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冒険者

 スイバ村に滞在して三日たちました。


 ゼナさんとヴィオさんは私に近寄ってくれません。会話はしてくれるのですけど。

「どうして私から離れるんですか?」


 三人で生活をしているのです。のけ者にされているようでストレスを感じます。


「えー。だって怖いじゃない。何となくだけど感染(うつ)りそうで」

 ヴィオさんがきまり悪そうに言いました。感染(うつ)るって?やっぱり小鬼は超大型ウイルスだったのですか?


 ちょうどお医者様が診察にいらしてたので尋ねてみました。お医者様は毎日欠かさず様子を見に来てくれます。白髪をひとまとめにして首の後ろで括り白いローブを纏っています。日に焼けた皮膚は健康そうで笑った形に皺が刻まれている優しそうな女性です。顔はお年を召しているように見えますが骨格がしっかりしているのか足取りも身のこなしも若い人に引けを取りません。


「苗床になっていたとしても人から人へは感染(うつ)らないよ」

 お医者様は私たち三人の熱を測ったり口の中を覗き込みながら返事を返してくれました。割とラフなものの言い方をする方です。

「ヤツらは他の生物の粘膜を狙って苗を植え付ける。一番狙われやすいのは口。次に狙われるのが女性器や腸かな。頭部を狙って来るけれど反撃を食らうと下腹部に狙いを変更するらしい。女や子どもは弱そうに見えるから狙われやすい。だけど男だって苗床にされることはあるから注意するべきだ。森に入るときには顔を覆ってズボンを履いて下履きも丈夫なものを着用した方がいい」


 山に入った時、頭にストールをグルグル巻きつけておいて良かったと思います。これもダース商会のマーサさんに感謝ですね。手紙を書く時に付け加えることにしましょう。ちなみにスイバ村に来てからはストールを被っていません。暑いので。


「今日で三日目だけど全員異常なし。苗床にはされていないと思う。でも規則だからあと七日は此処にいてね。万一熱や痛みが出たら柵のところの見張りに言って。すぐに来るから」

 お医者様は診察を終えて小屋から出ていきました。


「大丈夫だったみたいね」

 ゼナさんが私を見ながら言いました。その後は近づいても避けられなくなりました。


「あと七日も此処でじっとしているなんて暇すぎる!」

ヴィオさんが文句を言っています。初日や二日目は疲れが出てグッタリしていたのですが、さすがに三日目になると暇で仕方ありません。柵の内側なら家から出ても大丈夫なのでゼナさんは体術のようなことをしています。私とヴィオさんはゼナさんに体術を教わることにしました。盗賊の一人に見事なボディーブローを食らわせていましたからね。


 ゼナさんには水魔法も教わりました。盗賊の顔に水の球をくっつけた魔法だとか治療魔法などです。私が洗浄を使って見せたのがきっかけですが

「あんたって風の他に水の加護まで持ってるの?二つも加護を持っているなんて珍しいわね」

と驚かれました。


 ヴィオさんは短剣を使った護身術が使えるそうです。教えて欲しいと言ってみましたが

「使えるといっても素人と大差ないのよ。とても人に教えられないわ」

と断られてしまいました。習う気があるならとカンランにある道場の一つを教えてくれました。ヴィオさんの職業は商人だそうです。王都で流行りの服を仕入れて地方へ持って行って売っているのだそうです。センスの良い身支度なわけですね。荷車に置いてあった商品を奪われたのは痛いとこぼしていました。


 


 隔離されるのもあと二日程になった昼頃

「お客さんだよ」

とスイバの村人が男の人を連れてきました。革鎧を着てブーツを履き腰に剣を装備した若者です。


「よおゼナ!元気そうで良かった」

若者はゼナさんの知り合いのようです。後ろに下がって静かにしていましょう。


「マイク!無事だったの?よかった!他のみんなは?」

「スミスが死んだ。乗客に死人が無かったのがせめてもの救いだったな。そっちの二人は馬車の乗客か?」

「…うん。ヴィオとセイラ」


若者は柵の向こう側からこちらに向けて深々と頭を下げました。


「オレ達護衛が不甲斐なかったばかりに盗賊を追い払えなくてすみませんでした」

 護衛の方々は全部で六人いたはずでした。一人亡くなったのですね。ヴィオさんも私も何も言えなくて若者をじっと見つめるばかりでした。


「そっか…スミス…死んじゃったのか」

ゼナさんは確かめるようにつぶやいています


「そうだ…それで、俺たち規約違反したってことになったんだ。食料は自前で持ち込みそれ以外は食っちゃいけないってヤツ。眠り茸食わされたのがオレ達の怠慢だったってことでな」

「そうだった。断ってるのに断り切れなくなって食べさせられた。なんで食べちゃったかな?いつもなら断れるのに…」


「ゼナも食ったのか?。俺を治療しただろうから食わなかったと思ってた。そうか。なら食わなかったのはオレとスミスの二人だけだったってことになる。オレは真っ先に切られて意識を失くしちまった。スミスは最後まで抵抗していたらしい。巡回の自警団が発見してくれた時にはまだ息があったけど助からなかったって。それでな馬車屋から罰則金が来てる。一人金貨一枚だ。一旦組合(ギルド)で立て替えてくれている」




「わかった。あたしはスミスと一緒に後ろを守ってた。眠かったけどあんたが『襲撃だ』って言ったのは覚えてる。その後衝撃が来て後は知らない。スミスが死んだのはあたしのせいだ。たぶんあたしを庇って…足手まといになっちまったんだ…」

 ゼナさんは肩を落とし泣くのをこらえるように震えていました。


「おっと、乗客の方々に先に言わなきゃいけなかった」

マイクさんは再び私たちの方に頭を下げながら言います。

「他の乗客の皆さんは自警団が協力してくれてカンランの街に到着しています。お二人がカンランに向かうなら俺を護衛にしてくれませんか。金はいりません。自分らの仕事の尻ぬぐいというか、その…けじめをつけたいんで」


 ゼナさんはゆっくりと振り返り私たちを見ました。涙で潤んだようになっていた瞳に力強さが戻ってきます。


「そうだったね。この娘たちと約束していたんだ。ここから出たらカンランまで連れて行くって。マイクも一緒に行ってくれるなら心強いよ。何やってんだいあたし。こんなことでウジウジしてたら冒険者家業やってられないっての」


 後半呟くように付け加えたゼナさんの言葉は自分に喝を入れる為だったのでしょうか?


 こうして私とヴィオさんは二人の護衛に守られてカンランに向かうことが決まりました。





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