表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/47

迷子とスライム拾い

 朝食の後片付けをします。魔法でパパッと済ませれば早くて便利ですが、それでは子ども達が仕事を覚えません。子ども4人で役割分担しながら片づけています。炊事場には水を出す魔道具が設置されていましたから井戸から水を汲み上げる必要はありません。小さな子に重労働はさせませんので大丈夫です。


 後片付けが終わる頃、若い坊主頭の修道士と栗色の髪を束ねた見習いシスターがやってきました。マスカット修道士とヘレンさんです。挨拶し仕事の打ち合わせをしました。彼らは保育士兼教員の仕事をするためカンラン水の女神教会から通っています。徒歩で通勤しているそうです。


 食器洗いを済ませた子達が食堂に戻ってきました。日中は食堂を教室として使います。通いの子ども達もやって来ました。通いの子は入り口の籠から自分の名前が書いてある木札を取り出し丸テーブルの上に並べて置きます。こうやって出席を取っています。


 出席札が八枚並べてありました。村の子が5人カンラン方面の開墾地から来た子が3人です。一人ボロボロの垢じみた服を纏った子が扉の脇に立っています。この子の札がありません。見習いシスターのヘレンさんが優しく声をかけました。


「名前は?どこから来たのか言えるかな?」

「クラム。あっちから来た」

子どもはそう言いながらカンランでもなく村でもない方角を指さしました。村に住む身なりの良い子が代わりに答えます。

「朝、柵の側にいたんだ。お腹が空いてるって言うから連れてきた。シスターに『困っている人を助けなさい』って教わったから」


なるほど。迷子ですね。


「まずは清潔にしましょう」

と申し出でました。外に連れ出し洗浄の魔法をかけます。汚れは落ちましたが服がボロボロです。子ども部屋へ連れていき服を見繕います。


 子ども部屋には寄付された古着やスモックなどが仕舞ってあります。その中からサイズの合う服を選び着せました。裸にして分かったのですが女の子でした。右肩の後ろ側に焼き印があり顔や手足には沢山の傷がありました。私の魔法で傷は塞がりましたが焼き印の跡は治すことができません。かわいそうですが。


 着替えを終わらせて迷子のクラムを連れ食堂に戻ると子ども達は擦り切れた教科書や石板石筆を使って勉強をしています。


 クラムには隅の席を与え、食糧庫からパンを出し水の入ったコップと一緒に渡しました。彼女は奪うようにパンを取るとガツガツ食べました。よほどお腹が空いていたのでしょう。


 シスターテレサの執務室へ行き迷子の保護と現在の状態を説明し今後の処遇を相談しました。


「街の外から来たとなると苗床になっている心配がありますね。ここに住む子達の安全も考えなければなりません。一旦教会で預かってもらいましょう」


 シスターテレサはテキパキと指示を出します。カンランの教会には病人の収容施設が有るそうです。坊主頭のマスカット修道士が村長の家から荷車を借りクラムを乗せて施設まで連れて行きました。


 その後は私も子ども達の勉強をみて過ごしました。


 昼になり、弁当を持ってきた子はそれを食べ、孤児院の子と弁当を持たない数名の子は食糧庫のパンを分け合って食べます。大人も同様です。


 午後はスライム拾いに行くと言っています。子ども達の数少ない現金収入の一つなのだそうです。孤児院のトムとハンク。村の子が一人。カンラン開墾地の子が2人行くことになりました。私と見習いシスターのヘレンさんで引率します。シスターテレサは修道院に残る子の世話をします。


 トムとハンクが物置から竿や網を出し同行する子に手渡します。バケツなども出し木製の手押し車に乗せました。トムが手押し車を押し、他の皆と連れ立ってカンランの開墾地に向かいました。開墾地はカンラン下水場の水を利用しているそうです。


 下水は石壁に開けられた穴から外の汚水池に流れ込んでいます。ひどい匂いがする場所です。この池では生きの良いスライムが下水を食べて繁殖しています。


 スライムは池の中だけでなく下水道の中にも住んでいるそうです。汚水を飲み込んで茶色くなっていますが色が濃いものほど元気なのだそうです。


 汚水池に溜まった水はスライムによってある程度綺麗になり二番目の汚水池に流れ込みます。ここにもスライムが居て貪欲に汚水を飲み込んでいます。二番目の池で水はだいぶ綺麗になり三番目の汚水池に流れ込みます。


 三番目の池の水はほとんど澄んでいます。この池にもスライムが居ますが色がなく透明です。弱ったスライムが透明になって三番目の池に居るのだとトムが言っています。元気なスライムはたとえ三番目の池まで流されても餌を求めて前の池まで戻っていくのだとか。

 死んでしまうと白くなって浮き上がります。


 死んだスライムを拾ってスライム粉末を作っている職人のところまで持っていくとお金がもらえるそうです。


 高分子吸収体もどきのスライム粉末はここが産地でした。


 


 池の周りには人が誤って落ちないように木の柵が取り付けられています。その柵の隙間から長い竿を突っ込みスライムの死体を引き寄せ網で掬い上げます。かなりの数のスライムが白くなって浮いています。そのままにして置けば鳥の餌になってしまうとトムが言っていました。


 子どもが作業に入る前に柵がぐらつかないか調べました。落っこちたら大変ですからね。男の子たちは器用に竿を操ってスライムを手繰り寄せます。網を持った子が池から掬い上げ手押し車の上に置きます。木製の手押し車の隙間から水がぽたぽた垂れています。水を含んだスライムは重いのでこうして少しでも水分を抜くのだとか。


 一時間ほどで手押し車一杯のスライムを拾いました。


 さて、そこからが大変でした。スライムを載せた手押し車は重いのです。子ども達は交代しながら職人の所まで運びます。私も交代したいと言いましたが

「セイラは引っくり返しそうだからだめだ。スライムを土で汚すと買ってもらえなくなる」

と断られてしまいました。職人のところに行くのに一時間ほどかかりました。


 手押し車一杯のスライムは銅貨10枚で売れました。5人の子どもは一人銅貨2枚を手に入れて喜んでいます。重労働の割に見合わない対価だと思いましたが子ども達は喜んでいるから良いのかな?


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ