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スイバ村

 稜線から見渡す向こうに街が見えました。


 あの街まで行くのに徒歩でどのくらいかかるでしょうか。山を下ってその先にある森を抜けて更に先の平原を渡って。


 今は昼頃です。先に進むなら日が沈む前に森を抜けなければなりません。

 馬車から見ていた森の中は薄暗かったと思います。ここから見える森も同じくらい薄暗いのでしょうか?迷わないように歩けるでしょうか?


 馬車の中で聴いた盗賊たちが騒ぐ声。あれは魔物に襲われていたのですよね?大人数だった盗賊たちでも襲われたのです。私独りで森に入って大丈夫でしょうか?次々と不安な思いが湧いてきて山を下りるのがためらわれます。


 ゼナさんが言っていたように稜線付近は魔物が居らず夜が明けてからは遭遇していません。ここで助けを待っているという手もありますが食料だってあとわずかです。夜になれば昨晩のように小鬼が来るかもしれません。徹夜の警戒を二晩も続けるのはしんどいです。


 進もうか立ち止まろうか?生き延びるにはどちらを選べば良いのでしょう?


 山を下る決心がつかずに斜面を覗き込んでいると下の方の草藪がガサガサと揺れました。小鬼でしょうか?音が大きくなりました。靴の音とカチャカチャいう金属の音が聞こえます。小鬼は靴を履きませんよね?救助が来たのでしょうか?盗賊が追ってきたということも考えられます。


 いざというときのために風刃を準備して息を殺して待ちました。


 草藪の中から金属の鎧が現れました。鎧も私の姿を見つけたようです。こっちを見たまま動かなくなりました。兜をすっぽり被っているので顔は分かりません。真上の太陽を反射して眩しいです。似たような鎧がもう一つ、更にもう一つ増えました。困ったな。救助でしょうか?鎧型の魔物でしょうか?さらに草藪が揺れ白い服が現れます。


「セイラ!生きてた!良かった!セイラ!!!!」


 ゼナさんです!迎えに来てくれたのですね!信じていましたよ!私は斜面を駆け下ります。


「ゼナさん!ゼナさぁん!」

 勢いよくぜナさんの懐に飛び込みました。ゼナさんがひっくり返りそうになるのを傍らにいた鎧が支えてくれました。


「良かった!本当に良かった」


 ゼナさんと抱きあって喜びます。


 鎧姿の皆さんはアーゲット伯爵領に所属する騎士だそうです。稜線から森に向けての土地はアーゲット伯爵領なのだとか。魔物の多い森の中で魔物除けした常設のテントを拠点にして訓練を行っているそうです。ゼナさんはアーゲット領の訓練場所を知っていたので朝一番に山を下って拠点に向かい騎士の皆さんに救助を要請してくれたそうです。


 ヴィオさんは拠点から麓の村に連れて行ってもらったようです。ゼナさん自身は救助隊を案内して一緒に来てくれました。


「ごめんね。独りにしちゃって。怖かったよね。山頂に近い場所だったら魔物が来ないかもって思ったけど怪我してたり森の中に入ってしまったら小鬼が来るから心配で心配で。でもセイラを助けに行くのはヴィオさんを危険にさらすことになるし。ごめんね。本当にごめんね」


 ゼナさんはとても辛い思いをしながら先に進んだのだとよくわかりました。

『ごめんなさい。私も大声を出せばよかったんです』

って言いたかったのですが、ゼナさんが必死になって謝ってくるので押し負けて言えませんでした。小鬼に襲われたことも言い出せませんでした。


「約束どおり迎えに来てくれて本当にありがとう」

それだけは伝えようとゼナさんに抱き着いたまま言いました。


 救助に来てくださった騎士の方々は早々に下山を促してきます。魔物のいる森で一か所に居続けるのは良くないそうです。私は背負子のような道具に括り付けられ騎士の背に背負われました。救助隊一行は瞬く間に拠点のテントまで移動しました。さらに日が沈む前に麓のスイバ村まで私を連れて行きました。山頂で一人悩んでいたのが馬鹿らしくなるような移動速度で救助が終わりました。さすがに森の中で訓練している方々ですね。


 スイバ村では隔離施設に収容されました。集落内ではありますが民家から少し離れた場所に木の柵に囲まれた家がポツンとあり柵の出入り口には見張り番が付いています。家の中ではヴィオさんが待っていました。私と一緒に来たゼナさんが施設の説明をしてくれました。


「ほら、あたしたちって遭難者でしょう?あの山には小鬼がいるから苗床にされたかもしれないって思われているわけ」

「小鬼になんて会わなかったじゃない。急いでカンランに行きたいのに」

ヴィオさんがため息をつきながら言いました。ゼナさんは上手に小鬼を避けたのですね。昨夜は声を上げるべきでした。つくづくそう思います。


「苗床になったかどうかなんて自己申告だけじゃ信用できないでしょう?スイバ村には治療できる医者が居るから森での遭難者は此処に集める決まりなの。苗床の症状が出ても此処なら早めに処置して命は助かるそうだから。十日程隔離されるだけよ」

「命は助かるって…症状ってどうなるわけ?」

 ゼナさんの説明にヴィオさんが尋ねました。


「えっとぉ…だいたい三日目くらいに症状が出るんだけど熱が出て植え付けられた場所が腫れるの。腫れてくると暴れるくらいに痛むから症状が出れば直ぐわかるって。食い破ってヤツが出て来る前に腫れたところを切り落とせば治るから。十日過ごすのは念のためだって」


 説明を聞いて顔が引きつります。…小鬼の繁殖はホラーな絵面になるヤツでした。


「でもよかった。みんな小鬼に遭遇しなかったみたいで」

ヴィオさんがホッとしたようにつぶやきました。


「えっと、会いました。服破かれちゃって着替えました。あはは」


つい言ってしまった一言にゼナさんとヴィオさんはザザザザザっと後退して私から離れました。


「え?え?撃退しましたよ?精霊の加護と丈夫なカボチャパンツが私を守ってくれましたよ!」


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