断罪されました
「ざまあ」されてから復活は可能でしょうか?
そんなことを思ったので試行錯誤してみることにしました。
ハッピーエンドを目指しています。
「何と!何と愚かな!直ちにこの女を牢に入れよ!」
声が響き渡ります。頭にガンガンと響くような大声です。私は床に座り込み冷や汗を垂らしながらガタガタ震えていました。床を見つめていた視線を恐る恐る上に向けていくと凛々しい青年が見えました。
黒のつややかなブーツを履いて海老茶色の騎士服を着ています。錦糸の刺繍で飾られた豪勢な仕立てです。その上房飾りのついたマントまで羽織っています!色白で整った顔立ちに金色の髪。切れ長の青い目は私を睨んでいました。
この青年は誰ですか?怖いのですが。
顔を上げたのが気に障ったのか
「連れていけ!」
と怒鳴られました。とたんに後ろから足音がして腕を掴まれます。肩を捻りあげられたらしくて痛い!痛い!そんなことされたら歩けませんってば。
引っ立てられるという事を初体験していますがこれはとても嫌なものですね。罪人ってこういう目に合うんだなって理解しました。
ところで私は何をしたのでしょう。誰か教えてくれませんか?
正直な話、私を引っ立てている騎士さんに「すみません、私は誰ですか?」ってところからお尋ねしたいのですが、どうもそんな雰囲気ではないので困ってしまいます。
これはアレですか?ラノベとかで流行っている転生とかいうヤツですか?
私は『悪役令嬢』に転生していたのでしょうか?この状況だと物語は終わってますよ。ここからどうしろと?
捻りあげられていた腕は離してもらえましたが手枷を嵌められました。木の板で出来ている手枷は高さと幅があります。そんなものに繋がれた状態で石の階段を下りています。
灯りを持った騎士さんはスタスタ歩いていますけど、私は手枷に遮られて足元が見えません。そうでなくても暗い場所です。しかもハイヒールを履いているので歩きにくいのです。
急階段を手枷つけられて足元が覚束ない状態で下りる私に「さっさと歩け」と言う騎士さん、それ『転がり落ちろ』って意味で言ってます?
もうガクガクブルブルです。
無事に階段を下りた所で見えたのは鉄格子。
言われるまま大人しく入ります。牢に入ったので手枷は外してもらえました。手首がヒリヒリと痛くなってしまいました。
どうやら独房のようです。階段を下りたから地下なのでしょう。同じ形の独房が幾部屋か見えますが人の気配はありません。天井付近に明かり取りらしい窓があります。今は月明かりが差し込んでいます。もちろん格子が嵌っていますし手の届く場所ではありません。牢内は石の壁に土の床です。二畳くらいの個室なのですが椅子もベッドも有りません。
えっと、トイレに行きたくなったらどうすれば良いのでしょう?
此処は何処で私は誰なのでしょうか?情報が欲しくて、まずは着ているドレスを調べてみました。スカートは踝まで隠れる丈のAラインという形でしょうか。すっきりしたデザインでポケットは付いていないようです。スカートを捲りあげて靴下止めを確認しました。ドレスと同じ色をしたおしゃれな靴下止めです。小刀でも挟んであるかなって期待したのに何も見つからなくて残念です。
ちなみにレースの可愛い紐パンを履いていました。これはどうでもいい情報ですね。
それにしても私の着ている衣装ときたらドレスもピンク靴下もピンクパンツもピンクハイヒールもピンク。
ピンク大好きっ子だという情報は得られました。髪は結い上げているので色が分かりません。まさかピンク髪じゃないですよね?
胸の谷間は…可哀そうなくらい貧相でしたので物入れには使えそうにありません。きっついコルセットが苦しいです。外したいと思いましたが後ろの紐に手が届きませんでした。
アクセサリーも身に着けていますが名前が刻まれているようなものはありません。私が何処の誰なのか分かりそうな品は持っていませんでした。
立ちっぱなしで疲れました。冷たくて嫌でしたが地面に座り込みます。気持ちを落ち着けて記憶をさらってみることにしました。
断罪されて投獄される令嬢の話を幾つか読んだ記憶があります。処刑されて幼年期からやり直しという話が多かったような気がします。
やり直しが出来たとしても死にたくありません。やり直しができる保証もありません。
前世の記憶があってその記憶を頼りに危機を脱出するという話もありました。
そういう記憶の欠片とかヒントとかを私は覚えていないのでしょうか?…しばらく考えてみましたがそういった記憶はありませんでした。
どうしましょう?
足音が聞こえてきました。誰か来るようです。コツコツとリズミカルな靴音は監守さんでしょうか?
騎士さんでした。さっき私を引っ立ててきた騎士さんと同じ服装ですが別の人です。手に何か持っています。巻物みたいですね。
騎士さんは私の入っている牢屋の前で姿勢を正し巻物を広げました。
「王命である。控えよ」
朗々とした良い声です。私は両膝をついた姿勢になって頭を下げます。体が自然に動きました。
「パトリック子爵による脱税、横領、娘セイラによる讒訴について処分を言い渡す。パトリック子爵家に与えられていた爵位は剥奪した。今後家長ドルマン及び娘セイラはパトリック姓を名乗ってはならない。パトリック子爵家で所有していた土地、屋敷及び家財は全て国の管理となった。ドルマン及びセイラの両名には王都追放を命ずる。三日以内に王都より去れ。以上」
騎士さんは巻物を読み終えると牢屋の鍵を開け巻物を私に手渡しました。そして顎でしゃくって出て行けと示しています。どうやら私の名前はセイラだと解りました。つい先ほどまでは子爵令嬢だったようですね。
…ちょっとまって、子爵令嬢が悪役になる物語で…ピンクの服着て地下牢に入れられ追放される展開を記憶しているような気がするのですが?…。
ひょっとして私「ざまあ」されちゃった令嬢ですか?
詰みましたね。終わってますよ。私の人生此処までですか?
つたない文章ですがお読みいただきありがとうございます
頑張って続きを書くつもりですが不定期更新になりそうです。




