽く会釈を交わしました。


 私が連れてこられたのは村の外。騎士団がテントを張った場所です。一つのテントの脇に簡易のテーブルと椅子が置かれています。そこに白衣の男性が腰かけていました。私を連れてきた騎士はテーブルから少し離れた場所に立ち止まり直立不動の姿勢を取ります。


「どうぞこちらにおかけください」

 騎士の代わりに白衣の男性が私に声をかけてきました。私はクラムを抱いたまま勧められた椅子に座ります。クラムは騎士が怖いのか私にしがみ付いています。


「私はアメジスト・アーゲット。医者をしております。そちらの子の症状を診るよう指示されています。ああ、そんなに緊張しなくていいですよ。えーっとクラムちゃんだったかな?お顔を見せてくれるかな?」

 クラムに話しかけますが彼女は私の胸に顔を押し付けています。


「そーかーお顔見せるの嫌かー。なら先に背中を見せてもらおうかな」

そう言いながら慣れた手つきでクラムの服をまくり上げます。クラムの体には無数の傷跡があります。こんなに小さな子に何があったのかあまり考えたくありません。


「なるほど。カンラン教会の医者が言っていたとおりだね。これはこれは。では肩も見せてね」

更に服をまくり上げ肩をあらわにしました。保護してからだいぶましになりましたが彼女は骨ばった体つきをしています。肩の焼き印のような跡が現れました。医師はそこに指で触れながら診ています。


「魔法痕だね。隷属の魔法。ウチでは禁止されているヤツだ。この印は帝国の商人か東の島のシャーマンかな?どっちかだと思うけど詳しいことは帰ってから調べるとして。魔法痕は薬で消せるからね」


 そう言いながら机の上に置いてあった紙にさらさらとメモを取っています。それから薄い紙のようなものを一枚取り出しクラムの肩に載せました。その上から水のようなものを筆で塗り付けます。すると紙の上にクラムの焼き印と同じ印が浮かび上がりました。


「よし型が取れた。では治そうね」

そう言いながら型を取った紙を大事そうにしまい込み、近くの箱の中からいくつかの薬瓶を取り出しました。

「塗り薬で治ると思うんだ」

そう言って瓶の中の薬を小さな容器に移し替えました。

「これくらいあれば足りると思う」


 小さな容器に詰めた薬を少量指ですくいクラムの肩に塗り付けました。クラムがピクリと体を固くしてしがみ付きます。


「ごめんよ。ちょっと沁みたね?ある程度治ってくれば沁みなくなるはずなんだ。沁みてもちゃんとつけてね。そうすれば傷が消えるから」


クラムにそう話しかけて私に向き直ります

「お姉さんは孤児院の人ですね?毎晩寝る前に一回塗ってください。他の傷跡にも効くんですが塗ると沁みるのが難点で。全身に一気に塗るとかわいそうだから少しずつ様子を見ながら使ってください。優先するのは肩の焼き印みたいなところですよ。そこが直ったら他の傷にも少しずつ使ってみてください」


 そう言って薬を渡されました。

「あの、薬の代金はどうすれば良いんでしょうか?」


 魔法痕を消す薬なんて高額な気がします。心配になり尋ねてみました。


「ああ、大丈夫ですよ。薬代まで含めて今回の調査料ってことにしてますから。ご心配なく」


 私は礼を言って薬を受け取りました。


「あとねぇ、クラムちゃんに聞きたいんだけども。どっちの方向からここに来たのかな?わかるかな?」


 お医者さまは優しい声でクラムに話しかけますがクラムは顔を上げません。調査には時間がかかりそうです。

 

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