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追い出されました

誤字報告ありがとうございます訂正しました<(_ _)>5/29

 牢屋から出て石の階段を登ります。王命を告げに来た騎士は先に階段を登って行ってしまいました。牢に入れられた時のような手枷が無いのでだいぶ楽に歩けています。それでも騎士の足には追い付けません。


 石の建物から出ると先程の騎士が居ました。私が出てきたばかりの扉から5メートル先、塀を背にして立っています。朝日が空を白く染め始める時間です。『こんな早朝からお勤め大変ですね』と労ってあげたいところですが騎士は怖そうな顔つきでこっちを見ています。質問したいことも山ほどあります。でも話しかけられる雰囲気ではありません。


 いったい私は何をしたのでしょうか?讒訴(ざんそ)の罪を犯したと告げられたのですから嘘を言って誰かを貶めたのでしょう。いよいよもって「ざまあ」路線を走り出したようです。昨晩より前の記憶はこれっぽっちも無いのですから勘弁して欲しいです。


 騎士は私に背を向けるとガチャガチャと音を立てて何かを始めました。あら、そんな所に扉があったのですね。人一人がやっと潜れるほどの大きさです。扉を開いた騎士は出て行けと顎をしゃくって見せました。言葉を交わす価値もないと示されているようで寂しいです。


 塀の外に誰かが迎えに来てくれてますか?家族を呼んでもらうことはできますか?そういった話をしたいのですが駄目なようです。一人で追い出されても困ります。家の場所を覚えていませんから。知り合いの記憶もありませんから。


 扉は小さい割に厚みがあるので驚きました。此処は王城の外塀なのでしょうか?質問したくても騎士は早く出て行けという目つきで睨んでいます。仕方ありません扉を潜ります。待ってましたとばかりにたちまち扉は閉められました。


 塀の外には誰もいませんでした。私一人です。


 どうしましょう


 夜明けの空気が冷たいです。私のドレスは袖なしで胸は広く開いています。これではとても寒いです。スカートの丈は長いですけど纏わりついて歩きにくい作りです。デザイン重視で機能性に欠けた夜会服なんかを着て早朝からうろついていたら不審に思われます。遊び人が朝帰りしているようではないですか。今のところ見ている人はいませんが恥ずかしいです。


 塀の外は見晴らしがいい高台でした。眼下に広がるのは貴族街でしょうか?このうちのどれかが我が子爵家なのでしょう。王命を賜ったから既に差し押さえられているのかも知れません。家の場所すら覚えていないので確認できませんけど。処分を言い渡された時に聞いたドルマンという人が私の父親ですよね。記憶に無くて困ります。助けに来てもらっても顔すら判りません。


 王城から追い出され住所不定無職になってしまいました。こうなってしまった以上何とかして自分一人で生きていかなければなりません。私が今持っているのは着ているものと騎士から渡された巻物だけです。生きていくために着ているものは売りましょう。食べるためにも移動するためにもお金が必要ですから。まっすぐ歩いて行って一番最初に見つけたお店に入ることに決めました。




 決意を固めてから10分程経過しました。足が痛くて泣きそうになっています。ハイヒールが石畳の隙間に挟まって足首をグキッって捻りました。靴の中はマメだらけになっている感じです。座りたくてもよさそうな場所がありません。石畳の上にはちょくちょく大きな汚物が落ちているのです。馬糞でしょうか?臭いです。ハエがたかっていて気持ち悪いです。ここは貴族街だと思うのですが割と不衛生な街です。


 後方からガラガラと音がしたので振り返ると荷車を引いた少年がやってきます。私は荷車の邪魔にならないよう、馬糞を避けながら道の端に立ちました。


「すみません、ちょっとお尋ねします」

 少年が通り過ぎる前に声をかけました。足が限界でこれ以上歩けそうになかったからです。馬糞の上に転ぶ前に何とかしなければなりません。相手は子どもですが初対面の人と会話するために勇気を振り絞りました。


 少年は貴族屋敷に食料品を運んできた帰りなのだそうです。お店に帰るところだとか。少年が働いているお店まで荷車に乗せて行って欲しいと頼みました。


「うへえ、嫌だよ。荷車に余計なものを乗せると叱られるもの」

「余計なものではありません。私はお店の客ですよ。お店に用事があるのです。お客を粗末にすると叱られますよ」


 純朴そうな少年を言いくるめて荷車の隅っこに乗せてもらいました。昨日までの記憶がなく少年に声をかけるのにさえ勇気を振り絞っていた筈でした。いざ会話を始めたらどうでしょう。自分でも引くほどの押しの強さで少年を丸め込む事に成功していました。やっぱり私って悪女なのかもしれません。


 貴族街を通り過ぎ、荷車は商店街に入っていきます。早朝ですが大勢の人が忙しそうに歩いていました。荷車や馬車とすれ違います。人々が物珍しそうに私を見るので恥ずかしいです。


 荷車はそこそこの間口があるお店の前に止まりました。ダース商会という看板が掛っています。少年は私の前にやってきて手を差し出します。荷車から降りるのを手伝ってくれているわけではなさそうです。チップを要求されていました。そうですか少年も割としたたかでした。


 とはいえ私は無一文なです。どうしましょう。下を向くとドレスの胸を飾っているコサージュが目に留まりました。貧乳をごまかすために縫い付けたのであろう飾りです。糸を引き抜けば取り外し出来ましたから壊さないように慎重に外して少年にあげました。チップとしては充分だったらしく今度は荷車から降りるのを手伝ってくれました。


「番頭さん!お客さまを連れてまいりました」


 少年はお店の中に向かって声をかけます。お店の中から年配の男性が出てきました。ポッコリ出ているお腹の具合がいかにも商人らしい風情です。髭は綺麗に剃っていますが頭髪はまばらに生えています。髭と一緒に剃り落とした方が清潔に見える気がします。余計なことだと思うので言いませんけれど。


「ドレスを売りたいのです。買い取ってもらえませんか」


お店の前で貴族っぽいお辞儀をしてから私は用件を述べました。

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