恋したの?変だと思った
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何事もなく一夜明け、カンランに向けて出発します。
どうしたのでしょうか?マイクさんを見ると妙に心臓がドキドキします。うっかり目が合うと頬が熱くなります。困りました。旅に支障が出てしまいます。
出発までは穴を埋めたり荷物を纏めたりと仕事があったので何とかなりました。馬車に乗ったらどうでしょう。御者台に座るマイクさんの背中が見えます。進行方向だからどうしても目が行ってしまいます。荷台の上で一人モジモジしています。
「どうしたのよセイラ。昨夜マイクと何かあった?」
「ヒッ!」
「良い雰囲気になっちゃったとか?」
ヴィオさんに急所を一突きされました。ううう…。やめてください恥ずかしくて声も出ません。息もできません。死んでしまいそうです。
「たき火を囲むとロマンチックな雰囲気になるものね。何があったの?セイラ真っ赤になって!可愛い!」
ゼナさんまで揶揄ってきます。私は熱くなってしまった頬を両手で隠します。
「ねえねえマイク。昨夜セイラと二人で何を話したのよ?告白でもしたの?」
ゼナさんは矛先をマイクさんに向けました。
「一緒に冒険しないかって誘っただけだ。セイラの戦力は欲しいだろ?ゼナだって」
マイクさんは前を向いたまま返事を返します
「えー。そういうのはメンバーに相談してからだよね。私聞いてないよぉ。マイク何か焦ってる?。本当は二人で話したかっただけじゃないの?」
「治療してもらった礼を言いたかったんだ。恩人だからな。勧誘はちょっと早まった。悪かった」
マイクさんはぶっきらぼうな口調で返事をしています。
「あれあれぇ。マイクの耳が真っ赤だよぉ。ちょっと振り向いてごらんよ。顔見せなさい」
「ええええ。これはひょっとして、ひょっとしてる?やだやだぁ!お互いに意識しちゃってる?」
ゼナさんとヴィオさんが面白がって揶揄うものですから、私の頭は沸騰してしまいました。何とかして頭を冷やさなきゃ『そうだ水でも被れば…』
と考えたところで魔力を暴走させてしまったのだと思います。
《あらあら不思議。頭の上に水が集まって荷馬車の上に降ってきます》
精霊の声が聞こえて荷台の上に水の塊がザバンと落ちてきました。馬車の重量が一気に増えた為、馬はたたらを踏んで立ち止まりました。
「えほっ!げほっ!」
笑っていたゼナさんとヴィオさんは水が口に入ってむせています。
「ごめんなさい。ごめんなさい。わたし、自分の頭を冷やそうと思っただけで…。巻き込んじゃってごめんなさい」
《そしてたちまち乾いてしまいました》
皆をずぶ濡れにしたことを謝りながら乾燥の魔法を使いました。
「ゼナ、揶揄い過ぎだぞ」
マイクさんが後ろを振り向いて言いました。目が合いました。マイクさんは口元を綻ばせます。白い歯がキラッと眩しいです。再び前方を向くと馬に合図を送ります。馬車は動き始めました。
「確かにセイラのことは気になってるさ。まだ話したいこともあるからな」
前を向いたままマイクさんはそう言いました。
旅は恙なく進みます。何度か魔物に襲われたりもしましたが護衛二人で問題なく撃退し昼過ぎにはカンランの街が見えました。
カンランは石壁に囲まれた街です。ただ王都のような厚みのある壁ではありません。街道の先には街へ入る門があり人や馬車が列を作っています。それほど長い列ではありません。馬車が五台程並びその間に人の姿がちらほら見えます。
門番が身分証の確認をしています。
「被り物は取っておいてね。人相改めがあるから。通行税が銀貨一枚かかるはずだから身分証と合わせて用意しといてね」
ゼナさんが声をかけてくれました。
「護衛の通行税は私たちで払うの?」
ヴィオさんが聞いてきます
「取らないはずよ」
ゼナさんが答え、後をマイクさんが続けます
「護衛には通行税がかからないんだよ。そういう決まりだ。たまに欲深い兵士がいて『護衛の分はどうした!』って商人や乗客を脅すらしいね。自分の懐に入れるために」
それを聞いたヴィオさんがぷくっと頬を膨らませました。
取られたことがあるんですね?
私たちの順番が来たので被り物を外して馬車から降ります。マイクさんは馬の手綱を引いて門をくぐります。門番とは知り合いのようで親し気に言葉を交わし荷台のチェックも軽く一瞥しただけで終わりました。ヴィオさんは慣れた様子で身分証と銀貨を差し出します。
「ようこそカンランへ」
門番は軽く会釈してくれてヴィオさんも通過します。私もヴィオさんの真似をして身分証と銀貨を差し出します。門番は身分証と私の顔をじっと見てきます。
「セイラさんですね」
門番が名前を呼んできました。なにかまずい事でもあったでしょうか?
「修道院の方が心配して毎日『セイラという娘は来なかった?』と聞きに来るのです。無事でよかった。はやく顔を見せてあげてください。ようこそカンランへ」




