逃走
本日二話目です
倒した盗賊を茂みの中に隠しゼナさんは走り出しました。私も後に続きます。ヴィオさんが付いて来る気配もします。暗がりに浮かぶゼナさんの白っぽい服装だけを頼りに走ります。
『どうして私はサンダル履きなのかな!』
少し走った頃にはそう思い始めました。草が絡みついたり石ころに躓いたり、とにかく走りにくくて仕方ありません。いつの間にかヴィオさんが私の前に出ています。丈夫そうなブーツを履いていましたものね。先頭を行くゼナさんが時々速度を緩めて追いつくのを待ってくれていますがヴィオさんからは不服そうなオーラが立ち上っています。
『追いつかれたらあんたのせいよ!』
って言われている気がします。実際は逃走を始めてから誰も声など出していませんけど。
しばらく走ってゼナさんが止まります。静かにするように合図し耳を澄ませています。
「追っ手は来ていないみたい。幸い魔物の気配もない。今のうちに峰まで登るよ」
「坂を上がっているような気がしてたけど、なんで登るのよ。沢に沿って下れば人里に付くでしょう?」
「沢に降りると道に迷いやすくなるからよ。このあたりの森には小鬼だっている。稜線に沿って進んだ方が安全なの」
ゼナさんに説得され私たちは再び山を登ります。疲れてしまって声も出ませんがひたすら二人を追いかけます。
「ここから先は足元がぬかるんで滑りやすいから気を付けて」
先の方でゼナさんが注意しています。私はまだ少し下の岩場にいます。あの辺までいったら気を付けるのだなと見当をつけながら進んだはずなのですが、見事に足を滑らせました。転んだ拍子にビリっと服が破れる音がしました。何かにつかまろうとしましたが手は空を掴むばかり。ズザザザザっと滑落してしまいました。
このままでは大怪我をしてしまうと思った瞬間
《あらあら不思議。柔らかな風がまとわりついて体がふんわり浮きました》
風の魔法が発動したようです。一瞬だけ体が浮き滑落が止まります。その後どさっと地面に落ちました。
「落ちたわ!助けないと」
ヴィオさんの声が聞こえます
「だめよ!それに大声を出さないで」
「どうしてよ!」
「追っ手や魔物を呼ぶから大声はダメ。この暗闇で助けに降りて行ったら私たちも遭難してしまう」
ゼナさんの説明を聞いてヴィオさんは黙り込みました。ゼナさんの声が続きます
「セイラ!聞こえてたら其処でじっとしてて。必ず迎えに来るから。明るくなったら捜索隊を頼んできっと来るから待ってて」
ゼナさんの最後の方の言葉は震えていました。そして足音は遠ざかっていきました。




