移動
前回のあらすじ
盗賊は女が逃げたことに気が付いた。
教会で司祭とシスターが心配している。
セイラはゴブリンに襲われたけれど返り討ちにした。
二体の加護精霊が目の前に現れた。
加護精霊はフワフワと私の周りを漂ったり、スーと離れたところまで飛んで行ったりしています。わずかに発光しているので彼らの姿は良く見えます。精霊同士でのんびりと会話をしています。それが私にも聞こえてくるので会話に参加しようと思うのですが。
《汚いの流れたね》《汚いのもういない?》
「さっきはありがとう。助けてくれたんだよね」
スイー…行ってしまいました。
戻ってきたようです
「名前はあるのかな?」
フワァーと浮かんでいるだけで私の言葉が聞こえている様子を見せません。
聞こえていないのか?無視されているのか?悩んでしまいそうです。
完全無視なのかと思えばそうでもなくて小鬼が近づいてくれば教えてくれます。
《また来たね》《汚いね》《やな奴だ》《やっちゃおー》
加護精霊たちが顔を向けている方向から小鬼が姿を現しました。
《風の刃がスパッと小鬼の首を切り裂きます》
《あらあら不思議。森の中から水が湧き出して汚れをきれいに流します》《そしてたちまち乾いてしまいました》
守ってくれるつもりはあるようなので、とてもありがたいです。
今は夜中の何時ころなのでしょうか?緊張のため眠気はないのですが時々意識が飛びます。すると精霊が
《寝たらだめ》《寝るとあぶない》《汚いヤツいるよ》《まだ近くにいるよ》
と耳元で騒いで起こしてくれました
小鬼は大抵一匹で現れましたが、一度に六匹現れたこともありました。そんな時には呪文?の輪唱が聞こえて小鬼はバタバタ倒れました。毎回洗浄で流してしまうので私の周辺は血の匂いもしません。
夜の風が冷たいです。頭に被っていたストールを広げ体を包んで寒さをしのぎます。服が破れているので着替えたいのですがカバンが何処にあるのか暗闇の中ではわかりません。震えながら夜明けが来るのを待ちました。
明け方まで何匹もの小鬼を倒しました。
ようやく東の空が白み始め小鳥のさえずりが聞こえてきました。あたりは草や低木が倒れ魔法の跡がミステリーサークルのようになっています。自分の体を確認してみると青いワンピースは細切れになっていました。コルセット状の下着とカボチャパンツには綻びも破れもありません。この下着ひょっとしたら防御力の高い装備だったのでしょうか?
朝もやの中を見渡すと割と近いところにカバンが転がっていました。中から流行おくれの服を取り出し着替えます。温かいです。よく見ればこの服も丈夫そうですね。ダース商会に頼んだのは『旅をするための仕度』でした。注文どおりに旅をするのに向いた服を用意してくれていたのでしょう。私の中でダース商会の評価が浮上しました。流行りの服じゃないって不満をこぼしたのは間違いでした。反省します。
携帯食料を取り出して少し食べました。食欲は無いのですが食べないと体力が持ちそうにありません。そういえば長い間トイレに行ってないな…と思いましたが小鬼に襲われた時に済ませてしまった…可能性がありますね。その後『洗浄』で流していますし気にしないことにします。
空がだいぶ明るくなってきました。加護精霊たちの警戒も緩んできたようです。体力の限界が来て倒れるように眠り込んでしまいました。
日差しで目が覚めました。空は青く澄み渡っています。太陽の高さからみて時間はたいして経過していないように思えます。立ち上がると体のあちこちが痛みました。加護精霊の姿は見当たりません。
両掌を器の形にして水を出します。
《あらあら不思議。両掌にお水がたっぷり湧き出しました》
イメージするだけで魔法が使えるようになっています。極限状態に陥ったからかもしれませんし小鬼を倒したのでレベルアップしたのかもしれません。湧いてきた水で口を濯いだり喉を潤したりしてから顔も洗います。
《そしてたちまち乾いてしまいました》
見えてはいませんが相変わらず声が聞こえるので加護精霊は近くにいるのでしょう。昨晩のフヨフヨと浮かんでいた様子を思い出してちょっと楽しくなりました。
山の斜面には昨晩滑り落ちてきた跡がしっかり残っています。それをたどって上に登ってみました。思った程落下していなかったようです。ひょっとしてゼナさんが声をかけてくれている時に私が
『おいて行かないで』
と言っていたら。
『何よ近くにいるんじゃない。早く登ってきなさい』
と返事が来て置いて行かれることは無かったかもしれません。今更ですが。
反省することは多々あります。でもまずはこれからどう動くのか決めなければ。何としてでも生き延びたいですからね。
救助は何時になるのか分かりません。夜になればまた小鬼が来るでしょう。ぬかるみにブーツの跡を見つけました。それをたどればゼナさん達の後を追うことが出来そうな気がします。追いかけていきましょう。
少し上ると山の峰に着きました。稜線には岩場があったり泥濘があったりしますが草や木は無く見通しが良くて歩きやすいです。所々にある靴の跡を手掛かりに進んでいきました。
日差しを遮るものが何もないので暑いです。ストールを巻き付けているので直射日光は防げますが蒸れます。時々水を被ってリフレッシュします。水の魔法が使えて本当に良かったと思いました。休憩時には食料を少しずつ食べたり乾燥スライムを齧ったりしました。半日ほど歩いたでしょうか。太陽が真上に来ています。稜線が終わって山の斜面に続く森の向こうに街が見えました。
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